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主人公の後始末

作者: 川口黒子


『次のニュースです。先週から発生した停滞前線により、断続的な降水が続いています。山沿いの地域にお住まいの方は土砂災害にご注意下さい。次のニュースです。先日、東京スカイツリー周辺で身元不明の遺体が発見されました。警察はーーーーーーーー』





雨は好きだ。雨の降る音は、自分の足音を消してくれる。道を流れる雨水は、自分の存在を無かったことにする。雨の日の夜なんて特に最高だ。乱立したビル群が足元を照らしてくれる。殺すべき相手を教えてくれる。天を切り裂く光の塔。その下で私は、

今日も主人公を殺す。






夢から覚めた頭に雨音が鳴り響く。時刻は午前9時。今日も今日とて雨が降っている。

二段ベットから這い出て、顔を洗いに行く。

(昨日の死体は見つかっただろうか)

そんなことを考えながら、冷たい水で顔を引き締める。

最近断水があったからなのか、水の出が悪い。会社のおんぼろアパートじゃ無理もないが。

そんなこんなで時間を潰していると、FAXからメールが届いた。

仕事の時間だ。


今日の相手は東京都に住む18歳の少年。どうやらまた世界を救ってくれたらしい。大人しくしていれば良いものを、、

早速作業着に着替えてアパートを出る。指定された場所に向かい、ターゲットを待つ。

周りに人の気配はない。ただ雨の降る音がしているだけだ、、、、、、来た。アイツだ。

線路の脇の道を一人で歩いている。背後に忍び寄り、持ってきた鉄パイプを振り下ろす。


頭をかち割る鈍い音は、電車の音でかき消された。






一年前、この世界はとある"主人公"によって救われた。仲間と共に悪と闘い、見事勝利を勝ち取ったのだ。主人公は皆に祝福され、世界に平和が訪れた。はずだった。主人公が突如として行方がわからなくなったのだ。主人公がいなくては、"物語"を維持できない。だから世界は主人公を求めた。世界は自ら平和を壊し、その度に主人公が現れて世界を救う。これではいつまでたっても平和は訪れない。だからこそ我々が彼らを殺し、平和を永遠のものにするのだ。

と、会社の上司は力説していたが、私には全く興味が無かった。私には別の目的がある。そんな外道の考えに付き合っている暇は無い。


それでも仕事なのだから、彼らを殺すしかないのだ。


今回のターゲットは少し特殊だ。どうやら会社のバカが殺り損なったらしい。相手はこちらの存在を認知している。"主人公がこちらを知っている"ということは、我々を"悪"だと認識しているということだ。前回のように不意打ちはできない。

今回はチームを組むことになった。


チームの構成員は四人、一人目は殺り損なった"バカ"、二人目は力説してた"クソ上司"

三人目は無口な"ベテラン"、四人目はもちろんこの私。


早速この"アホチーム"で作戦会議を開いた。


『今回は本当にすいません、、、』


『たく、なんで俺がお前の尻拭いをせなあかんのか』


『......』


『さて、どうします?相手は一度世界を救っている。そう簡単には倒せませんよ?』


『そんなの簡単だ。ここで待ち構えてりゃいい』


『待ち構える?なぜ?』


『相手は主人公だ。悪は根こそぎ取り除こうとするだろ?どうせこの会社のことを嗅ぎつけて潰しに来る。そこを俺らが叩く』


『なるほどです』


(クソ上司はクズだが馬鹿じゃない。こうゆう時良い意見を言ってくれるのはありがたい)


『じゃあこの案でいいですか?』


『おう』


『はい』


ベテランは頷くだけだった。


準備は問題なく進んでいった。彼らと過ごしていく内に、我々の仲はより深くなっていった。今まで無口だったベテランも口を開くようになった。

会社の要塞化も完了。いざ決戦。


会社の門に現れた主人公一同は皆手に武器を持ち、各々が決意を固めて立っていた。

主人公が集団の前に立つ。


『貴様らが行ってきたことは全て分かっている!我々はこのような悪を断じて許さない!

