不審者
「たいしたことはなかったらしいけど、怖いわよね」
「吉木さんって、あの吉木さんですか?」
「そうよ。本人はね、大丈夫だったみたい。少し部屋が荒らされてたらしいわ。何か取られたみたいだけどそれが何かは分からないって。もしかしたら何も取られてないかもしれないってのも聞いたけど」
「・・・・・」
「ほんとのところどうなのかしら」
吉木さんはベッドから起き上がれない、自分で動くことができない人だ。何をするにも誰かの支えが必要だから毎日ヘルパーさんに来てもらっている。
「けいすけくんは元気?」
「え?」
「けいすけくんよ、今あなた達夏休み中でしょ?きっと家に居ることが多いから、お父さんも心配でしょうね。こんな事件起きちゃって」
「・・・そう・・・ですね」
なんて答えればいいか分からず、相槌だけ打ったけど内心心臓がバクバクうるさい。
「黒木さんは・・・お散歩ですか?」
「散歩じゃないわ。娘夫婦とね、なんでか連絡取れなくて」
「・・・・・」
「心配になって、直接行ったほうが早いって思ってちょうど向かってたのよ」
「そうだったんですね。引き留めてしまってすいません」
「あぁ、いいのよ。こうすけくんも早くお家に帰ったほうがいいわよ。ここ最近変な人見かけるから」
(変な人?)
「え、すいません、その変な人ってなんですか?」
「ん〜、私達もよく知らないんだけど、ここら辺に住んでる人じゃないらしいわよ」
「・・・・私達って」
「何人か見たらしいんだけど、変よね〜」
そう言って首を傾げた彼女は悩ましい顔で俺を見た。
「全員違うのよ。その人がどんな格好してたかって聞かれて答えた外見が」
「・・・・」
「でも背丈が同じだから同一人物なんじゃないかって」
「・・・それって、」
ひょっとしてけいすけが見たおじさんと同じ人かもしれないと思い特徴を詳しく聞こうとした時、スマホが鳴った音がした。
「あら、ごめんなさい・・・ちょっと」
「あ、いえ」
(格好が違う?・・・・ということはけいすけが描いていたあの黒いぐちゃぐちゃはやっぱりつけ髭か?)
けいすけに描いてもらった絵を思い出していると黒木さんの心配そうな声が聞こえてくる。電話の主は娘さんだ。名前を呼んで胸に手を当てながら少し大げさにため息をついた彼女を見て、特に何かあったわけではないんだと感じ取る。
それから少しまた話をして電話を切った黒木さんは、安堵した表情でスマホをカバンにしまった。
「・・・・ごめんなさいね」
「いや、大丈夫ですよ。よかったですね連絡ついて」
「えぇ、そうね・・・・電話かかってきたから問題ないかなとは思うけど、やっぱりちょっと心配だから家には行ってみるわ」
「はい。もちろんです」
少し急いでいる様子の彼女をこれ以上引き留めるわけにもいかず、また次に会った時に詳しく聞ければいいかと思い嘘をついて見送ろうとした。
「僕ももう家に帰るので、またその話は今度詳しく聞かせてください」
「もちろんよ。でもこうすけくんのお父さんも知ってると思うから私に聞くより早いかもしれないわね」
「・・・・あ〜」
「じゃあ行くわね。変な人見たらすぐに警察に通報するのよ」
「・・・分かりました」
(お父さん・・・が知ってるならその話題も家で出るはずだけど)
何も話題にあがらないし、聞いたことがない。怖がらせないように俺達に言ってないのかとも思うけど本当はどうなのだろうか。娘夫婦の家へ歩いて行く彼女の背中を見つめながら、けいすけを探しに行くため俺は小学校のほうに走って向かった。
「いない・・・」
目的の小学校に着いたはいいけど、けいすけはいない。
裏にも回ってみるけど人っ子一人いる様子も感じられない。
「まじでどこに行ったんだ」
あてもなく探してみても多分見つからない。だからといって弟が行きそうな場所を考えてそこに行ったとして全くの検討違いだったらどうする。
(・・・・・)
無駄な時間を費やしたくないと思い、連絡がきてないか確認するため俺はスマホを取り出して画面を明るくした。




