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アルフレイドは悪魔の囁きを思い出す

「はぁ……」


広い寝室に大きなため息が響く。

アルフレイドは、幸せそうな顔で眠る妻の前髪をそっと指で梳いて除けた。


「なぜ眠れるんだ?」


さっそく夜を共に、というのはダナンのアイデアだった。

すでに書面上は夫婦なので何の問題もない、だが王妃が寄こした娘と一夜を過ごすというのは抵抗があった。


アルフレイドは、ダナン(悪魔)の助言を思い出す。


──低めの声で囁けばコロッと落ちるかもしれませんよ?それに快楽に溺れれば悪女であっても本音を漏らすかもしれません。


寝室に入ったときから独り言が漏れ出ていて、彼女が不思議そうな顔をしてようやくそれに気づいた。

低い声、低い声で囁く、と意識はしたもののリネットには聞き取れなかったようで、いい男を装って「今夜の君も美しいな、会えて嬉しいよ」と渾身のセリフを吐き出したのだが失敗に終わる。


低い声って……もともと低い声をさらに低くしたら聞き取れないだろう。

アルフレイドは気づくのが遅かった。


しかも何気なく「こういう夜の経験はよくあるのか」と尋ねたところ、あっさりと「好きだ」と返ってきた。「慣れている」とも言われ、やはり噂通りの女性なのだと衝撃を受けた。


何とかベッドまで辿り着いたものの、完全にタイミングを間違えてしまい、リネットが明らかに驚いていた。

自分でも驚いた。「絶対に今じゃなかった」ということだけはわかったから。


しかも突然押し倒したから、リネットが震えていた。

乱暴な男だと思われたのかもしれない。経験豊富な悪女とはいえ、これまでは自分に傅く優しい男とばかり付き合っていたのか……?


やってしまった、と激しく後悔した俺は慌てて身を起こした。

そしてなぜか反射的にかっこつける。


──そう怯えるな。何もしない。


何もできない、の間違いだろう!?

リネットに疑われていないのが救いだった。


「あぁ……」


すやすやと眠るリネットの顔を見ながら、自分の不甲斐なさを嘆く。


相手は五つも年下の伯爵令嬢で、力もこちらの方がずっと強いし、身分も権力も何もかも差がある。

いわば「どうとでもなる相手」なのに、無理強いするのは騎士としての道義に反すると思ってしまう。


いい男のふりをして優しく聞き出そうにも、そのテクニックが俺にはない。

恋愛だけでなく、社交からも逃げてきたツケが回ってきていた。


たった一人に翻弄されて情けない。

もやもやした気持ちを抱えたまま、アルフレイドはリネットの寝顔を見つめて言った。


「君は一体何の目的でここへ来たんだ?俺を誘惑して堕落させろとでも命令されたか?」


アルフレイドが女にかまけて仕事を疎かにすればいい。評判を落とし、次期王に推す者を減らしたい。

王妃が考えていそうなことだった。


ここでまた、ダナン(悪魔)の助言を思い出す。


──リネット様がアルフレイド様に本気になれば、王妃を裏切る可能性もあります。逆に篭絡するんです。使える物は何でも使って、がんばってくださいね?


「どうしろというんだ」


熟睡しているリネットの隣で、できることなど何もない。

かといって、寝られそうもない。


アルフレイドは、寝返りを打ったリネットの肩にそっと毛布をかけ直した。


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