覚悟しろ!』


威勢のいい啖呵を切ったところで、こちらはクソ上司がメガホンを手に取り大声で叫んだ。


『なにを吐かすかこのひよっこが!!いいか!貴様らは主人公のなり損ない、本物はもう消えているんだよ!!ガキだろうが容赦はせんぞ!』


それを聞いた主人公組は、一斉に門を突き破ってきた。

ある者は空を飛び、ある者は火を吹き、ある者は水を操った。まるでファンタジーの世界だ、、、だが


『撃て』


銀色の鉛玉が雨と共に彼らの頭上に降り注いだ。彼らはなす術なくなぎ倒されていった。


『ファンタジーはあくまで妄想、リアルには勝てない』


だが、それでも彼らは前進してきた。流石は英雄。この程度では止められない。

ならこれはどうか


一定のラインまできた彼らが一斉に爆散した。地雷である。

空には弾幕、地上には地雷原、主人公組は劣勢に立たされた。主人公の制止を聞かない者たちが次々と倒れていく。


『これなら勝てそうですね』


『まだだ、油断するな、アイツらは劣勢になるほど強くなる』


主人公というのは、負けて強くなるものだ。いつだって最後の最後に勝つのは彼らなのだ。


『おのれ貴様ら、よくも、よくも俺の仲間を殺してくれたな』


主人公が剣を地面に突き刺す。すると突然地面が小刻みに揺れだした。


『ガイア、シェイク!』


彼がそう叫ぶと強い衝撃と共に、地面が裂け、地雷原もろとも我々の陣地が破壊された。

我々はなんとか助かったが、もう彼はすぐ目の前にいる。


『終わりだ、外道ども』


そう言うと、彼は剣を振り上げた。


その瞬間、彼は血しぶきを上げながら吹っ飛んでいった。


『ナイスだ、ベテランくん』


主人公に勝つためにはどうしたらいい?そんなの簡単だ。"妥協せずに殺せばいい"。仲間だけ殺して結局主人公が強くなる。主人公の成長を見誤り、油断して倒される。

悪というやつは、どうしても一歩遅い。

勝つためには躊躇するな。勝つためには手段を選ぶな。浪漫もクソもない、最も合理的な方法で確実に殺せ。

これが大人のやり方だ。


主人公を失った物語は、強制的に消滅する。彼が救った形跡も、彼がいた事実さえも

今この瞬間、全て消え失せたのだ。






今日もまた雨が降っている。いつまで経っても止まないこの雨にそろそろ嫌気がさしてきた。

前回行動を共にした"アホチーム"とは、あれ以来会うことは無くなった。上司とはたまに会社で会うが、バカとベテランは今どこにいるのかすら分からない。バカはともかく、ベテランは仕事で忙しいのだろう。

そんな事を考えていると、突然部屋のFAXが動き出した。、、変だな、今日は休日なのに、


内容を見て、私は信じられなかった。だが、今までのアイツの行動を振り返ると、納得がいかない訳ではない。なにより、このFAXから出てきた時点で、私のやるべきことは既に決まってしまったのだ。


いつも通り作業着に着替えて、アパートを後にする。

ラクに死ねるように、今回は拳銃を使うことにした。FAXの地図によると、アイツがいるのは渋谷区の小さな事務所らしい。ここからでは少し遠いので、電車に乗ることにした。


電車の中は意外にも空いていた。窓がある席に腰掛けると、一人の少年が話しかけてきた。

周りに親らしき人物はいない。


『どうしてあなたはひとをころすの?』


驚いた。なぜそのことを知っているのか。


『どうしてあなたはひとをころすの?』


なぜそんなことを聞いてくる?


『あなたの心が泣いていたから』


なにを言っているのか理解できない。お前は誰なんだ?


『どうしてあなたはひとをころすの?』


.........仕事だからだ。仕事のために殺しているんだ。


『仕事だから彼らをころしたの?仕事だからあなたをころしたの?』


ガキのお前にはわからないだろう。大人になった苦しみが。


『大人は辛いものなの?』


ああそうさ。できたことが出来なくなる。なりたい自分になれなくなる。自分を殺して、殺して、殺して、殺した成れの果てが今の私だ、、私なんだよ、、、


『だから今日も、あなたをころすの?』


そうさ、だから今日もアイツを殺す。


電車のドアが開く、どうやら渋谷に着いたらしい。さっきまでいた少年は、もういなくなっていた。


目的地は意外と駅の近くにあった。人通りは少ないが、周りは住宅地だ。銃声が聴こえてしまう可能性がある。

鞄からサプレッサーを取り出し銃の先端に取り付ける。

事務所はこじんまりとしているが、中には複数人いるらしい。アイツに肩入れした時点で、そいつらもターゲットだ。

事務所の中に入り、玄関にいた奴らを撃つ。

悲鳴を聞いて飛び出してきたら奴らも、片っ端から始末する。

粗方一階の奴らは片付けた。残っているのは二階のみ。アイツも多分、そこにいる。

階段を登ると、左の方に一つの扉を見つけた。ドアノブに手を掛けるが鍵がかかっていて開かない。銃で鍵穴を撃ち、無理矢理こじ開けた。


『よぉ"主人公"、お前も夢に溺れたか』


引き金を引く。抵抗もせずに倒れていく。か細い呼吸をしながら、最期に彼はこう言った。


『貴方を救いたかった』


彼は笑顔で死んでいった。

私は彼の開いた目蓋をそっと手で閉じた。


『本っ当に大バカ野郎だよ、お前は、、』


外に出ると、雨はまだ降り続けている。大粒の雨水が、僕の頬を流れた。






《僕はね、正義のヒーローになりたいんだ!悪をいっぱい倒して、たくさんのひとを救って、みんなを笑顔にしたいんだ!》


《いいね!わたしもなりたい!》


《僕も!》


《俺もー!》


《じゃあみんなでなろうよ!正義のヒーローに!!》


夢なんてまったくみない私が、久しぶりに夢をみた。どんな夢だったかはっきりとは覚えていないが、多分、きっと、くだらない夢だろう。






休日だった土曜日は、急に入った仕事で潰れてしまった。どんな奴を殺したかはもう覚えていない。だけどあの日は何故か、とても長い夜を過ごした気がする。


今日は珍しく雨が降っていなかった。晴れ晴れとした天気が私の視界を埋め尽くした。アパートの小さな窓から覗く景色も意外といいもんだな。

感傷に浸りながら、ベッドの上で外に出る準備をする。今日は仕事じゃない。あのクソ上司に急に呼び出されたのだ。

とはいえ、いく場所は当然会社である。一体何の為に呼び出したのか、私には見当もつかない。

会社の一階にある小さな喫茶店に上司と待ち合わせていた。店の中に入ると、上司らしき人物と、ひとりの女性が隣に座っていた。


(誰だ?)


