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消えた弟  作者: しおやき
第二章 承

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34/73

見つけなきゃ




「・・・・・」



男の顔を見た瞬間心拍数が上がっていくのが分かる。

頭の中で警報がなるのは果たして何回目か。



(・・・俺のスマホ)



彼の問いかけに普通に答えれば問題ない。

彼がいい人であれば問題ない。

彼の足に傷がなければ、特に気を使う必要もない。



「・・・・あの、すいません。どちら様でしょうか」

「・・・・・・」


差し出された手の内にあるスマホを取ることもせず、俺は男の人の顔を呆然と見つめていた。リアクションもせずに、ましてや動こうともしないそんな俺を見かねた朽木さんが間に割って入ってくれたけど相手の男はまるで無視。



(・・・なんか答えなきゃ)



なんて返せばいい?

薄ら笑いが段々と崩れてきているように見えた視線の先の顔に貼り付けられているのは今どんな顔なのだろう。


混乱してきた頭では視覚から得られる情報をうまく処理することができない。


「・・・・あの、」

「ん?あぁ、すいません」

「失礼ですが、どちら様ですか?」



イライラしていた朽木さん。

あからさまに無視をされたのが気に食わなかったのか、かなり強めの口調で再度目の前の男に聞いた。



「さっきぶつかったんですよ。この子に。それでスマホ落としたから届けに来たっていうだけです」

「あら、そうだったんですね。失礼しました」

「いや、こちらこそ。申し訳ない。ちょっと耳が遠いもんで」


(・・・・は?)



「それにしても、見つかってよかった。どこに行ったのか分からなかったから、近くの民家で聞こうとしたんだけど、君もここに来てたんだね」


耳が遠いと言ったこの男。どうせ嘘だ。

スマホを届けてくれたのはありがたいけど、正直中を見られて困るようなものは何も入っていない。



「・・・・さっきはすいませんでした・・・スマホありがとうございます」

「大丈夫だよ」


ようやく声が出せて、一応お礼は言った。案外すぐにスマホを渡してくれたけど、足の傷がどうしても気になって視線を不自然に下に落としてしまいそうになる。


「あら電話・・・・・ごめんなさい。ちょっと戻らないといけないからそろそろ戻るわね。こうすけくんまたね。けいすけくんによろしく」

「あ、はい。また」


朽木さんから音がなって彼女は電話と言った。でもあれは明らかに電話じゃない。多分吉木さんから助けが必要でそのコールがなったのだろう。どういう理屈なのか分からないが、PHSのような小さなサイズの携帯を取り出して慌てて家の中に戻って行った。



(本当に吉木さん大丈夫なんだろうか・・・一回会いたいけど)



「・・・・君はこうすけくんっていうんだね〜」

「は?」

「いや、名前知らなかったから」

「・・・・・」

「けいすけくん?・・・・っていうのは、」


朽木さんが行く前、まるで条件反射のように弟のことまで聞いてきた。でもそれはここに住んでる人なら皆俺に弟がいるから当たり前の質問だった。



歳が離れてるから皆気になってるのか、一番可愛い年頃だから、ただ顔を見たいだけなのか。そんなのは知ったこっちゃないけど兄弟だからセットで捉えられている。


弟のことをいつも聞いてこない佐藤のおっちゃんのほうが変わってるだけだ。別に聞かれて困るようなことは何もない。



「弟かな?」

「・・・・・」


そう思ってたけど、得体の知らない人に詮索されるのは不愉快でしかない。


(俺の名前は・・・・もう仕方ない)


「・・・こうすけくん?」

「ち、違います」

「違う?」

「はい。けいすけは弟じゃないです。隣に住んでる子です」

「そうなの?」


今までこんなことがなかったから、咄嗟に口から出たのは嘘。どうしようと考えてる暇なんかなくて、弟じゃないと自分の口から発したことに尋常じゃないほどの罪悪感を感じたがこうするしかない。どこに行ったのか分からない弟のことを、もしこいつが知っているとなれば。


「そっか。弟じゃないか・・・」

「・・・・あの、」

「ん?」


お母さんとどういう関係だ?けいすけが話してくれたあのスーパーでの出来事はこいつで間違いないのか?父さんはこのことを知ってるのか?黒木さんも言ってたけど不審な人がいるというのはこの地域で噂になってる。


でも、俺は父さんからそんな話一切聞いたことがない。


(もしかして父さんもこいつと何か関係があるとか?)



だから俺に話さないのか?だとしたらなんで。




『あなた誰ですか』


朽木さんが聞いてくれた質問に対して、よくよく考えるとちゃんとした回答をもらっていない。でも直接的に聞いたところでさっきみたいに誤魔化されるかもしれない。


(かといってしつこく聞いても多分怪しまれる)


さっきの薄ら笑いは何だったのか。

いったいこいつは何者なんだ。



冷や汗が流れて、首を伝う汗を思わず指の腹で拭った。


「大丈夫かい?顔色悪そうだけど」

「・・・・・・」


考えれば考えるほどに不気味な不安が体中を支配して、恐ろしさに喉が渇く。頭がパニックになってしまい、不安が汗となって体中からふきだして、あっという間に脱水症状になりかけてしまった。


立ってるのもやっと。

呼吸も追いつかない。座り込みたくて仕方がない。



(・・・・・)


無意識で極度の緊張状態になった俺の頭は、それでも何かを絞り出そうと必死で動いている。




「あれ・・・・」

「・・・・」



そんな状態の中、また別の男の人の声がうっすらと聞こえてきた。もしかして幻覚なのかとも思ったけど、サンダルが引きずられるすり足特有の音も聞こえる。こっちにむかって来てるのか段々と大きくなってくるその音に俺の前に居た男が振り返ったけど、俺からはその人の姿が見えない。誰なのか分からず、立ってるのがもうそろそろ辛くなって誰かも確認せずに俺は目をギュッと瞑り浅い呼吸をした。



「こんな暑い日に立ち話かい?」



また声がしたのと同時に、近くにいる男から舌打ちのような、二つ折りの携帯を閉じた時のような、そんな短い破裂音が微かに聞こえてくる。



(・・・・・けいすけ)


どこにいるんだ。弟を早く見つけなきゃ、お父さんに怒られる。



「はは、まさか。そんなわけないですよ」

「・・・じゃあこんなとこでなにしてんだ?」



聞き慣れた声がこんなにも安心するなんて、誰が想像するだろうか。


浅い呼吸に、自分の口からやっと出てくれた声はカラッカラの喉を通りすぎて掠れていた。




「・・・・おっちゃん・・・」





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