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夫の気遣いと妻の不安

風邪を引いた私をお見舞いに来てくれたアルフレイド様は、薄青色の正装姿だった。

時間的に考えると、朝の訓練を終えて騎士服から着替えたんだと思う。

執務室にこもるだけならきっちりタイを結ぶ必要もないし、これから誰かと会う予定でもあるのかしら……?


寝室に入ってきた彼は、ベッドに近づこうとして部屋の中央で足を止めた。


「おはようございます、アルフレイド様。熱は下がって、すっかりよくなりました。ご心配をおかけしました」


ああ……私の顔を凝視している。

そうですよね、このレースでぐるぐる巻きはちょっとやりすぎですよね……?


いくら顔を見られたくなかったからといって、これではただの悪趣味な妻である。


「えーっと、アルフレイド様?」


「あ、あぁ。熱が下がって何よりだ」


「お見苦しい姿をお見せしてすみません。お見舞い、ありがとうございます」


「……いや、えーっとそんなことは」


優しい。

アルフレイド様は私のこの異様な姿を見ても何も聞かずにいてくれた。


私は精一杯の笑顔をレースの下で浮かべる。


アルフレイド様は困惑ぎみの笑みで、壁際に立っていたマイラたちを二度振り返ってから再び私の方へ向き、ベッドのすぐそばまで歩いてきた。


彼は私にカレンデュラの花束を差し出す。

受け取った瞬間、ふわりと甘い香りがした。


「きれい……!」


こんなにも鮮やかなオレンジ色の花びらは見たことがない。

目を瞠っていると、アルフレイド様が優しい声で言った。


「温室で見つけたんだ。リネットに似合うと思って」


「私に……?」


たくさんの小さな花びらが集まるカレンデュラは、素朴でかわいらしく見えた。”悪女“に似合う花ではないように感じる。


「薔薇やダリアもあると庭師に言われたんだが、俺はこれが……いや、気に入らないならほかの花をいくらでも持ってこさせよう」


私はパッと顔をあげ、アルフレイド様を見る。

彼は視線を落とし、少し恥ずかしそうにしていた。

今自分が花を贈ろうとしていることが照れくさいようだった。


私のために、温室に寄って花を選んできてくれたんだ。

アルフレイド様が、私のために。

花束をまじまじと見つめれば、特別な贈り物に思えてきた。


「嬉しいです。とても……!ありがとうございます」


崩れないようにそっと両手で花束を抱き締める。


「花束をもらうとこんなに幸せな気分になれるんですね」


「え?」


頭上から驚いた声が聞こえた。

しまった、恋多き女なら花束なんていくらでももらうに決まってる!

ついうっかり口を滑らせてしまった。


私は慌てて話題を変える。


「あの、アルフレイド様。このあとすぐにご予定があるのでは?」


「ん?いや、執務室に戻るだけだ」


「え?でもそのお姿は……?」


それではなぜ正装姿なのか?

きょとんとする私に対し、アルフレイド様は小首を傾げて答える。


「妻を見舞うのだから身なりを整えるのは当然だろう?」


私の寝室にお見舞いに来るだけなのに、身なりを整えるとは!?

驚いて言葉を失った。


なんて生真面目な方なの……!?

礼儀正しいし紳士だし、しかもそれを当然の振る舞いと思っているなんて。


「ごめんなさい」


「なぜ謝ることが?」


熱は下がったはずなのに、騙している罪悪感でずっしり気分が重くなってきた。

アルフレイド様の顔を見ることができない。


「風邪なんて誰でもひく。謝ることなんてない」


「うっ」


胸が痛い。

アルフレイド様の気遣いが心苦しい。


どうする?いっそ今、「実はあなた好みの悪女でも恋多き女でもないんです」と白状する?


「リネット?」


「アルフレイド様……私……」


言いかけてふと思い出す。

私、顔がレースでぐるぐる巻きだった!!


今じゃない。今じゃない!

今だけは違う。


頭を悩ませていると、アルフレイド様は私の肩にそっと手を置き、笑顔を向けた。


「まだ体がつらいのだろう?すまなかった、ゆっくり休んでくれ」


そう言うと、彼はマイラを振り返って「花を」と告げる。

マイラはすぐさま私のもとに来て、私の手から花束を預かった。


「また来るから」


「は、はい」


アルフレイド様は颯爽と歩いていき、私はその背中を見つめる。


なぜこんなことになったの?

あんなに完璧な人がどうして私なんかと結婚することに……?


本当のことを話しても、許してくれるかしら。

昨日からずっと同じことを考えている。


「マイラ、私はどうすればいい?」


痛む胸を右手で押さえながら尋ねた。


「まずはそのレースを取りましょうか?リネット様」


「あ、ごめん」


いくら顔を見られたくなくてもこれは……とマイラは呆れていた。

私はまたアルフレイド様がお見舞いに来てくれたときのために、ヴェールのついた帽子がないか探してもらうことにした。


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