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消えた弟  作者: しおやき
第二章 承

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異変2




お母さんとけいすけが入ってきたのに、お父さんは未だにドアの向こう側を見ていた。



「いや、ちょっとね」

「なんかあんの?・・・・・っていうか母さん大丈夫?」

「え?・・・うん、大丈夫よ。どうして?」


靴を脱がずにお父さんの後ろ姿を見ているお母さんの顔をチラッと見ると何故か顔が強張っている。体調がそんなにすぐれないのかと、小さな声で話しかけたけど返ってきた答えは昨日と似たようなものだった。



「いや、なんか顔色悪いし。昨日の夜から?だよな?お昼ご飯俺が作るから、休んでなよ」

「大丈夫よ。それにこうすけご飯作れないでしょ」

「・・・・・」



力が抜けたような声だけど、図星だから何も返せない。適当にあるもんをフライパンに入れてかき混ぜれば出来るんじゃないかという浅はかな考えは通用しないのだろうか。


「まぁ・・・・作れないけど」

「こうすけ、」

「ん?」

「先にそれ冷蔵庫に入れておいで」

「あぁ、分かった」


お父さんに途中で声をかけられ、お母さんとの会話はそこで終了。言われるがままにリビングへと持って行った俺はその後の2人が何を話していたのかは知らない。






(それにしても・・・相当買い込んだな)


「よっ」


卵と菓子って聞いてたけど、ついでに色々追加したのか相当重い。レジ袋なんて薄くなって今にも切れそうだ。

早く冷蔵庫に入れないとヤバそうなものもあったから、お菓子は避けてそれ以外冷蔵庫に突っ込む。



「・・・お母さん大丈夫かな」

「兄ちゃん~」

「ん?」

「お腹すいた~」

「あぁ、けいすけ。母さんが昼飯作るから、ちょっと待ってな」

「うん」

「ちゃんと手洗ったか?」

「洗ったけど・・・・」

「なに?」

「抱っこ」 

「・・・・また?朝もしたじゃん」



冷蔵庫に入れ終わって、今度はお菓子を棚にしまおうとすこし高めの位置にある扉を開けていると、洗面所から戻ってきたけいすけが俺の足にしがみついてきた。朝よりもグズっていそうなその声色にちょっとだけ嫌になりため息をつこうとしたその時、思わず声を荒げてしまった。



「おい!」

「・・・抱っこ」

「分かったから、ズボン引っ張んな」

「ん~、早く」



(台所でフルちんとかまじで勘弁してよ)


けいすけが引っ張った手に思ったよりも力が入っていたらしい。俺のパンツごとずり下げて下半身丸出しにされるところだった。



「ねぇ、兄ちゃん」

「ん?」

「面白い話して?」

「面白い話?」

「うん。約束した。帰ってきたら面白い話してくれるって」

「・・・・あぁ~」


確かそんな約束したっけと、お菓子を詰めた棚の扉を音が立たないようにゆっくり閉めた。けいすけに視線を向けると何が面白いのか分からないが笑っている。


「あのな、その前にちょっと聞きたいことあるんだけど」

「な~に?」

「買い物に行った時母さんどんな感じだった?」

「どんな感じ?」

「うん。反応が鈍かったとか、気持ち悪そうにしてたとか」

「え~、知らない。分かんない」

「・・・・そっか」


けいすけがせめて中学生くらいになれば母親の様子がおかしいってことにも気が付くかもだけど、流石にまだ6歳。そこをけいすけに確認するのはダメだったみたいだ。


しゃがみこんで目線を弟に合わせ小さな声で喋るが、死角だからお父さんとお母さんがいつ戻ってくるのか見えない。というかそれはもはやお互い様か。



「でもね、知らないおじさんに会ったよ。ママとなんか話してた」

「・・・・は?」

「ママに手引っ張られたからおじさんのことよく見えなかった。でもね、ママの後から覗いたらね・・・フフ」

「なんだよ?」

「頭ポンポンってしてくれた。兄ちゃんがいつもしてくれるやつ」


(・・・・・)



「知らないおじさんって、お前の学校の近くで見た人と同じ人か?」

「うん」

「・・・・・」

「兄ちゃん?」

「その人になんか言われたりした?」

「ん?うん。大きくなったなって。お前のパパは怖いから、ちゃんと言うこと聞かないと二度とママに会えなくなるぞって」


(・・・・は?)


「僕のこと知ってるのかな」

「・・・・」



けいすけが俺に話してくれた内容は、小学校の近くで見た知らないおじさんがお母さんと何か話していたというものだった。


話の内容は分からない。そもそもお母さんとその人の間で会話自体が成立していたのか謎だ。


(父さん達・・・・まだ戻ってこない・・・よな)



「それってどれくらいだ?買い物のあとか?レジとおって袋に入れて店の外に出たあと?」

「どれくらい?分かんない。でもお店の外に出たあとだよ」

「・・・人は周りにいなかった?」

「うん。いなかった」


何かを考えるようにして、首を傾げたと思えばすぐに否定したけいすけは突然大きな声を出した。


「あ!」

「なに?」

「ママの手が痛かった」

「痛かった?」

「うん、見て」


そう言ってけいすけが見せてくれた小さな手のひらには爪の跡が薄っすらと残っていた。


「・・・・・」

「あとね、おじいちゃんとも話したよ!」

「おじいちゃん?・・・・って誰?」

「頭が白と黒の人」

「・・・・ん?」


(いや、意味が分からん)


「メガネかけてる。パパよりも身体大きい人」

「・・・・久下の爺さんか?」


確かにあの人は髪の毛のせいで老けて見えるけど、ガタイからしてもうちょっと若い気がする。けいすけの手を包んで爪の跡を親指の腹でさすりながら混乱しそうな意味不明な情報を整理しようとした。


「爺さんはいつ来たの?」

「ふふ・・・」

「なんだよ」

「兄ちゃんの手くすぐったい」

「我慢しろ、今はもう痛くないのか?」

「ちょっと痛い」


(お母さんがやったんだよな・・・・でもなんで)


ここに帰ってくるまでに時間は経っている。だけどまだあとが残っているってことは相当強く爪を押し付けられたということだろう。



「母さんには言ったのか?」

「ううん。言おうとしたらそのおじさんどっかに行った」

「・・・・そうか」

「で、ママの手が離れたからちょっと大丈夫になった。そのあとにおじいちゃんが来たよ」

「分かった」


このままここで話を聞いても埒が明かないと思い、とりあえず昼飯のあとにちゃんと聞こうと立ち上がった。


「ねぇ、」

「ん?」

「ママのこと怒らないでね」

「・・・いや、怒んないけど、なんで?」

「ママね、なんか泣いてたから」




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