様子を伺っていると、あちらがこちらに気づいて大きく手を振ってきた。

軽く会釈をしながら近づくと、上司と向かいの席に座った。

上司の隣にいる女性とは全然顔があわない。


『よし、よく来てくれたな。今日はお前に紹介したい人物がいる』


『お前の後輩であり部下になる、朧皐月くんだ』


『朧です。よろしくお願いします』


『部下、、ですか、、、』


『わかっておる。お前が一人が好きなことと、部下をあまり持ちたくない理由もだ。だが今回は大丈夫だ。朧くんは優秀だし、経験も豊富だ。きっと良いパートナーになれる』


(果たして顔もあわしてくれない相手と"良いパートナー"になれるのだろうか、、、)


『そうゆうわけだ。頼んだぞ。あと、これからお前たち二人には同居してもらう。仕事が来たときに素早く動けるだろ?』


『は?同居ですか!?ただでさせ狭いのに!?』


許容できるはずがない。そもそもあの部屋にもう一人住む余裕は無い。


『仕方ないだろ、うちのアパートはもう満員なんだ。なんとか工夫しろ!じゃあ俺は先に会計を済ましておくから、お前らは軽く雑談でもしといてくれ』


(満員ならなんで雇うんだよ......)


クソ上司は会計を済ました後直ぐに店から出て行ってしまった。


(さて、何を話せばいいんだ、、、)


『先輩、一つ質問いいですか?』


今まで口を閉じていた朧が急に話しかけてきた。


『ああ、いいぞ』


『あなたはひとをころしたことがありますか?』


『......殺してなかったら、この仕事はしてない』


『分かりました、ありがとうございます』


そう言うと朧は軽くお辞儀をした。






『お前が寝るベッドは上だ』


アパートに戻り、早速部屋の使い分けをしている。異性と同居するのだから、ある程度生活する場所を区別しておいた方がいいだろう。


『トイレは、この部屋の隣、風呂はトイレと一緒だ。まぁ、風呂はお前一人で使え。俺は近くの銭湯にでもいってるから』


『いえ、気を遣わなくて大丈夫です。あなたを異性だとは考えていませんので』


『じゃあどんな風にみてんだ』


『ただの仕事仲間です』


『そうかい、だが俺が納得できない。意地でも銭湯を使う』


部屋分けが一通り終わったが、この調子じゃ長く続くか分からない。どうしてお偉いさんはコイツをよこしてきたのか。


日も暮れてきたので、私は銭湯に向かうことにした。

金を持ち、暗い夜道を進んで行く。車が過ぎ去る音、帰宅する人々やバーの客引き、学生らしき笑い声、これが眠らない街、東京。

ここに住んでもう数年も経つが、未だにこの騒がしさには慣れない。

逃げるように路地裏に入り、奥にある行きつけの銭湯の暖簾をくぐる。実のところ、私があのアパートの風呂を使ったことは一度もない。この東京に初めて来たとき、観光程度にまわっていたら、偶然この銭湯を見つけたのだ。

それ以来、毎日ここに来ることにしている。


銭湯のおっちゃんにお金を渡し、体を洗って湯船に浸かる。

体の奥に溜まっていた疲労がいっきに流れでた気がした。この快感が忘れられなくて、今もここにかよってるのだ。

いつもは貸し切りなのだが、今日は珍しく先客がいた。背の低い、小さな少年だ。


(こんな夜中に一人で銭湯に来るとは、なかなか肝が座っているな)


そう関心していると、少年が突然声を発した。


『ねぇおじさん、質問してもいい?』


返答に困ったが、とりあえず了承しておいた。


『うん?なにをだい?』


『仲間ができた気分はどう?』


......は?何をいっているんだ、この少年は?


『よかったね、仲間ができて、僕たち意外の仲間ができて』


『けどすぐにいなくなっちゃうよ。"前の奴"もそうだったし』


誰だお前は


誰だ貴様らは


『もう楽になっちまえよ、過去のことなんていちいち引きずってさぁ、お前には何も救えないんだよ』


黙れ、喋るな


『もう私たちのことは気にせずに』


『楽になっていいんだよ』


『楽になっていいんだぜ』


『らくになっていいんだよ』


うるさい、うるさい、うるさい!!


『黙れ!!!!』


水しぶきをあげて立ち上がる。彼の周りには誰もいない。ただひとりで、そこに立ち尽くしていた。






朝目が覚めると、騒がしい雨の音が聞こえてきた。休日の晴れ晴れとした天気から、一変して平日の憂鬱な曇り空に変わっていた。

気圧が低いせいか、頭が痛い。ベッドから出て、顔を洗おうとするが、そこには朧がいた。


『先輩、おはようございます』


『ああ、おはよう』


洗い終わった後、床に机を置き、朝食の準備をする。


『朝は何派だ?パンか?米か?』


『私はパン派です』


『じゃあはい、これ』


特売で買ってきたクロワッサンを朧に渡す。私は茶碗にご飯をよそいながら、焼いた卵焼きを皿に盛り付ける。


『いただきます』


『......いただきます』


最初は黙って食べていたが、沈黙に耐えられなくなったので、とりあえず話しかけることにした。


『お前はどうしてこの仕事に就いたんだ?』


『......人を殺したからです。人を殺して、死刑になるはずだったのに、今ここにいる』


この会社は、罪を犯した者たちが最後にたどり着く場所だ。殺人鬼やテロリストなどが多くを占めている。ここにきた最初の方は、また人を殺せると浮き足立つのだが、最期の方になってくると、いつ殺されるかわからない恐怖に、大抵の奴は自殺する。私の部屋でも、もう二人は死んだ。


