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消えた弟  作者: しおやき
第二章 承

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36/73

このタイミング



『今どこに居る?』

「・・・今・・・は吉木さんの家の前に」

『吉木さん?』

「うん」

『・・・・・』

「お父さ」

『何かあったのか?』


(知らない?)

 

「ちょっと・・・」

『ちょっとなんだ?お母さんから電話が何回かあったんだが、出れなくて・・・。折り返しかけても繋がらないし、何かあったのか?』

「・・・・」



言うのに躊躇ったが嘘をついてもいいことはないと思い、正直に告げたが妙な間があった。でもそんなこと気にならないくらいに次のお父さんの言葉で思わずホッとして胸を撫で下ろした自分がいる。


『こうすけ』

「・・・・・あの、」


お父さんが電話をしてきたタイミングが気味悪くて嫌な感じがしたけど、理由を聞いて理解した俺。怒ってる雰囲気もなくて、いつもと様子は変わらない。安心してお父さんに何を言おうか迷っていると、隣に居るおっちゃんが俺の目の前で手をヒラヒラさせてきた。


(・・・?)


「なに?」


スマホの画面を耳から離して小声でおっちゃんに話しかける。


「ちょっと、かわってくれる?お父さんに説明するから」

「・・・・え」

『そこに誰かいるのか?こうすけ』


俺だけ小声だったからあんまり意味がなかったらしい。おっちゃんの声に反応したのかお父さんが電話の向こうで喋りだした。慌てて話返そうとすると、おっちゃんにスマホを取られてしまい、そんな彼の行動に俺はあ然としてしまった。



「え、ちょっ」

「もしもし」

『・・・・誰だあんた』

「すいません、佐藤です。こうすけくんとたまたま会って。今、吉木さんの家のとこにいるんですけど」

『あ〜、佐藤さん・・・はは・・・いや、申し訳ない。変な聞き方をしてしまった。お恥ずかしい』

「大丈夫ですよ。それよりも、こうすけくんちょっと体調悪いみたいで。1人で帰れる様子ではないので、もしよかったら迎えに来ていただけませんか」


(・・・・え)


俺のスマホで話しているおっちゃんと、お父さんの声を聞き逃すまいと耳を近付けて集中して聞いていた俺。1人で歩いて帰ろうかと思っていたのに、こんなことを言われてしまったら余計な心配をかけてしまうだけだ。けいすけのこともあるのに正直やめてほしい。



『え、こうすけ体調悪いんですか?』

「はい。熱中症かな、多分脱水症状起こしてるみたいですけど。なので吉木さんの家の前で涼ませてるんですよ」

『あぁ・・・そういうことだったんですか』


(・・・・これ大丈夫なのか?)



理屈的にはとおる言い訳だけど、端折り過ぎて最初から最後まで順を追って話せと言われたら一発でアウトになりそうだ。そもそも家に帰ったはずなのになんでまだ外をうろちょろしてるんだと、お父さんなら考えている気がする。


(相手が俺じゃないから・・・わざと問い詰めないのか)


「はい。なので・・・・もしかしてお仕事中とかですかね?それなら僕が彼を家に」

『いや、大丈夫ですよ。今からすぐに迎えに行きますから。そこで待たせといてください』

「分かりました」


最後にそう言って電話を切ったおっちゃん。

何かを考えている様子で俺にスマホを返してきた。


「はいよ」

「・・・あ、ありがと」

「その状態で動いたら悪化するから、とりあえず迎えに来てもらえ」

「・・・・・」

「あと、お父さんに事情は俺から説明するから」

「・・・でもそれじゃあ」

「ん?」


(けいすけの事は・・・お父さんには流石に誤魔化せない)


お母さんと電話が繋がらなかったと言っていたから、けいすけのことはまだ知らないはずだ。



「え、うわっ・・・なんだよ、いきなり」


おっちゃんは言葉に詰まる俺の頭を突然ガシガシと撫でて、低い声で言った。


「大丈夫だよ」

「・・・はぁ?・・・何が?」

「これやるから。ちゃんと飲み干せ」

「・・・・いいの?」

「ああ」


最初にただ分けてくれたと思っていたペットボトル。

全部俺にくれるという意味だったらしい。


「・・・・・ありがと」



結局お父さんが来るまでにけいすけのことは話せず、頭の中で言い訳を考えては取り消しての繰り返し。絶望的にストレスが溜まりそうなこの待ち時間にもらった飲み物をチビチビ飲みながら自分の感情をどうにか逃がそうとしていた。


(・・・なに、考えてるんだろ)


