1 不死身の男
千九百五年 ベルリンの戦い
ソビエト赤軍のゼーロウ高地攻撃~始まった、ドイツ軍とソビエト軍の戦い。その後、ドイツ軍は、アドルフ・ヒトラーの自殺、国会議事堂の陥落。ドイツ軍の負けはこれで決まったんだ。どの兵士もそう思った。
だが彼は諦めてはいなかった。サラサラの赤い髪、鋭い黄色の目、今にも死にそうな白い肌。その小柄な男だけは。
「これで俺たちの負けだ。終われる。これでやっと終われるんだ。」
体の大きい青年は言った。
「そんなこと言うなよ。ここで俺たちだけでも生き残ればいいんだよ。お前も俺も大事な家族がいるんだ。そうだろう?」
右腕がない眼鏡をかけた青年が言った。
「じゃあ、俺が劣りになればいい。俺にはもう家族はいない。弟はこの戦いでもう死んだ。俺に逝かせてくれ。」
赤い髪の青年は言った。
「お前は本当に常識がないやつだ。でもどうしたんだ。ドイツ軍の唯一の希望がそんなことをいうなんて。」
眼鏡をかけた青年は言った。
「さあ。早く逃げるんだ。お前たちは。」
「絶対に生きて帰るんだぞ!約束だからな!」
体の大きい青年は言った
体の大きい青年は、眼鏡をかけた青年を背負いできるだけ姿勢を低くし逃げた。
「すまんな。その約束は取り消しだな。なんたって俺は、死にたいんでな。」
青年は一人でソビエト軍がいる方向に走った。アサルトライフルを手にもって。青年が戦っている間に逃げた二人の方が爆発した。そんなことも気にせず青年は戦い続けた。もう三十人は殺しただろうか。だが罪悪感はなかった。青年は自分に疑問を抱いた。なぜ死にたいのに相手を殺し続けているのか。楽しいからじゃない。嬉しいからじゃない。クセになっているからだ。人の殺し方。様々なイメージが思い浮かんでくる。どこを打つ、どの瞬間で打つ。その間に目の前にいた軍はもうほぼいなかった。逃げるものもいれば、死んだものもいる。そして青年は悲しんだ。
「また生き残っちまった...また死に損ねた。畜生...畜生...」この悲しみを味わうのは何回目だろうか。青年は泣きそうになった。苦しい...悲しい...自分で自分を殺す勇気なんてない。戦争は好きだ。戦争は簡単に死ねるいい時間だ。そんな大切な時間をまた無駄にしてしまった。