『そうか、それは大変だったな』


『先輩はどうなんです?聞いたところによると、この会社が設立されてからすぐにこの会社に入社したようですが?』


『俺はーーーーーーーー』


言いかけたところで、いつも通りFAXが動き出した。


『行くぞ朧、仕事だ』






『今日のターゲットは良常市在住の26歳女性、超次元的能力を使う"第二世代"だ。こいつはまだ世界を救ったりはしていない。だけど近いうちにしようと思っている。いわば主人公候補みたいなものだ』


アパートの階段を降りながら、朧に紙に書いてある内容を説明する。


『朧、お前は超能力者なる者と戦ったことはあるか?』


『はい、一度や二度』


『お前はその時どうやって戦った?』


『チームを組み、役割を決めて戦いました』


『分かった。なら向かう先は会社だ』


『どうして会社に?』


『あそこにはいろいろある』


朧と私はまず会社に行き、その後ターゲットのいる場所に行くことにした。

会社の門をくぐり、巨大なビルの中に入る。すると偶然、あのクソ上司とでくわした。


『お〜偶然だな〜どうだ?もう仲良くなったか?』


『仲良くはなっていないです』


『そうか、まぁいい。それよりどうしたんだ?こんな朝早くに』


『地下に用があるんですよ』


『おー!地下か!俺も一度行ってみたかったんだ。一緒に行ってもいいか?』


『......いいですけど、あまり騒がないでくださいよ』


『わかっておる』


エレベーターに乗り、階数ボタンでとあるコマンドを打つ。するとエレベーターは下降し、本来無いはずの地下への入り口へと向かう。

エレベーターが開くと目の前には長い一本道が続いていた。


『部長、部長もこの地下には来たことがないんですか?』


『ああ、そうだよ朧くん。ここは彼専用の施設なんだ』


『専用の?』


『そうだとも、朧くん、"コードネーム"というものを知っているかね』


『いえ、初耳です』


『コードネームは、Officerのみに与えられる称号。彼のコードネームは"始末屋"。我々実行部隊の中で、最も多くの主人公を殺してきた人間さ』


『Officerというと、運営委員会のトップですよね?部長はどうしてあんなに話しかけられるんですか?それに先輩はなぜあんな小さなアパートに?』


『俺の方が早く入社したからだよ。この会社は年功序列だからね。アパートのほうは、彼が希望したんだ。ビルの最上階からじゃ素早く動けない、てね』


『なるほど、それを聞いて少し安心しました』


『なぜだい?』


『私の周りの仕事仲間は、殺しを楽しんでいるんです。私はそれが気持ち悪かった。だからここに来たんです。だけど先輩は違う。そう分かっただけでもありがたいです』


『アイツをそこらの殺人鬼と一緒にされちゃ困る。なにより彼には、"別の目的"がある、そう俺は考えている』


『別の目的、ですか』


『ああ、』


『なにを話している、もうすぐ着くぞ』


しばらくすると、一つの扉が見えてきた。

その扉を先程のコマンドで開ける。


『さぁ、ここにある物はなんでも使っていい。今日のターゲットはお前がしとめろ、朧』


そこには、ありとあらゆる兵器が貯蔵されている。銃火器はもちろん、戦車やミサイル、戦闘機まで完備している。


『うおー凄いな!噂には聞いていたが、まさかここまでとは!』


『先輩はいつもここを使っているんですか...』


『いや、ここを使うのは稀だ。ターゲットが複数いたり、第二世代の人間の時だけだ』


『朧、お前はどんな戦術が得意だ?近接か?』


『はい、いつもは近接での戦闘をしています』


『よし、なら俺が遠距離射撃で援護する。お前は隙をついてターゲットの懐に入れ』


『了解です』


各々が使う武器を手に取り、地下室を後にした。クソ上司とは会社で別れ、私たちはターゲットのいる地域に向かった。


『俺はこの廃ビルから狙撃する、お前は直接コンタクトして即座に戦闘を始めろ』


スコープを覗き、朧の姿を目で追う。

朧がターゲットと接触した。


『見つけた、アイツだ』


息を殺して近づき、刀を振り下ろした。


『甘いわね』


その瞬間、朧は刀もろとも後方へ弾き飛ばされた。


『噂には聞いていたけど、本当にいたのね』


『いいわ、私の英雄譚の踏み台にしてあげる』


『調子に乗るなよ、紛い者』


朧は目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、そのまま刀を突き刺しにいく。


『ーーーー!』


咄嗟に敵はそれを磁力らしきもので受け止める。


『なかなかやるわね、ならこれはどうかしら』


そう言うと、敵は近くにあった電柱を引き抜き、それを朧めがけて投げてきた。

朧は刀を柱にして体を空中に投げ出し間一髪で避けた。


『ふふふ♪あなたじゃこの私には勝てないわよ』


『大丈夫、私は一人じゃない』


刹那、宙を浮いていた敵の身体が、一瞬にして地面に叩きつけられた。


『なに!?なにが起きたの!?』


『今だ朧、やれ』


『了解』


刀を鞘に収め、背を低く構える。


『朧流抜刀術【時雨】』


解き放たれた刀身は、降り注ぐ雨すらも切り裂き、敵の首を討ち取った。






死体の処理が終わり、朧と私は帰宅の準備をする。


『今回の第二世代はまだ規模が小さかった。範囲攻撃をしてくる敵には、刀一本じゃ太刀打ちできないぞ、朧』


『そう言う先輩は何の銃を使ったんです?宙にいた彼女を叩きおとしてましたけど』


『これか?これは対戦車ライフルだ。あーゆう相手にはこれくらいが丁度いい』


『人間相手に、ですか』


『いいや、"人間みたいな化け物"相手に、だ』


アパートに帰る途中、私の携帯が突然鳴り出した。


『すまん、朧、先に帰っててくれ』


『?、はい』


電話番号から察するに、どうやらクソ上司からの電話らしい。


『もしもし、なんですか?仕事終わりに』


『急にかけてすまない、上の連中からの伝言だ』


『"集結せよ"だとさ。意味がわかるか?』


『......分かりました。ありがとうございます』


ようやくだ。ようやくこの時がきた。まってろよ、"タケル"、後もう少しだ。






『よく来てくれた、Officerの諸君』


『今回集まってもらったのは他でもない"第二世代"についてだ』


『最近彼らの行動が活発になっている』


『彼らが何かしでかす前に、先手を打たなくてはならない』


『そこでだ、我々は一ヶ月後、全ての第二世代が集まるとされる"合同会議"を襲撃する』


先程まで静かに話を聞いていた奴らが一斉に騒ぎ始めた。


『何をバカなことをいっている!相手の最大戦力と戦うことになるのだぞ!』


『それに"合同会議"の場所は首都東京だという噂もある。もしそこで戦闘すれば、間違いなく民間人にも被害がでるぞ』


『私は賛成です』


『......君は確か、"始末屋"の』


『奴らは"勇者タケル"の残り香のようなものです。強さは奴には及ばない。それにいつもは隠れて姿を出さないゴキブリどもが、"団結"や"希望"という餌におびき寄せられる。一網打尽にできる絶好のチャンスです』


