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告白

困った。言葉が出てこない。

人が両手両足を縛られているのを見るのは初めてで、私にとっては衝撃的だった。


そんな私の気持ちを察して、ダナンさんが少し申し訳なさそうに言った。


「すみません。お見苦しいものをお見せして」


それを受け、アルフレイド様は少し不満げな様子でつぶやく。


「まったくだ」


どうやらアルフレイド様は私に彼を会わせたくなかったみたい。

恨めしげな目線をダナンさんに向けている。


「一応はご本人に確認を取った方がいいでしょう?その方が無駄に嫉妬せずに済みますし」


ダナンさんは呆れたように笑い、そして私に向かって問いかけた。


「リネット様、この男をご存じですか?」


どこかで見た気はする。

私は首を傾けながら、捕らえられている男性をじっと見つめた。

彼は、期待に満ちた目で私の反応を待っていた。


「存じ上げません」


きっぱりと否定する。

私がそう答えると、ヤニクさんはなぜか歓喜に満ちた声で言った。


「ああっ、そんな冷たいところも好きだよ!」


ちょっと気持ち悪いと思ってしまった。

本当に知らないんですけど!?

でもその瞬間、私ははっと思い出す。


「もしかして昨日の……?」


アストン男爵邸にいた人だ!

今ようやくそれを思い出した。


その途端、彼は「リネット!」と叫んで、ぱあっと目を輝かせる。

どうしてそんなに親しげに私を呼ぶの!?

戸惑いは増すばかりだった。


「俺のリネットだ!気安く呼ぶな」


「すみませんごめんなさい殺さないで」


アルフレイド様が彼に剣を突きつけ、ものすごく低い声で怒っていた。


「俺のリネットって……」


こんな状況なのに、思わず頬が緩んでしまう。

ちょっと照れていると、ダナンさんが咳ばらいをして「話を進めてよろしいですか?」と声をかけてきた。


「そちらの方は、昨日お見かけしました。あとは知りません」


名前も、年も、どこの家の方かも何も知らない。

私は正直に知らないと話した。


「そうか」


アルフレイド様は私の答えにほっと安堵の表情を浮かべる。


「よし、処刑しよう」


「ええっ!?」


待って、どうしてそうなるの!?

慌てる私。


「ダメですって」


ダナンさんがアルフレイド様を止める。

グランディナさんがその隙に彼を移動させ、アルフレイド様の手の届かないくらいに距離を開けさせた。


「この男はヤニクといって、君の恋人だと言い張っている」


「え」


私は目を見開いて驚く。

恋人なんて生まれて一度もいませんでしたけど!?

隣にいるマイラも私と同じように驚き、唖然とした様子でヤニクさんを見つめていた。


「昨夜この男はリネットに会うためにこの宿に侵入した。それを俺たちが捕らえた」


そんなことが!?

私が眠っている間に大事件が起きていた。

アルフレイド様が捕まえてくれて本当によかった……!


「取り調べの結果、どうやら『リネット』と名乗る女性と付き合っていたらしい」


「それで私を恋人だと?」


名前が同じだけでそんな勘違いをするの?

さすがにそれはおかしいと思った。


「先月、突然に彼女は姿を消し、ヤニクはあちこち捜していたそうなんだ」


「それはお気の毒ですね」


急に恋人がいなくなったら、おかしくなるのは仕方がない。

私がそう思ったとき、アルフレイド様は少し言いにくそうに口を開いた。


「だが、気になることがあって」


「?」


「ヤニクは、名前だけでなく彼女の容姿も君に瓜二つだったと」


心臓がどくんと鳴るのがわかった。

ものすごく嫌な予感がする……!


アルフレイド様たちは、今日の予定を変更してアストン男爵邸を訪れていたそうだ。ヤニクと『リネット』は男爵邸での舞踏会にも参加していたから。


二人を見たことのある使用人たちは皆「ヤニク様の恋人と公爵夫人はよく似ていた」と答えたらしい。


「もちろん、それが君でないことはわかっている」


「ええ、私ではありません」


私はずっと公爵領にいたのだから、この街で恋人を作るのは絶対に不可能だ。


「そんな!!」


ヤニクさんがすがるような目で私を見る。

でもこの人の捜しているリネットは私じゃない。


可能性があるとすればそれは──お姉様だ。


「ちなみにアストン男爵は何もわかってませんでした」


「えっ」


アルフレイド様の尋問に対し、アストン男爵はこう答えたらしい。


『すみません。若いご令嬢は髪型とドレスが変わると誰が誰だか?』


ヤニクさんの恋人と公爵夫人が似ているとまったく気づかなかったそうだ。


『おまえが社交界でのし上がれないのは間違いなくそういうところだぞ!!』


アルフレイド様は呆れてそう忠告して帰ってきたとのこと。


私とお姉様の見分けがつかない以前の問題で、覚えてもいなかったとは……

全員が苦笑いするしかなかった。


「それはそうと、リネット様。ヤニクの恋人に心当たりがおありですね?」


ダナンさんが同情的な目で私を見ていた。

私は返答に困り、俯いてしまう。


家出した姉が私のふりをしてこの街にいた。

それ以外には考えられない。

お姉様ったら、行方不明になっておいて私の名前で恋人を作らないで!

はた迷惑な姉のことを思うと頭が痛くなってくる。


ただし、本当に問題なのはそこじゃない。


表向きマリアローゼは病で療養中ということになっていて、私が代わりに結婚することで事なきを得たものの、カーマイン伯爵家は王家を欺き公爵家にも嘘をついたのだ。

これは重罪……!


やはり嘘はいつかバレるのね。

アルフレイド様に申し訳なくて胸が締め付けられるみたいだった。


できれば話したくなかった。

だって、いくら政略結婚でも「自分との縁談を嫌がって相手が家出した」なんて聞かされて嬉しい人はいない。アルフレイド様を傷つけたくない。


「リネット様」


マイラが心配そうに私を見つめている。

その顔を見ると、私がしっかりしなきゃと思えた。


ちゃんと本当のことを話そう。

私は顔を上げ、アルフレイド様に向かって言った。


「おそらく……ヤニクさんの恋人は私の姉、マリアローゼです」


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