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消えた弟  作者: しおやき
第一章 起
3/73

物騒な事件





(ん、)


「パパの声?」

「そうそう。行くぞ。多分向こうからじゃあこっち見えてない」 

「そうなの?」

「うん」


こんなとこが死角になるなんて思わなかったなと、お尻についたであろう土埃を払って、けいすけにも立つように促す。


「ほら、兄ちゃんの手握って。車に乗るまでは繋いどけ」

「はーい」



弟の小さな手を握って、階段の付近に居るかもしれないお父さんの場所まで向かった。



「父さん」

「パパ〜!」


ちょうど反対側を向いていたお父さんのその背中に、大きな声で呼びかければすぐに振り返って、走って駆け寄ってくる。


「ごめん、けいすけ見つけた。ちょうど死角にいたみたいで、」

「お前達、大丈夫か!?」



突然の父親の大きな声に身体をビクッとさせた俺は、繋いでいた弟の手が同じタイミングでぎゅっと俺の手を握ったのを感じ取った。


「駄目じゃないか、なんで勝手にお兄ちゃんのそばから離れたんだ、けいすけ。いつも言ってるだろ、1人になってはだめだと」

「・・・・ごめんなさい」


怒鳴られるかと思ったのだろう、ぎゅっとしてきた小さな手はそのままの強さで俺の手を握っている。



「誰かにさらわれて、知らない場所に連れて行かれたらどうするんだ。戻って来れないかもしれないんだぞ」

「・・・・ご、ごめん・・・なさい」

「父さん、俺も悪いよ。目と手を離したから」



これは事実だ。


まだじっとしてられない6歳の子どもに何かを言ったって、素直に言うことを聞ける子のほうが少ないのは大人なら誰でも知っている。


「まぁ、とりあえず反省は帰ってからだ。下まで行こう、車を近くに停めているから」

「・・・ん」

「分かった」



怒らずに、なだめるように言った父親の言葉の重みはまだけいすけには分からないと思う。


「・・・大丈夫だよ、兄ちゃんも悪いから2人で反省しような」

「・・・・うん」


下を向いて身体を揺らし始めた弟は多分拗ねている。



(怒られるかと思ったけど、大丈夫だった・・・)


少しだけホッとして、お父さんの横に並んだ俺達は3人で階段を降りた。






「家に帰ったら、軽くシャワーでも浴びて、少し遅めのお昼ごはんにしよう」

「うん、分かった」

「けいすけも、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入りなさい」

「・・・はい」


(やっぱり拗ねてんのか・・・)




俺たち家族が住んでいるところはかなり田舎だ。



もちろん事件とは無縁の場所。

テレビで報道される物騒な事件はだいたいが都会だと決まっている。


「けいすけ、せっかく父さんがくれた帽子、落とすなよ」

「え〜?」 

「ほら、これ」


「あ〜、兄ちゃんが見つけてくれたんだ!」と嬉しそうにはしているが、なんで落としたのかも理由を言わないままの弟に心の中でため息をついた。




「そう言えば、父さんスマホどうするの?落としたんでしょ?」

「ん?あぁ、それならすぐに見つかったよ。カバンの奥底に入っていたからね」

「え〜、なんだよそれ」

「はは。心配かけたね、ごめんごめん」


(なんだ、警察に届け出なくても良かったな。父さんの言う事聞いといて良かった)




お父さんが停めていた車に乗って家に帰ろうと、車のドアを開けると案の定の状態。


「うわ〜、熱気が・・・」

「中暑いよ〜」

「そうだね、ごめんよ。エンジンは切っておいたんだ。これから冷房つけるからちょっと待ってて」

「はーい」

「けいすけ、乗って。兄ちゃんが閉めるから」

「うん!」



皆で車に乗り込んで車内が涼しくなるのを待つために少ししたら窓も閉め切って、冷たい空気が充満するのを待つ。



「そろそろ大丈夫かな。帰るよ」

「はぁ〜、凉しい」

「お母さんは家にいるの?」

「うん。ご飯の支度してる」

「そっか」

「お昼ご飯なに?」

「さぁ、なんだろうね。帰ってからのお楽しみだよ」

「え〜?じゃあパパ早く帰ろ」


車内も涼しくなり、お昼ご飯の話も出たからなのか弟のけいすけは機嫌も良くなる。


(拗ねる時は意味分かんないのに、機嫌良くなる時は単純だもんな・・・俺もこんなんだったっけ?・・・っていうか反省はどこに行った)


車内で元気になったけいすけが1人でべらべらと楽しくおしゃべりをしていたのを、俺とお父さんは相槌を打ちながら聞いていた。


しばらく車を走らせて、ゆっくりとした坂道を上がると、そこはもう家だ。全く渋滞がない道路だから、一時停止する時といえば信号に運悪くつかまったときぐらい。



「・・・・はぁ〜」

「どうした?」

「いや〜・・・」



家について、車を降りたけいすけは先に家に駆け込んだ。俺はゆっくりと出てからリュックを背負い、ドアを閉める。


「のどかだな〜と思って」

「はは、なんだそれは。おじいさんみたいだな」

「いいじゃん別に」




くだらない掛け合いをしながら、けいすけの後についてお父さんと家に入った俺は、手を洗おうと洗面所に行こうとして足が止まった。



(・・・・・)



洗面所に行くには必ずリビングをとおる必要かある。

だから、いつものように通り抜けようとしたんだけど何故かテレビのニュースが耳に入ってきて、その時だけ足を止めて画面に目をやってしまった。



「・・・・殺人事件って」


(こわっ) 


独り言で言ったつもりが後ろにいたお父さんに聞かれていたらしい。


「都会はやっぱり物騒だな」

「あ、・・・父さん」

「シャワー浴びるんだよな?けいすけも一緒に連れて行ってやってくれないか」

「・・あぁ、分かった」


ため息をつきながら言ったお父さんの言葉の次に聞かれた質問で、シャワーを浴びることがすっかり頭から抜けていたことに気がついた俺は、けいすけを回収しようと片耳だけテレビのニュースを聞きながら、台所にいるお母さんにベッタリな弟を呼ぼうと口を開きかけた。



『続けて次のニュースです。深夜未明の住宅街で男性が殺害され、当時同じ家の2階に寝ていた生後間もない赤ん坊が誘拐されてから、今日で6年が経ちます』


(・・・・殺人と・・・誘拐)


『未だに捕まらない犯人を見つけようと、残されたご家族が街頭で警察と協力をして呼びかけをおこなっ』


「あっ」

「見なくていいから。ここの町とは関係ない。こんなものより早くお風呂に行きなさい。ご飯がもうできるよ」

「・・・・あ〜、うん」


どうしても気になってしまいそのニュースに見入っていた俺は、突然テレビの画面を暗くされて少し面食らう。



(・・・・切られた)



棒読みの返事だけして、確かにお父さんとお母さんを待たせるのは悪いと、すぐに父親から視線を外しさっき呼びかけた弟の名前を口にした。






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