『仮に実行したとして、勝算はあるのかね?』


『はい、考えがあります』


『民間人への被害は?』


『奴らはまだ一般には知られていない存在です。もし仮に仕留めきれなかったとしても、超能力を使う化け物と、武装した人間、一般人はどちらを敵だと思いますか?』


『たとえ被害がでたとしても全て奴らの責任にすればいい。私たちは化け物と戦った"ヒーロー"として扱われるでしょう』


『ひゅーさすがは"勇者殺しの裏切り者"、言うことが違うねー』


『口を慎め"お調子者"』


『へいへい』


『では決まりだな、これより我々は、一ヶ月後、第二世代掃討作戦を実行する』




『朧、連絡は来ているな、これから約一ヶ月後に第二世代掃討作戦が開始する。それまでにお前は遠距離でも戦えるよう射撃の練習をしておけ』


『何故ですか?私は今のままでも十分に戦えます』


『後々必要になるからだ。いいな?これは命令だ』


『......了解です』


少々渋ったがなんとか了承してくれた。


『さて、今日は一応休日なんだが......なにかやりたいことでもあるか?』


『じゃあ、一緒にデートしません?』


『......でーと?』


何故かデートに誘われた私は、朧に連れられ、遊園地へと足を運んでいるのであった。


『先輩、何乗ります?』


『何でもいいぞ』


『じゃあアレで!』


『......マジ?』


朧が指さした先には、悲鳴をあげて急降下するジェットコースターの姿があった。


『俺ジェットコースター苦手なんだけど...』


『大丈夫ですよ!私なんて初めてなんですから』


今日の朧はなんだか明るい。嫌がる私を引っ張って、列の後ろに並んだ。


いよいよ我々の番が来た。

我々を乗せたジェットコースターはゆっくりと上昇していく。


『楽しみですね、先輩』


『あ、ああ......そうだな』


ついに車体が頂上に達した。


『なぁ朧』


『なんです?』


『......目、閉じててもいい?』


『ダメです』


満面の笑みを浮かべた朧の顔が、徐々に傾き、ジェットコースターは轟音をたてながら降下する。


『ぎゃーーーーーーーーー!』


『あはは!!」


ジェットコースターは、回り、うねり、そして止まった。


『こんな思いしたのは初仕事以来だ......』


『あー楽しかった!次はあそこ行きましょう!』


その後も朧に連れられ、いろいろなアトラクションに乗った。

気がつけば日も落ち始め、我々も帰宅することにした。


『今日はありがとうございました、先輩』


『ああ、いいよ、楽しかったし』


『少し寄り道をしてもいいですか?』


『どこにだ?』


『母の墓参りがしたいんです』




『ここが、朧一族が眠る墓場です』


深い森を抜けると、そこには多くの墓標があった。


『母は、私がまだ12歳だった時に、私の目の前で、自殺しました』


『......なぜ?』


『多分、父の後を追ったんだと思います。父が死んでからすぐのことだったので』


朧は、とある墓標の前に立つと、そこに綺麗な花束を置いた。


『母さん、私まだ、生きてたよ』


どうやらこれが朧の母の墓標らしい。名前を見てみるとそこには


『朧、紫音、、、』


『やはりそうか、、、』


『何がですか?』


『朧、いいか、よく聞け。俺は今からお前に伝えなきゃいけないことがある』


『それは一体、、、』


『俺の過去と、朧一族についてだ』




僕がアイツと出会ったのは、今から約30年前。

子供だった僕がヒーローなんかに憧れてた時の頃だった。あの頃の僕は、とにかく強くなりたかった。強くなって、多くの人を笑顔にしたかった。

だから、"朧剣道"の門を叩いた。

そこに現れたのが、僕の最愛の友達である、"朧タケル"だった。

初めの印象は最悪だった。

いつも僕に掃除を押し付けるし、稽古の時も、僕が負けると腹を抱えて笑っていた。

ついに我慢の限界に達した僕は、タケルに勝負を申し込んだ。


『お前みたいな半人前の奴が、次期当主の俺様にかてるかな〜?』


『今までの戦績は9勝9敗。この試合で勝てば僕の勝ちだ!タケル!』


序盤は互角に戦えていた。だが、


『朧流抜刀術"奥義" 【朧】』


僕は一瞬の内に弾き飛ばされた。タケルは、若くして朧流の奥義を身につけていた。


『負けた、、、』


『お前も強かったぜ』


このことをキッカケに、僕とタケルは仲が良くなっていった。互いに切磋琢磨するライバルとして、時にケンカし、時に笑い合い、次第に友達も増えていった。


ある日、僕は勇気を出して、僕の夢をみんなに伝えた。きっとバカにされるに違いない。

そう思っていた。


『いいねー私もなりたい!』


『僕も!』


『俺もー!』


僕は嬉しかった。幸せだった。


『じゃあみんなでなろうよ!正義のヒーローに!!』


みんなとなら、なれる気がした。


そして時が経ち、俺たちは20歳の頃に、とある会社を作った。俺たちが活動するための資金や人材を集めるための会社だった。

その頃、ある一つの犯罪組織が世界中で暗躍していた。俺たちはその組織を潰すために活動していた。


『タケル、ちょっといいか』


『なんだ?』


『近頃この日本で奴らの動きが活発になってきている。もしかしたら何かどでかいことを企んでるかもしれない』


『......一応各地域にいる奴らを集合させておいてくれ』


『分かった、、、それよりお前、いいのか?』


『何がだ?』


『赤ちゃん、そろそろ産まれるんだろ』


『大丈夫だぜ相棒、紫音なら心配ないさ。それより俺は、生まれてくるアイツの為にも、この世界を必ず救わなきゃなんねぇ』


『そうか、そうだな』


すると次の瞬間、今まで消えていたはずのテレビが、突然つきはじめた。


『あーテステス、これちゃんと映ってる?』


(なんだ、、、これ?)