立ち上がってポケットに手を入れてお父さんの車を待つその姿に特に気だるさは感じられない。



「・・・はぁ」


そしてやっぱりおっちゃんはけいすけのことを俺に聞いてくることはなかった。


「あ、あれかな」

「来た?」

「多分。あの車?」


ゆっくり立ち上がって、おっちゃんの視線の方向をたどると見えた車。俺のお父さんの車で間違いない。


「うん。あれ」

「そっか」


少し離れたところで止まろうとする車に近付きながら手を振るおっちゃんに、お父さんもエンジンを止めシートベルトを外してドアを開け外に出てきた。


「すいません、息子がご迷惑をおかけした」

「いや〜、僕は特に。用事があって来ただけなんですけど、タイミングがよかったです。少し遅かったら取り返しのつかないことになってましたよ」

「・・・・取り返しのつかないこと?」

「そうですね、取り返しのつかないことです」

「・・・こうすけ、お前そこまで我慢してたのか?お父さん朝何も聞いてなかったから」

「あ・・・いや、」



おっちゃん達の会話に一歩乗り遅れて入った俺は、突然のお父さんのフリに少し戸惑って、どもってしまった。


「お父さん、こうすけくんは先に車の中で休ませてあげてください、僕から事情を説明しますから」

「・・・・あぁ、それもそうだね。こうすけ、乗りなさい」

「・・・うん」


ドアを開けて助手席に乗った俺は、閉めずにそのまま。

エンジンが切ってあるから冷房もかからない。座れるだけでもかなり楽だし、もらった飲み物はドアポケットに入れて後にもたれかかった。



(なんか話してる・・・・事情説明ってなに話すんだ)



車の前方で話されてるから会話なんて全く俺の耳に入ってこない。辛うじて分かるのは2人の動く口だけ。お父さんの仕草と表情に特に変化は見られない。おっちゃんが話したあと一瞬お父さんの動きがとまったように見えたけど多分ただの勘違いだろう。


話自体すぐに終わるかと思いきやちょっと長め。いつ終わるのかと思って、軽く目を閉じてウトウトし始めた俺の耳に次に聞こえてきたのは、運転席のドアを開ける音だった。



ガチャと勢いよく開いたドアのほうに、ビクッとして顔を向けると今度は反対側からおっちゃんの声。



「橘さん」

「・・・はい」


お父さんが車に乗り込もうとした時、佐藤のおっちゃんが何故かお父さんを呼び止めた。


(・・・・?)


「なんでしょうか。ちょっと仕事のこともあるので早くこうすけを家に送りたいのですが」


顔が見えないけど何故か少し声のトーンが変わった父親。さっき2人で話していたことと関係があるのだろうか。



「いや、引き留めてしまってすいません。最近・・・・ですかね、こうすけくんとはよく会うんですが、けいすけくんを見かけないなと思いまして。彼は元気ですか?」


(・・・・は?)


「・・・あぁ・・・けいすけは元気ですよ。ちょっと遊び足りないようで今少し外に出かけているようですが」

「そうですか」

「・・・・・・」


(外?)


今?


「もう行きますが、話は終わりでしょうか」

「あぁ、大丈夫です。すいません」

「いえ、こちらこそ忠告のほうありがとうございます。気をつけるようにします。それでは」



お父さんは中にすぐに入って車のドアを閉めて、おっちゃんの返事も聞かずエンジンをすぐにかけた。俺の方をチラッと見て「ドアを閉めなさい」と一言。


言われるがままにすぐにドアに手をかけてバタンと音を立て閉めたけど、窓の外のおっちゃんを見上げると何故か無表情で父親を見ていた。


(・・・・?)



どういう状況か理解できない。なんでこのタイミングでけいすけのことを聞いたのか、俺には一回も聞かなかったくせに。


(なんなんだよ・・・・)

 


車が走り出してしばらく経った時、そのハンドルを握る父親の手に妙に力が入っているような気がして恐怖心から俺は思わず視線を落とした。




カタカタと断続的に鳴る乾いた音が、足元から聞こえてくるのを除けばずっと静かなまま。



「・・・・・」




お父さんが出す雰囲気が、まるで何か聞かれることを遮断しているかのようで、車の中は結局家に着くまで息苦しくなるほどに静まり返っていた。










=========





「もしもし」


車を見送ったあと、外に誰もいないのを確認してから自身のスマホをおもむろにポケットから取り出し、発信のボタンをタップした。耳から聞こえる呼出音は少しだけ流れて、その後電話の向こう側からすぐに聞こえてきたのは男性の声。



「久下さん、佐藤です」



左腕につけた時計を見て、それから手を額に持っていった。



「久下さんの言うとおりでした。今回のアイツ・・・はい、そうです。林隼人・・・彼、単独でうろつきまわってますね」


雨が降りそうで降らない蒸し暑い天候は大人にとってもきついものがある。目に入りそうだった汗を拭って深いため息をついた。



「それにしてもこうすけくんのお父さん、林と自分の奥さんが昔から関係があるの気が付いてないって本当なんですかね」





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