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消えた弟  作者: しおやき
第二章 承

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蛇の道は蛇 サイド佐藤





誰も周りにいなくなったにも関わらず、警戒心が解けないのは当たり前だ。もしかしたら林が戻って来るかもしれないと、忙しなく車が去って無人になった方向を眺めた。



「・・・ん〜・・個人的には疑義が残りますけど・・・まぁ、そうですね」



本当に橘は、林と奥さんについて何も知らないのだろうか。電話の向こう側で微妙な反応を示す久下さんも実は内心疑っている側の方だったりする。


「この前の本部からの連絡だと、知らないって線が強いって。でも実際のところ五分五分なんでしょ?」



久下さんが朝早くに小ぶりのスイカを持ってきてくれたあの日、本部からのメールを読んで一瞬天を仰いだ理由はこれだった。



2人に関しての確実な裏が取れたという連絡に加えて、橘がこの件について知っているかは本部でも意見がわかれているということ。 とはいえ、この()()()()がはっきりしたからって、こちらが動きやすくなるかと言われればそうでもない。




「・・・はい。今日初めて本人に踏み込みましたけど、いまいちな反応でしたね」


橘と話した時、顔や目つき、体の動きで微妙な反応を読み取りたかったのだが、簡単にそうさせてくれなかった。これ以上は超えてはならないと言われる境界線を、間違えて必要以上に踏み込もうとするとこちらが何か探ろうとしているのが気付かれてしまう。



(・・・思い付く限りでは最後のあの顔だな)



『お前の肌感覚だとどうだ?』

「・・・肌感覚ですか?」

『あぁ。いまいちな反応って言うのはどっちつかずって意味だろ?言葉の使い回しや、動体は忘れてその時の空気はどうだった?』

「・・・・・」

『張り詰めてたのか、変わらなかったのか・・・それとも』



そう聞かれて、思い出そうとした。そして答えが出る前に先に口を開いたのは久下さんだった。


『緩んたのか』

「・・・・」

『どんな感じだった?』

「え〜と・・・」


(緩んだ?・・・どういう意味だ?)





======





「わざわざすいません、うちのこうすけが。助かりました」

「あ、いえ。お気になさらず・・・実はこうすけくんの体調が悪かったのは、この天候のこともあるのかもしれませんが、」


こうすけくんを先に車の中に避難させたのには座らせてあげたかったのもあるが、恐らく彼が居ると橘本人が話してくれないこともあるだろうからと思っての行動だった。


息子が隣りにいると素を見せてくれない。



「面識のない男性に、何かされそうになっていたのでそのせいもあるかと思います」

「・・・面識のない男性?」

「はい。橘さんはご存知ないですか?最近噂になってますけど。ここの地域に住んでない人が彷徨きまわってるって」

「あぁ・・・それは・・知ってますけど」


少し彼の目が動いたけどあとはそのまま。手が顔や体のどこかを触るような仕草もなかった。


「そうなんですね。こうすけくんに聞いたらそんな人知らないって言ってましたけど、彼に話していませんか?」

「話してはいません」


(・・・表情も・・変わらない)


「まぁ・・・不審な人にはくれぐれも気を付けてください。ただでさえこうすけくん達はここで育ってきてるのでそういう人に免疫がないと思いますから」

「・・・ご忠告ありがとうございます・・・・実はこうすけには、その・・・必要ないかなと思いまして、不審者のことについては話してなかったのですが」

「あれ、そうなんですか?」

「えぇ」

「・・・・それはなんでですか?」


疑わしい眼差しを向けるのは不自然すぎる。額の汗を拭くフリをして橘の顔を伺った。


「いや、こうすけは・・・賢い子ですから。危ない場所に1人で行ったりはしないと思っていたので・・・でも予想が外れましたね」





=======





やり取りを思い出してもそんな空気にはならなかった気がする。


「・・・まぁ強いて言うなら最後に少し笑ったぐらい・・・ですかね。注意してないと分からない程度でしたが。あぁ、あと林が橘の奥さんに接触したことは話してません。何かあるといけないので」



揺さぶる意味で話をしても良かったかもしれないが、刺激すると彼がどういう行動を取るのかだいたい把握できる。


(・・・・見た目は落ち着いてわりと優しそうなんだがな)



『ん〜・・・ちとまずいな』

「・・・・彼が笑ったことですか?」

『そうだ』

「・・・・」

『笑ったって、誰のことについて話してる時だった?』

「・・・こうすけくんですよ」


そう答えると久下さんは唸りながらボソっと何かを言った。


「すいません・・・聞き取れなかったんですけど」

『とりあえずこのことは本部に連絡しろ。全部だ』

「分かってますよ・・・はい。それじゃあまた後で」



険しい顔で話しているのが手に取るように分かる。そんな声で久下さんが告げた言葉の意味はだいたい把握したが、橘の動きが読めない以上下手に先手は取れない。



通話が終了したスマホの画面を眺めながら、深いため息をついて流れてくる汗に舌打ちした。


「さっきなんて言ったんだ・・・」



すでに1人殺している彼は次に誰を殺そうが抵抗なくやるだろう。


(そもそもああいうヤツに『抵抗』の文字は存在しないか)











そしてその日の夜、拳銃の使用許可が言い渡されたのは、本部に報告をしてから数時間後のことだった。





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