『あー日本の皆さん、こんにちはー!僕の名前はまぁ"ブィラン"でいいや』


『今日はね!この国に宣戦布告をしにやってきたんだ!』


『どうしてかって?そんなの簡単さ!"こうしないと終わっちゃうから"だよ』


『みんなだって、大好きだった漫画やアニメが終わっちゃうのは嫌だろ?』


『まぁそういうわけで、日本の皆さん、さようなら〜』


その瞬間、日本は火の海に包まれた。




『クソ!、なにが起こっている!?』


『おい!窓の外をみろ!』


そこには異形の怪物が、人を次々に襲っていた。


『何だ、、、あれ、、、、』


『考察は後だ、下に出て応戦するぞ』


俺たちは必死に戦った。

空を飛ぶ巨大な鼠、手足の生えた魚、頭が3本ある蛇が人々を喰ら尽くしていた。

炎は消すことができず、ビルは倒壊し、人々はなす術なく潰された。

地獄だ。正に地獄だった。

俺たちの仲間も多く殺された。

だが、不思議なことに、夜が明けると、消えなかった炎は消え、さっきまでいた化け物は跡形もなく消え去っていた。

後に、この襲撃は、"百鬼夜行"と呼ばれるようになった。


『......現状を報告しろ』


『は、この襲撃により、東京、大阪、愛知、福岡の4つの地域が壊滅。

死者は数えきれないほどの数です』


『そこに居た部隊はどうなった?』


『......全滅です』


『クソが!!』


タケルが会議室の机を拳で殴る。その手には、薄らと血が滲んでいた。


『タケル、敵の所在は掴めているのか?』


『いや、まだだ、敵が人間なのかすら分からん』


『お困りのようだね、勇者諸君』


『ー!撃て!!』


『おっと、それはやめたほうがいい。大切なお仲間の体なんだからさ』


『......どうやって乗っ取った?』


『それは秘密♡』


『そんなことより、今日は伝言を伝えに来たんだ、朧タケル』


『何だ?』


『"クリスマスの夜、東京で会おう"』


『......なぜだ、なぜ自分から姿を現そうとする?』


『言っただろう?"こうしないと終わっちゃう"てさ』


そう言うと、奴は拳銃を取り出し、自らの頭を撃ち抜いた。



百鬼夜行の一件もあり、俺たちの存在は広く知られるようになった。勿論、俺たちがクリスマスの夜、ラスボスと激突することも。


『タケル、紫音は大丈夫だったか?』


『ああ、実家の北海道に病院を移しておいてよかったよ』


『まさかこんな事になっちまうなんてなぁ』


『まったくだ。この会社を作った時は、夢にも思わなかったぜ』


『だけど、これが"世界を救う"てことなのかもな』


『かもな、、、、夢、忘れてねぇよな?』


『勿論』


『なろう、俺たちで!』


『ああ!』


ついにその時が来た。

俺たちはこの日の為に多くのものを犠牲にしてきた。

負けられない。

絶対に


荒地となった東京に、"悪役"と"主人公"が立っている。

戦いは、彼の一言で始まった。


『さぁ始めようか主人公諸君、"私"も本気をだすとしよう』


明らかに今までとは雰囲気が変わった瞬間、ブィランの引き連れていた無数の怪物が、一斉に襲いかかってきた。


『僕たちは雑魚の相手をします!その間に本丸を叩いて下さい!』


仲間達が周りの敵を押さえ込んでいる。俺たちは真っ直ぐ奴の方向に向かった。


俺たちは一進一退の攻防を繰り返していた。

地面には次々とクレーターができ、激しい近接戦闘が展開していた。

ブィランは"超能力"を使い間合を離そうとしていたが、俺とタケルの連撃により、確実にダメージを与えていた。


『さぁもっと私を楽しませてくれ、もっと、もっとだ!』


『ちょこまかと逃げんじゃねぇよクソ野郎が』


『ふふ、いいだろう。ならばコレを使ってやる』


そう言って片手を空に向けると、そこに巨大な火の玉が出現した。


『まずいな、アレは街一つ消せるレベルだぞ、、』


『言っておくが、コイツに射程距離という概念は無い。必死で止めないと、後ろの奴らが木っ端微塵になるからね』


放たれた火の玉は、大地を焼きながら突進してくる。


『くそ!どうするタケル!?』


『俺に任せてくれ』


そう言うと、タケルは火の玉の真正面に立ち、刀を鞘に入れ構える。


『朧流抜刀術"奥義"【朧】』


一瞬にして抜かれた刀は、火の玉に直撃し、敵の方向へと跳ね返した。


『なに!?』


火の玉はブィランに直撃し、かなりの負荷手を負わせることができた。


『【朧】は朧流最大のカウンター技だ。コイツはどんな物理現象でも跳ね返せる』


『今だタケル!止めを刺すぞ!』


『おう!』


『クソが、返り討ちにしてやる!』


ブィランは必死に応戦するが、仲間が周りの雑魚を倒し、駆けつけてくれた。


