廃ホテル
「そう、そうなのよ〜、キャ!」
俺と駄弁りながら歩いていた美鈴ちゃんが石に躓いてたたらを踏む。
「だ、大丈夫か?」
美鈴ちゃんの手を引っ張りながら聞く。
「うん、大丈夫だよ。
アレ? 私たち洋ちゃんの車で来たのになんで歩いているんだろう?」
「え! あ! そう言えば車で来たんだった。
美鈴ちゃんとお喋りしてたらお喋りに夢中になって忘れてたわ、ハハハハ」
「私も私も、洋ちゃんとのお喋りに夢中で忘れてた」
そう答えた美鈴ちゃんを抱き寄せたら美鈴ちゃんも抱きついて来たんで、2人で顔を見合わせチュとキスを交わす。
俺と美鈴ちゃんは通っている学校が夏休みになったんで暇をもて余し、糖久野県の心霊スポットである廃ホテルを見に来たんだった。
心霊スポットの廃ホテルを見学した帰り、お喋りに夢中になって車で来たのを忘れて川沿いの砂利道を歩いて帰ろうとしていたみたいだ。
俺は美鈴ちゃんと手を繋いだまま廃ホテルに向かって歩く。
砂利道からホテルに繋がる細道に曲がり、薄汚れアチコチに穴が空いているホテル名が書かれた看板の前を通り過ぎる。
その看板の隣には、『廃ホテルは老朽化しており倒壊の恐れがありますので敷地内に立ち入らないでください』と書かれた板が立てかけられていた。
来た時はそんな板なんて無視して、進入禁止と書かれた三角コーンを退かして廃ホテルの駐車場に車を止めたんだけどね。
細道の奥にある駐車場の手前まで歩いて行くとパトカーや消防車が数台止まっていて、血相を変えた警官や消防官が足早に動き回っていた。
「洋ちゃん、お巡りさんたちの目を盗んで車を出すなんて無理だよ、どうするの?」
「ああ、もう開き直って謝るしかないな」
「って、洋ちゃん! アレ!」
美鈴ちゃんが大きな声を出し廃ホテルの上の方を指差す。
「え?」
美鈴ちゃんが指差した所に目を向けたら、最上階辺りが大きく崩れている。
俺と美鈴ちゃんは最上階を見た目を下げて行き駐車場を見た。
駐車場には俺の愛車が崩れ落ちて来た瓦礫に埋まりペッチャンコに潰れていて、車から赤い液体が滲み出て滴り落ちている。
「よ、洋ちゃん、も、もしかして、わ、私たち、し、死んじゃってるのかな?」
「そ、そうかも」
美鈴ちゃんの問いかけに、俺はガクガクと首を縦にふりながら返事を返す。
俺と美鈴ちゃんは抱き合ったまま、何時までも車から滲み出ている液体を凝視し続けていた。