異変3
「泣いてた?」
「うん」
「いつ?」
けいすけが口を開けて俺の質問に返事をしようとしたその時、タイミング悪くお父さんとお母さんがリビングに入ってきた。
「・・・・」
「兄ちゃん抱っこ」
「はいよ」
「なんだ、またお兄ちゃんに抱っこしてもらってるのか」
けいすけを抱いてかかえたあと、それを見たお父さんが笑いながら言って、お母さんにお昼ご飯の用意を促そうと彼女に視線を送る。
「母さん、お昼ご飯お願い」
「あ、はい・・・今からすぐに支度します」
「・・・・・」
(・・・・お母さん)
家に帰ってきた時は顔が強張っていて少し青白かったのに、リビングに入ってきた時はどうだろう、心なしか今度は焦っているように見える。
お父さんのほうは普通なのに、お母さんの様子は元に戻っていなくて、そんな彼女の声を聞いたけいすけが俺の腕の服をぎゅっと握って胸元に顔を押し付けてきたから思わず背中をさすった。
(泣いてたって・・・どういうこと?)
2人がリビングに入るまでどれほどの時間があったのか、はかってないから分からない。こちらとしてもけいすけに話を聞けたから良かったものの、一体お父さんとお母さんは玄関で何を話していたのだろう。
(いや、まじで知らないおじさんって誰だよ)
それからお昼ご飯ができるまではリビングにみんな居た。手伝おうと思っていたけどけいすけが離れたくないのか俺にしがみついているから無理に引き剥がせない。
仕方なくさっき取りそこねたスマホを持ってそのままソファに座った。
「テレビ面白いのやってないかな~」
「お昼だと、食べ物の番組とかじゃないかな?」
「え~、お腹空くから嫌だ」
「いいじゃないか空いたって。このあとご飯だよ」
「まぁそうだけど」
テレビをつけると旅番組や、歌の番組にグルメの特番をやっている。どれも興味をそそられないものばかりで、お父さんに言われてなんとなくグルメの番組でチャンネルを固定した。見る気もなかったからスマホでネット検索。
「自由研究の課題はどうするんだ?」
「ん~?あ~・・・どーしようかな」
(そういえば、)
「なんかいい案ある?」
「いい案か・・・・お父さんの仕事関係になるけどそれでいいなら」
「うん、いいよそれで」
「分かった」
「ありがと。明日から仕事だよね、どうしようかな・・・明日職場行ったら迷惑?」
「ん~、ちょっと仕事の様子見てかな。また連絡するよ」
「おけ~」
提出できれば正直なんでもいい。
そう思っている俺はあんまり深く考えずお父さんの仕事場に図々しくもお邪魔しようとしていた。
けいすけはつけたテレビに身体をひねらせて見ている。
楽しいから見てるのか、それともただ目を向けているだけなのか。反応も何もなくて、しばらくあやすようにして彼の背中を軽く叩いていると、後のほうからお母さんの声がして、振り返った。
「遅くなってごめんなさい、食べましょう」
「はいよ~」
父さんはダイニングテーブルについていたから、その場から動かず。俺はけいすけをおろしてソファから立ち上がろうとした。
「おーい、けいすけ、起きてる?」
「・・・・ねえ、兄ちゃん」
「ん?」
「お昼ご飯食べたらまたお部屋に行く?」
「あぁ、行こうかな」
「じゃあさ、お話して?」
「そうだな。しよっか。ほら、降りて、イスに座ろう」
「うん」
小さな声で俺に言うのは、多分お父さんとお母さんどちらにも聞かれたくないからだ。
相槌を打つと、素直に降りてダイニングテーブルの席につく。俺もあとに続いてけいすけの横に座り、みんなで『いただきます』をして家族全員何事もなかったかのように昼飯を食べた。
食べ終わってからは、自分の部屋へ。
約束どおりけいすけを連れて行った。
(すげー静かだったな)
ご飯を食べてるときほとんど会話がなかった。お父さんと俺が軽く話す程度でけいすけとお母さんは無言。
庇ってはいたけど母親に突然あんなことされてやっぱりショックだったんだと思った。
「兄ちゃん、お話」
「うん。分かったけど、手もう一回見せてみ?」
「え~、大丈夫だよ」
「なんだよ、兄ちゃんの話聞きたくないのかよ」
部屋についてから、柔らかくて小さな弟の手のひらをもう一度見たくて聞いてみる。だけど話を聞きたいとグズられてけいすけは俺の布団の上でゴロゴロしだした。
(・・・・はぁ)
こうなったら俺の言うことは聞いてくれない。
だから、今日外に出たときに佐藤のおっちゃんに会ってスイカを食ったことと由美子に会って自転車で突進させられそうになったことを話してみた。
「え~、つまんない」
「つまるだろ。ほら手貸せ」
それにしても、なんでけいすけの前に現れるのだろう。もしけいすけと一緒に居たら今度こそ『知らないおじさん』の顔を拝めるのかとそんな変な考えが頭をよぎる。
(・・・危険だな。けいすけ囮に使うとか、兄としてダメだろ)
手を見せてもらい、一瞬スマホで写メを撮ろうとした。
だけどそれも頭からすぐに消え去る。
(こっちも・・・危険か)
なんとなくそうなんじゃないのかなという少し前から感じている嫌な感覚が拭いきれず、結局俺は撮るのをやめた。