『援護する!そのまま進め!』


『雑魚どもが、邪魔な真似を!』


『喰らうがいい、俺とタケルが編み出した、新たな"抜刀術"』


『『朧流抜刀術"合技"【龍流転々】!!』』


まるで龍のごとくブィランを交互に斬り、回転しながら同時に首を切り落とす。


『終わったのか、、、』


『ふふ、ふはははははははは!!!!』


『首だけになってもまだ喋れるとは、、不気味な奴だ』


『終わる?終わるだと?いいや終わらない!終わりはしない!』


『"この物語は終わらない"!!』


『たとえ俺が死のうとも、お前らが生き続けるかぎり、俺の代わりはいくらでも現れる!』


『"お前らの代わりはいくらでも現れる"!』


『何を言っているんだ、、、』


『覚悟しろ!お前らは絶対に、幸福にはなれない!』


そう言った彼は、今度こそ、灰になった。




この戦いは、どうやらテレビ中継されてたらしい。

私たちは英雄扱いされるようになった。

戦いが終わった後は、壊滅した地域の復興作業を行った。

それが終わると皆各々が自分の道へと進んでいった。


タケルはその後も活動を続けていた。タケルは国民の"期待"と"希望"を背に、テレビの向こう側で戦っていた。引退した私も、影ながら応援していた。


何年か経ち、久しぶりにタケルから連絡があった。

話したいことがあるらしい。

私は雨が降る中、集合場所の朧剣道場に足を運んだ。


『よお、タケル!久しぶりだな!』


『...ああ、元気にしてたか?』


『引退してからやることがなくてな、趣味の射撃を今はやってるよ』


『そうか』


私たちは剣道場をまわりながら、昔のことを思い出していた。


『ここでお前が奥義を使った時はビックリしたぜ』


『お前に勝ちたくてな、裏でコソコソ練習してたんだ』


『...みんなに俺の夢を伝えた時、俺は半分投げやりで言ったんだ。みんなきっと笑うだろうな、てね。だけど認めてくれた。ありがとな、タケル。お前らがいなかったら、今の俺はいないからさ』


『ああ、俺もだ』


タケルは、何を話しかけても、どこか上の空だった。


『なぁ、話したいことってなんだ?』


『......俺、最近思うんだ。もしかしたらこの世に"悪"が存在するのは、俺のせいなんじゃないかって。この"物語"が終わらないのは、俺がいるからなんじゃないかって』


『...急にどうしたんだよ』


『俺は、お前と同じ夢を持った。持っちまった。正義のヒーローになるという夢をだ。ヒーローは"悪"がいなきゃ存在できない。つまり、俺がいる限り、"悪"が滅びることはないってことさ。だから』


タケルは懐から何かを取り出す、、、拳銃だ。

それを頭に当て、引き金に指をかける。


『ばか!やめろ!!!!!』


『後は任せたぜ、"相棒"』


乾いた一発の銃声が、雨の中鳴り響いた。



タケルが死んだ事は、すぐに世間に知れ渡った。

今まで"希望の象徴"だった英雄が、自ら命を絶った。

こんなこと、あってはならない。

だから私を犯人に仕立て上げた。動機は栄誉が欲しかったから、、らしい。


だが、彼の"希望"は"超能力"という形で受け継がれるようになる。そいつらは後に、

"第二世代"と呼ばれるようになる。




『これが俺の過去だ』


朧は困惑した表情で立っていた。


『朧一族について黙っていたことは悪かった。お前がまさか本当にタケルの娘だとは思わなくてな』


『......じゃあ、先輩は、無実の罪でここにいるってことですか?』


『それは違う。俺にも罪はある。タケルの本当の気持ちに、気づいてやれなかった。それに、俺は俺の目的のためにここにいる』


『父は何故、私と母を置いていったんですか...』


『......確かにアイツは無責任に死んでいった。だがな、これだけは覚えておいてくれ』


『アイツはお前らのことを、心から、愛していたぞ』




その後の一ヶ月間は、朧の射撃訓練に時間を割いた。朧は私が教えることをひとつひとつ噛み砕いていき、順調に上達していった。


そして一ヶ月後、第二世代掃討作戦が開始されようとしていた。

第二世代の連中はこの高層ビルで"金持ちの舞踏会"と言う名目で"合同会議"を開くらしい。

我々はその中に潜り込み、"その時"を待っていた。


『今日はお集まりいただきありがとうございます。初めに、議会長からのお話です』


舞台の真ん中に、大柄な男が顔をだす。


『勇者タケルが死んだ今、我々こそが世界を救うのにふさわしい人間なのです。ですが、そんな我々を敵対視する組織が、今なお暗躍しております。ここにいる皆様が団結し、力を合わせてこの強大な"悪"に立ち向かうのです!』


