ハロウィン番外編
★本編とは季節が異なりますが番外編ということでお楽しみくださいませ★
「ダナン、朝から邸全体が…違和感で溢れているんだが」
執務室にて、いつも通り手紙や書類を運んできたダナンに向かってアルフレイドが尋ねる。
ダナンは少し首を傾げながら答えた。
「今さら気づいたんですか?ハロウィンだからですよ」
「そうか…ハロウィン…って、去年は何もなかったが?」
イールデンの街ではあちこちにかぼちゃが飾られ、ケープやマントを羽織った子どもたちの姿が見られた。それは毎年変わらない。
けれどなぜか今年は公爵邸にまで装飾が広がっていた。
「リネット様に楽しんでもらおうと使用人たちが…」
ダナンによるとアルフレイドにも確認は取ったと言う。
「いつ?」
「初デートの前日です」
「その日は意識が混濁していた」
「はい、その隙を狙って」
別に構わないでしょう? と笑うダナンはどうやら主犯らしい。
アルフレイドだって「それくらい構わない」とは思うものの、疑問は深まる。
「リネットを楽しませたいという気持ちはありがたい。だが、なぜメイドたちが血まみれメイクでミイラやゾンビも歩いているんだ!?使用人の数が多いから不気味なんだ!」
おそらく、早朝に支度をしたときには盛り上がっていたのだろう。
しかし何時間も経てば自分の姿に慣れてしまい、皆それぞれの持ち場でまじめに仕事をしているのだ。
「俺にはわかる。遊び慣れていない人間がこういうことをすると加減がわからず、真っ先に自分が飽きるんだ…!」
「まあまあ、今日だけですから」
ダナンは苦笑いでアルフレイドを宥める。
しかしアルフレイドは険しい顔で続ける。
「こんな異様な邸になるとは……、集団のゾンビを見てリネットが怯えたらどうするんだ!?」
「奥様は楽しんでいらっしゃると思いますよ?」
「なぜわかる?」
「それは──」
ダナンが何か言いかけたとき、執務室の扉がノックされる。
てっきりメイドが昼食を運んで来たのかと思ったアルフレイドだったが、ダナンが開けた扉の向こうからはメイド服を着たリネットが現れた。
「昼食をお持ちいたしました、旦那様」
「リネット!?」
「ふふっ、今日はハロウィンなのでいつもと違う格好をしてみました!……すみません、実はさっきまで甲冑だったんですけれど動きにくくて着替えまして。おもしろくなくてすみません」
「そんなこと気にしなくても……十分にかわいいしリネットが来てくれて嬉しい」
マイラと共に、リネットはテーブルの上に昼食を並べ始める。
準備が終わったのと同時に、リネットの視線がダナンに向かって笑顔で話しかける。
「それ、かわいいですね!黒い猫耳」
「そうでしょう? けっこう似合っていると自分でも思いました」
アルフレイドの最大の違和感はこれだった。
ダナンが黒い猫耳カチューシャをつけたまま仕事をしていたのだ。
「公爵閣下の従者が猫耳をつけているという、世にも指摘しにくいいたずらをしています」
「お菓子かいたずらの選択肢はないのか?」
呆れるアルフレイドだったが、リネットが楽しそうに笑うので今日くらいはいいかと思ってしまった。
「あ、アルフレイド様の分もありますので」
「は!?」
一瞬の隙に、ダナンによって猫耳をつけられてしまう。
「これはさすがに……!」
慌てて取ろうとしたところ、リネットが頬を染めて高い声を上げた。
「素敵です!すごくかわいいです!!」
「え」
「いつもは凛々しいアルフレイド様にかわいさが……!もう少しだけそのままでいてくださいませんか?」
キラキラした瞳で見つめられては、即座に拒否できない。
(あああああこれは騎士の恥とも思えるがリネットが喜んでいるしハロウィンというイベントでノリが悪ければ余裕のない男だと思われる可能性がある……!何が正解だ!?このままでいた方が好感度が上がるのかそれとも……!?)
悩んだ結果、昼食の間だけはそのままでいることにした。




