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おもてなし

左右均等のデザインに、いくつもの尖塔。

黒い屋根は古き良き時代を感じさせる。


アストン男爵の住む古城に到着した私は、その外観に見惚れていた。


「素敵……!!」


アルフレイド様の手を借りながら馬車を降りると、その雄大な景観にますます圧倒される。


「城といってもすぐに落とせそうですね?」


グランディナさんが不思議そうな顔をする。


「城塞機能を一切持たない、建築物としての美しさや壮大な庭園を持つ城だ。かなり珍しい」


平和な王都周辺ならではの貴重な城だ、とアルフレイド様はおっしゃった。


「ようこそいらっしゃいました!!」


私たちが馬車を降りると、待ち構えていた男性が明るい笑みで声をかけてくる。

白髪交じりに金髪を後ろで一つに結び、中肉中背の優しそうなおじさまといった雰囲気のこの人がアストン男爵らしい。


「はじめまして。私がここを収めるベン・アストンでございます。クラッセン公爵閣下、お会いできて光栄です!」


興奮気味に挨拶をするアストン男爵からは、アルフレイド様に会いたかったという気持ちが伝わってくる。

隠しきれない下心、お近づきになりたい!という気持ちがここまで前面に出ている人は初めて見たので少し驚いた。


「出迎えに感謝します。私がアルフレイド・クラッセン。そしてこちらが妻のリネットです」

「はじめまして」


アルフレイド様に紹介され、私は笑顔で挨拶をする。


「この方が噂の奥様ですか……?」


アストン男爵は私を見ると、困惑した様子でそう言った。

華やかにしてもらったはずなのに、公爵夫人にしては地味だと思われた?


じっと私が見つめ返せば、彼ははっと気づいて笑顔で取り繕う。


「あまりのお美しさに言葉が出ませんでした!さぁ、どうぞ中へ!」


男爵の反応に違和感を抱きながらも、私たちは彼に促され城の中へと入っていった。


向かった先は、大きな扉が開かれた広い食堂。

目に飛び込んできたのは、煌びやかなシャンデリアに美しい花々、音楽家たちの生演奏、

そして────露出度の高いドレスを着た美女と謎のイケメンたちがずらりと並んでいる。


「男爵家一同、おもてなしできるよう精一杯ご用意いたしました!!!!」


「「!?」」


アルフレイド様と私は予想外のことにぴたりと足を止める。

アストン男爵は自慢げに彼らを紹介した。


「私の家族です。皆、お二人と会えるのを心待ちにしていました」


どう見ても本物の家族ではない。

髪も目も背格好もバラバラで、いろんなタイプを集めましたというのがバレバレである。


ああ、これは……そういうことですね!?

美男美女を用意すれば、アルフレイド様と私が喜ぶだろうっていう……。


遊び人公爵、恋多き女の夫婦ですもんね!?

なんてこと!! 夫婦そろってイメージが悪すぎる!


「どうぞ、お座りになって?私は娘のイリーナと申します」


銀髪の美女がアルフレイド様にそう言って近づいてくる。

同性の私から見てもすごい美人で、妖艶な雰囲気だった。


その目を見ればわかる。

この人はアルフレイド様を狙っている!


席へ案内するくらい普通のことだけれど、アルフレイド様がイリーナさんの手を取るのは嫌!でも遮ったら嫉妬深い妻みたいだし……!


私が一人で焦っていると、アルフレイド様が冷静な声で言った。


「リネット、座ろう」


言い終わるのとほぼ同時に、私の体がふわっと浮いた。


「えっ」


上半身がぐらりと倒れ、思わずアルフレイド様にしがみつく。

アルフレイド様は私を抱き上げ、スタスタと中央の席へと向かっていった。


「こ、公爵様?」


アストン男爵やご家族(?)の方も唖然として、私たちに注目している。

そんな中をアルフレイド様は堂々とした態度で進んでいき、私を膝に乗せたままストンと腰を下ろした。


「もてなしに感謝する。──が、あいにく人が多いのは好きじゃない」


「そ、それは」


「アストン男爵さえいれば十分だ……!」


「ひっ!」


すごいわ、アルフレイド様が眼力で男爵を威圧している……!

でもどうして私は膝の上に座ったままなのかしら。

下りようにも、がっしりと腰をつかまれているから下りられない。

この状態はちょっと恥ずかしいんですけれど、と目で訴えかけるもアルフレイド様にはまるで伝わっていないみたいだった。


「さすが危機察知能力が高い」


壁際で立っているダナンさんがつぶやく。


「さあ、食事を始めよう」


アルフレイド様が笑顔でそう告げる。

え?このまま?

このままですか?

私は困惑する。


「わ、わかりました。でもイリーナだけは同席しても!?奥様も私だけでは退屈でしょうし、同じ年頃の娘がいた方がよろしいかと!!!!」


アストン男爵は必死に頼んでくる。

イリーナさんもさっきとは雰囲気が変わり、私に向かって「奥様としゃべりたいです」と頼んできた。


追い出さないで!という心の声が訴えかけてくるようで、とっても断りにくい雰囲気がある。


「わ、私は構いませんよ?イリーナさんも男爵の隣に座っていただいて、はい」


思わずそう言ってしまった。

するとアルフレイド様は低い声で答えた。


「──仕方ない」


「ありがとうございます!公爵様!」


ほっとしたのか、男爵は半泣きだった。なんだか可哀そうになってきたわ。

男爵に命じられて、食堂にいたご家族(?)は残念そうな顔で出ていく。


よかった。

とりあえず一難去った……と思いながら彼女たちを見送っていると、20歳くらいの華奢な青年とぱちりと目が合う。


柔らかな茶色の髪に赤い瞳、透明感のある白い肌。

かわいらしい顔立ちの彼は、私と目が合うとなぜかとても嬉しそうな表情に変わった。


──また会えたね。


唇がそんな風に動いた気がした。


「?」


どこかで会ったことがあったかな?

家からほとんど出たことがないから、男性の知り合いなんていない。


思い出そうとしていると、アルフレイド様が私にグラスを手渡してくれた。


「食前酒だそうだ」


「ありがとうござ……え?私はこの状態でいただくんですか?」


「夫婦だから」


「夫婦だから?」


まさかこれが普通なんですか!?

いやいやそんなはずは……


わからない。正解がわからないわ!

アルフレイド様の膝の上に座り、私は戸惑っていた。


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