なんでもない日
「卵?・・・って確か夜ご飯に使ってたな」
だからかとは思ったけど、別に卵を使わない昼飯なんていくらでもあるのに、なんでわざわざ買いに行くんだろとスマホの画面を見て頭にハテナが浮かぶ。
「やっぱり帰ったら手伝ったほうがいいかな」
スマホと引き換えにうちわをカバンから取り出して扇ぎながら家に帰った。
「ただいま~」
玄関のドアを開けると、置いてある靴はお父さんのだけ。
お母さんとけいすけの靴はそこにない。
「っていうかけいすけ起きたのか」
起きたというか起こされたのか、もしかしたらお菓子に釣られたのかもしれない。
ドアを閉めて鍵をかけた。靴を脱いで家に上がりリビングに行くと、居ると思っていたお父さんはそこに居ない。
「・・・あれ」
テレビはもちろんついてないし、台所にはお昼の準備をしていた形跡がなくて、流し台には朝に使ったお皿が積み重なって水につけてあるまま。
(なんだこれ)
もしかしてお父さんは先に部屋に戻って、それからお母さん達が出掛けたからお父さんはこの状況を知らない?
でも、家の中でスマホだけで連絡をしてそのままお母さんが買い物に行くなんてこと今までならあり得ない。
自分が話す声以外何も聞こえてこないし、
誰も居ないかのように、人の気配がまるでない。
「どういうこと?」
何気なくふらっと台所の奥に足を進め、そこにおいてある冷蔵庫の扉を開けてみると、無いから買いに行くと言っていた卵は何故かまだあった。
誰も居ないこのリビングの雰囲気が妙に不気味に思えた俺は、スマホでお母さんに連絡をしてみようかと思ったけど、とりあえず先にお父さんを探してみることに。
「え~、勘弁してよ」
うちわはダイニングテーブルに置き、ついでに帽子も脱いでソファに投げた。そのまま2階にかけ上がり、お父さんの書斎へ。
勝手に中は覗けないから、ノックをしようと手を上げる。
(いる気配ないんだけど、いるよな?)
ふと抱いた疑問に一瞬躊躇って、手を止めた。変なとこで止めたからなんだか緊張して深呼吸をしてしまう。さっきのリビングといい物音一つしないこの家に心がざわざわしたけど、お父さんがいるか早く確認しなきゃいけないから、ノックしようと近付けた手でドアを軽く叩こうとした。
ガチャっ
「うわっ」
「ん?・・・あぁ、こうすけ、おかえり」
「た、ただいま。びっくりした」
叩こうとした手が見事にスカって、中から出てきたお父さんにノックしかけた。
「帰ってきてたんだ」
「うん。リビングに誰もいないし、なんか皿とかも流し台にそのままだったからどうかしたんかなって」
「あぁ、もしかしたら何もせずに出たのかも」
「父さん見送ってないの?」
「うん。ちょっと仕事で忙しくてね」
「そっか」
(・・・・仕事)
「調べ物?」
「まぁそんなとこかな。スマホには連絡入ってるからもうすぐ帰ってくるんじゃないかな。お皿洗ってないなら僕が洗おうか」
「あぁ、いいよ。俺がやるわ」
「そう?先に荷物部屋に置いておいで」
「あぁ、うん。そうする」
(仕事で調べ物・・・なに調べてたんだろ)
お父さんが出てくるときに、気付かれないようにドアの隙間から中を少しだけ覗いてみる。
「お腹すいた?」
「ん?いや、まだ・・・大丈夫かな」
「そうか」
(簡単に見えるわけないよな)
お父さんはリビングへ降りて行く。その背中を見送りながら俺はすぐに部屋に戻って荷物を置いた。
(チョコレートは・・・・捨てようか)
スマホとチョコレートを持ってリビングに向かうと、冷蔵庫をあけて中をじっと見ているお父さんの姿が視界に入ってきた。
「・・・・」
「父さ」
「なんだ、卵あるじゃないか」
「・・・・そうなの?」
「う~ん・・・ちゃんと確認しなかったのかな。使い切ったって僕の部屋のドアの前まで来て言ってたんだけど」
「そ、そうなんだ・・・・」
「・・・・」
「母さんもおっちょこちょいだね」
父親の書斎に行く前に冷蔵庫は確認したから、俺も卵のことは知っていた。だけどお母さんの様子が心配でとっさに知らないふりをしたのは、なんとなくそうしたほうがお母さんのことを庇えるかと思ったから。
(・・・・やっぱ家の中でメール連絡してたわけじゃないのか)
「あ、っていうかさ、お父さん昨日の夜どこ行ってたの?休みなのに、仕事で呼ばれたとか?」




