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気になるおとこ

アストン男爵をひと目見たときから嫌な予感はしていた。

“娘を売り込みたい親の顔”は飽きるほど見てきたからだ。


(ああ、この男もか)


晩餐の誘いがご機嫌伺いだとわかっていても、それがクラッセン公爵領との取引を目的としたものであればまだ対話する気持ちはある。

だが、隠しきれない下心を察した瞬間、アルフレイドの頭には諦めの文字が浮かぶ。


舞踏会やパーティーのたびに令嬢たちに囲まれた記憶は、アルフレイドにとって思い出したくないものばかりだ。


(斬れない相手は苦手だ!)


アルフレイドが遊び人という噂が独り歩きしても、令嬢たちを売り込む親たちの数は減らなかった。


──うちの娘は芸術への造詣が深くて……

──娘の美貌は公爵様にふさわしいかと思います!

──この子はあなた様を慕っています、どうぞどうぞお好きに


(噂を信じているくせに、どうしてそんな男に大事な娘をやろうと思える?)

(今自分がどれほど醜悪な顔をしているか見てみればいいのに)


結果的には、笑みを浮かべながら相手の話を聞くふりをして意識をよそへ飛ばすという方法に落ち着いた。


だからアストン男爵についても、そうしていればやり過ごせると思った。

ところが、いま隣には古城に目を輝かせるリネットがいる。


(俺がリネットを守らなければ!!!!!!!!!!!!!!!!!!)


食堂で待ち構えていたアストン男爵の家族を見れば、ますます身の危険を感じた。

美男美女がずらりと並ぶ様子は、アルフレイドにとって背筋が凍る光景で──

(俺だけではなくリネットにまで得体の知れない男たちを……!?アストン男爵め!!)


貴族の中には、夫婦ともに恋人がいる者も多い。

しかもこちらは『遊び人公爵』と『恋多き女』の夫婦だから、アストン男爵はこんな風に美男美女を揃えたのだろう、ということはすぐに理解できた。


(夫婦そろってイメージが悪すぎる!同じ空間にいても浮気公認なんてどうかしてるだろ!?)


アルフレイドは愕然とし、思わず顔が引き攣るのを感じた。


(いっそ帰るか?いやでもリネットがこの先社交界で何と言われるか……ここはイメージを挽回しておいた方が)


頭の中をぐるぐると色んなことが巡っていく。

そこへ銀髪の女性が近づいてきて、笑顔で声をかけてきた。


「どうぞ、お座りになって?私は娘のイリーナと申します」


彼女が近づいてきた瞬間、リネットの体が強張ったのに気づく。


(俺がこの娘の手を取れば、自分も見知らぬ男にエスコートされるのかと嫌がっているんだな!? そんなことはさせない!)


アルフレイドは即座にリネットを抱え上げ、中央に用意された席についた。

アストン男爵もイリーナも困惑の表情を浮かべているが、そんなことはどうでもいい。


(リネットは俺が守る!)


アストン男爵以外は下がれと命じれば、彼は必死になって娘のイリーナだけは残してくれと懇願してくる。

リネットも平気だというし、そこは渋々譲歩することにした。


あとは軽く食事をして、タイミングを見計らって帰ればいい。

アルフレイドはリネットを抱えたまま、笑みを浮かべた。


しかしここで想定外のことが視界の端に入ってくる。

退席する直前、一人の男がリネットを見て何かをひそかに告げたのだ。


──また会えたね。


(おまえは何者だー!!!!!)


アルフレイドは余裕のある笑みを浮かべながらも、心の中は大荒れになる。

リネットが彼に応えたそぶりはないものの、何か悩んでいるように感じられた。


(知り合いか?まさかかつての恋人か?)


アルフレイドは焦った。


(リネットは噂通りの悪女なんかじゃない。でも恋人がいた可能性は……)


アストン男爵が何か話しかけてきているがまるで頭に入ってこない。


(いやだ……!あの男のことを考えないでくれ!)


とっさにグラスをリネットに差し出し、食前酒を進めて彼女の意識をこちらに戻す。


「食前酒だそうだ」


「ありがとうござ……え?私はこの状態でいただくんですか?」


「夫婦だから」


「夫婦だから?」


(そう、リネットの夫は俺なんだ)


誰にも渡さない。

そう思いながら、妻を支える手に力を籠める。


そしてリネットが食前酒を飲んでいる隙に、待機しているダナンに目だけで指示を送った。


──あの男を追え!

──何で見えてるんですか。視野もゴリラじゃないですか。


呆れた顔をしながらも、ダナンはそっと食堂を出ていった。


「こちら、我が領の名産品の白ワインでして」

「とってもおいしいです」


リネットは白ワインを気に入ったらしい。


「公爵様もぜひ」

「俺は水しか飲まない」

「最高の水をもっと持ってこい!!」


アストン男爵が使用人に命じる。

イリーナはアルフレイドのグラスに注ごうとワインを持っていたが、その手は行き場をなくしていた。


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