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王都へ出発!

西側には、美しい山々。

もうすっかり雪はなくなった緑豊かな山と青い空、澄んだ湖が爽快だ。


私たちは今、クラッセン公爵領を出て王都へ向かっている。

複数の馬車と騎士の乗った馬が列をなし、来た時とは大違いの賑やかさだ。


街を出てからしばらくマイラと一緒に馬車に乗っていたところ、

アルフレイド様に誘われて一緒に馬に乗せてもらったら風がとても気持ちよくてびっくりした。


「大きな湖ですね!」


半年前に通りかかったときは雪に覆われていて、こんなにきれいな湖が見えるなんて気づかなかった。

アルフレイド様は、驚く私に優しく話しかけてくれる。


「アナシーレ湖だ。湖の底が白くて透明度が高いことで有名なんだ。この湖には古代遺跡が沈んでいて嵐が来るとそれが姿を現すらしい」

「古代遺跡!」


ぱっと目を輝かせる私。


「それは伝説の竜騎士が住んでいたというお城ですか!?」

「ああ、そうだ。飛竜に乗ってあの山を越えるためにここに城を築いたと」


城!竜騎士!

本の世界がここにあると思うと興奮せずにはいられない。


「嵐は恐ろしいですが、遺跡はいつか見てみたいです!」


はしゃぐ私を見て、アルフレイド様はふっと笑った。


「リネットがこれほど喜ぶなら、王都へ行くのも悪くないな」


先日、私たちのもとへ届いたのは、国王陛下の生誕祭への招待状だった。

三日三晩にわたり、盛大な宴が開かれるらしい。


──ぜひ夫婦で出席してほしい。

陛下からの直筆メッセージを無視するわけにはいかなかった。

アルフレイド様は「結婚したから一度くらい顔を見せろということだろう」と言い、悩んだ末に今回は参加することに決めた。


生誕祭が毎年開催されていることは知っていたけれど、私は華やかな場は気後れするので一度も参加したことはない。(姉は嬉々として舞踏会に参加していた)


アルフレイド様も今回六年ぶりの参加らしい。


「長旅はつらくないか?」

「はい、平気です」


王都までは五泊六日の旅。

伯爵家の旧式馬車に比べれば四日も早く到着する。


「ただ……もう二度と王都へ帰ることはないんだってそんな覚悟で出てきたのに、あまりにも早い里帰りで戸惑っています」


私は苦笑いを浮かべる。

まさか半年たたずに王都へ帰ることになろうとは思いもしなかった。

あの覚悟は一体何だったのか。


それに王都に滞在するとなれば、気がかりもある。


王都では公爵家のタウンハウスに滞在する。期間はひと月ほどの見込みだ。


「一度くらいは伯爵家に顔を出した方がいいですよね…?」


できれば両親には会いたくないから憂鬱だった。

第一、私が顔を見せたところで喜ばれるとは思えない。


「そのことなんだが……」

「?」


アルフレイド様が言いにくそうに切り出す。


「王都にいる間、カーマイン家には戻れなくてもいいだろうか?」

「え?」


驚いてアルフレイド様の顔を見上げる。


「いいんですか?」

「ああ」


嬉しい。

思わず笑顔が零れる。


でもどうして……?

タウンハウスから出られないくらい予定が詰まっているとか?

私が疑問に思っていると、それに気づいたアルフレイド様が少し慌てた様子を見せる。


「その、えっと、何かあったとき公爵家の方がリネットを守れるから」

「?」


何かってなんだろう?

王都ってそんなに治安が悪かったかしら?


「あっ!もう公爵夫人だから迂闊に出歩けないってことですね?」

「いや、出かけるのは護衛をつければ……」

「?」


彼が何を言いたいのかわからず、アルフレイド様をじっと見つめる。


「誤解かもしれないが、あまり伯爵家には帰りたくないんじゃないかと思って」

「あ……」


アルフレイド様は気づいていたんだ。

私が両親とうまくいっていないってことに。


それはそうよね。

嫁いできたのに荷物はほんの少しで、未だに手紙の一通もない。


「お察しの通りです」


急に居心地が悪くなった私は視線を下げる。

できれば知られたくなかったな、実の両親に愛されていなかったなんて。


私はもう気にしていないけれど、アルフレイド様にどう思われるか?

それだけが気になった。


しばらくの沈黙のあと、彼は少し恥ずかしそうに口を開いた。


「すまない、それは建前だ。……俺がリネットにずっといてほしいんだ」

「!!」


アルフレイド様が?

私と一緒にいたいって思ってくれているの?

本当に?


顔を上げれば、アルフレイド様は少し自信なさげに私を見ていた。

それが堪らなく可愛く思える。


その顔を見ていると、本当に私のことを想ってくれているんだなぁと感じて堪らなく幸せな気持ちが込み上げてきた。


「ありがとうございます!」


私が満面の笑みでそう伝えれば、アルフレイド様もまた微笑み返してくれる。


「そうだ。この先の街には英雄伝を扱う本屋や珍しい素材のある武器屋、それに記念碑とか英雄の墓もあるらしい。王都へ入る前に寄っていかないか?」

「いいんですか?」

「ああ、リネットが楽しめそうなところを調べて──いや、偶然にも耳にして今ふと思い出したから!!」


え?調べてくれたんですか?

わざわざ私のために?

アルフレイド様は否定したけれど、おそらくこの生真面目な方は忙しい合間を縫って調べてくれたのだろう。


「素敵なデートスポットだと思います!嬉しいです!」


少し後ろをいくダナンさんとグランディナさんがなぜか「本当にいいんですか?」という目をしていたけれど、アルフレイド様のセンスは素晴らしく私に刺さっていた。


楽しみで楽しみで口角が上がりっぱなしになってしまう。


私もアルフレイド様のために何かできたらいいのに。

毎日トレーニングは続けているけれど相変わらず腕力はいまいちだし、体力もそこまで増えていない。


アルフレイド様を幸せにしてあげたいって気持ちは本当なのに、まだまだ先は通そうだ。


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