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消えた弟  作者: しおやき
第一章 起
1/73

見知らぬ電話番号




「けいすけ、ゆっくりでいいから、兄ちゃんのとこまで頑張って来れるか」

「うん・・・待って・・ん、よいしょ・・・」



7月も終わりに近づき、本格的に逃げ場がない暑さの夏が始まろうとしていた時、俺と弟のけいすけは、太陽の日差しが直射で照らしているこの長い階段を2人で上っていた。


アスファルトだから照り返しが酷くてなおさら暑い。


そして、階段の両サイドには木が植えてあるが、気持ち程度の高さでほとんど木陰の意味をなしていない。



「お兄ちゃん早いよ〜」

「ごめん、ごめん。ここに来たの久しぶりだから、ちょっと早く上に行きたくて」


弟のけいすけは小学一年生で、6歳だ。

俺が10歳の時に生まれたから、かなり年の差のある兄弟になる。



「頑張れ〜」

「喉かわいたー!」

「ほら、もうちょっとだから」

「うん・・・・おいっしょ」



弟がこの長い階段を一段ずつゆっくり上がって、もうそろそろ俺のとこと同じ段差まで来るその寸前、俺は階段の先にあるものを想像した。


これを見るのは何回目か。

正直、毎年夏にしか来ないから、夏の最初にここに来る時は朧気にしかそれを覚えていない。



「兄ちゃんっ」

「頑張ったな~。ほら、これ」

「キンキン?」

「当たり前だろ。ほぼ凍らせてきたからな」

「え〜、それ飲めるの?」

「大丈夫だよ。ここに来る頃には丁度良く溶けてるから」



「ほんとに?」とだるそうに声を出し暑くて少しばかり機嫌のよろしくない弟は、保冷用の縦長のバッグに入ったペットボトルを手に取り、キャップを開けてすぐに口をつける。


「・・・・・」

「どうだ?冷たいだろ?」

「・・・兄ちゃんこれ・・」

「ん?」



ボトルのお尻を上げて中の液体を飲もうとした弟は、動きを途中で止め不満気に俺に見上げた。


「・・・・中からお茶出てこないよ」

「えっ、嘘だろ」

「嘘じゃないよ、キンキンじゃなくてカチンコチンなんじゃないの?」


そう言って、飲み口を覗き込みながら首を傾げる彼はなんだか少し滑稽に見える。


(父さんと仕草似すぎだろ・・・)


「あ〜、ごめん。ちょっと貸して」

「はい」

「ありがとう。これをこうやって・・・・」


弟から受け取った飲み物のキャップを閉めてから、思いっきり上下に振った俺は中で氷の塊が動くのを感じて、それから弟にすぐにまた手渡した。


「ほら、多分これで大丈夫」

「ありがとう」


唇を尖らせてぶっきらぼうにお礼を言ったけいすけは両手でしっかりと掴んで、俺と同じように何故か軽く上下に振って音を確認。



「そんなことしなくていいから早く飲め。父さんが来る前に上に上がるぞ」

「・・・ん・・・ゴクっ・・・ゴクゴク・・・ぷは〜っ」

「はは、オヤジみたいだな」

「キンキンだ」

「だろ?だから言っただろ。ほら、兄ちゃんがキャップ閉めるから、けいすけはあとちょっと上りきれ」

「は〜い」



冷たいお茶を飲んで元気が出たのか勢いよく足を上げて階段を上りだしたその背中を見つめながら、俺は少し笑った。


「さて、あと・・・15分くらいしたら父さんが迎えに来るな」


スマホの時間を確認して、けいすけの後ろを追おうとお茶をリュックにしまい込む。


「おし」



案の定簡単にけいすけに追いついた俺は、彼と一緒に今回の目的でここから見えるあるものの前まで足を進めた。





「うわ〜、すご~い!!」

「前に出すぎるなよ。ほら兄ちゃんの手ちゃんと握って」


(やっぱりそういう反応するよな)


「凄いだろ、兄ちゃんこの景色、夏になるとあの長い階段上がって毎年見てるんだよ」

「そうなんだ!」



今年で16歳。高校生の俺は人生でこの景色を最初に見た時、自分はどんな反応をしてたっけと思い出そうとしていた。



〜♪〜 


「ん?」


(電話・・・・父さんから?)


「パパ?」

「かもな」


迎えに来ると言っていた父さんは相変わらず過保護な時が多い。もしかして『もう着いたよ』というお知らせの電話かもしれないとポケットからスマホを取り出すと、そこに映し出された番号に俺は首を傾げた。



「・・・・・・」


(・・・なんだこの番号)


「兄ちゃん?どうしたの?」

「・・・・あ〜、ごめんよ、ちょっと待って」

「パパじゃない?」

「ん〜・・・」



知らない番号からの電話なんて初めてだ。

父親からも、登録してある番号以外絶対に出るなと、何故か鬼気迫るような形相で言われてるからその言いつけを大人しく守っているけど、これは果たして出たほうがいいのだろうか。



悩んだ挙げ句、いたずら電話かもしれないがちょっと興味本位で出てみようと思い通話のボタンをタップしてスマホを耳に近づけた。


「・・・もしもし」

「もしもし?こうすけか?」

「・・・え、父さん?」

「あぁ、そうだ。ごめんよ、ちょっとスマホを落としてしまって。今電話を借りてかけているんだ」

「そうなの?」


いつも注意深い父親に、そんなことも起こるんだと少し不思議に思う。



「警察に届け出れば?」

「はは、それがいいかもしれないね」



(っていうか知らない電話に出たこと・・・・怒られるかな)


「あ〜、っていうかごめん」

「ん、何が?」

「あの〜・・・・登録してない番号に出たから」

「あぁ、今回は僕だったから大丈夫だよ。もしまた出てしまってもすぐに切ればいいさ。僕もこんなこと二度としないようにするから」

「・・・・分かった」

「もう頂上には着いた?」

「うん。やっぱり見晴らしいいわ、この景色」

「そうか。良かったね。けいすけは?どんな様子?はしゃいでる?」


(え?)



「けいすけ・・・・・?」

「どうかした?」

「やばっ」


お父さんだと分かって、そちらに気を取られた俺は繋いでいたはずのけいすけの手を離してしまっていたことに今さら気がついた。



「けいすけ!けいすけ!!」



どこに居るのか、周りを見渡してもいない。

あのくらいの年齢だとすぐに何処かに行くからいつも一緒に居る時は目の届く範囲にいるようにしていたのに。



(やばい、どこに行った)


電話の向こう側でお父さんが何か言っている声が聞こえる。俺はそんな父さんの電話に返事もせずに、上がってきた階段の方に焦って弟を探しに行った。




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