『皆様、お手元のグラスをお持ち下さい』


『我らが進みし道に、栄光あれ』


『『我らが進みし道に、栄光あれ』』


そう言うと、感極まった英雄達がグラスを口に運んでいく。


次の瞬間、それを飲んだ彼らが一斉に倒れていった。

同時に、天井から大量の毒ガスが放出された。


『なんだ!?何が起こっている!?』


『朧、ガスマスクは付けたな』


『はい』


『よし、我々は一旦外に出るぞ』


ビルの外に出て、奴らが脱出しないよう出入り口を塞いだ。それでも出てこようとする奴らには鉛玉を食らわせてやる。

今回は会社全体がこの作戦に関わっている為、多くの人員を確保することが出来た。


『最後の仕上げだ』


ビルの柱に設置した無数の爆弾を起爆装置で爆破する。

ビルは根本から崩れていき、周りの住民を巻き込んで崩落していった。

いくら超能力者といえど、この圧倒的な質量にはなす術なく潰されていった。


だが、崩落したビルの残骸から、一人の男が飛び出してきた。


『お前は......』


『"始末屋"、知っているのか?』


この作戦の指揮官殿が尋ねてきた。


『ええ、知っています。アイツは、"前のパートナー"だった奴です』


『名前は、柏木ミツル。この会社の中で、俺の次に強かった...まさか生きているとは...』


『お久しぶりですね、先輩』


ミツルは、先程の攻撃なんて無かったかのように無傷で目の前に現れた。


『どうして黙っていた?』


『何をです?』


『生きていたことをだ』


『会社から一度離れるためですよ、先輩、貴方を救うためにね』


『俺を救う?』


『はい、私はあの時重傷を負い、会社の病院で死にかけていたところを、とある人物が救ってくれたんです』


『あの方は私にこう言いました』


《お前の命を救ってやる、お前に力を与えてやる、そのかわり、お前の最も尊敬する人物を


《救え》


『その尊敬する人物こそが貴方なのです、先輩』


『今日は貴方を殺すためにここにきました』


『"救う"のに"殺す"のですか?』


『そうだよ、"新しいパートナー"。彼が今最も望んでいるのは自らの死。死ぬことで"終わらせようとしているんだよ"』


『......そうさ、俺は死にたいと思っている。タケルを救えなかった俺に、生きる価値は無いと思ってる。けどな、俺にはまだやるべきことが残ってる。ここで死ぬわけにはいかない』


『なら、私を止めてみて下さい、先輩』


そう言うと、ミツルは急速に距離を詰めてくる。


(速い!!)


受け身の体勢にはいった私の目の前に、朧が体を出してきた。


『朧流抜刀術【水壁】』


水をまとった刀身がミツルの攻撃を受け止める。


『...なぜあなたが出てくるのです?』


『私は先輩の"パートナー"です。守るのは当然のことです』


『なるほど、ならば新旧対決といきましょうか!』


ミツルはそのまま朧に攻撃を続ける。


(刀相手に拳で!?)


『気をつけろ!ミツルは近接格闘のプロだ!迂闊に近づいたら返り討ちにされるぞ!』


『ー!』


朧は一旦距離を取ろうとして刀を振るが、ミツルはこれを躱し懐に入った。


『【発勁】』


ミツルの打撃は、朧の内臓を直に攻撃し、朧は血を吐いてうずくまっていた。


(中、中国武術、、だと、、、)


『終わりです』


倒れ込む朧にミツルは拳を振りかざす。


次の瞬間、爆音と共に一発の銃弾がミツルを捉えた。

私が撃ったライフル弾は確かに標的に着弾した、、、、はずだった。


『私にソレは通用しませんよ』


銃弾はミツルの半径1メートル付近で静止していた。


『私が授かった能力は、"超高速で動く物体を静止させる"』


『先輩が得意な銃火器での攻撃は効かないってわけです』


今度こそ打つ手なしか、そう思われた時、


『うぉぉおおおおおお!!』


空から一人の漢が舞い降りる。


『ー!』


ミツルは彼の攻撃を受け、ビルの残骸まで吹っ飛んでいった。


『待たせたね、二人とも』


『部長!!』


『......なんであんたがここにいるんですか?』


『なぁに、可愛い後輩がピンチの時、駆けつけるのが理想の上司というものだからね』


『ミツル、お前の引導をここで渡してやる』


『..."師匠"、手加減はしませんよ』


そう言うと、二人は同時に飛び出して互いの拳をぶつけ合う。

二人は並みの人間では近づくことすらできない衝撃波をだしながら格闘している。


『先輩、どうします?銃が使えないんじゃ遠距離からの援護もできません』


『朧、俺に考えがある』


そう言うと俺は小さな声で朧に耳打ちをした。


『......分かりました、先輩が言うんだから必ず成功しますよ!』


二人は依然、凄まじい戦いを繰り広げている。


『強くなったな、ミツル』


『あんたに追いつくために、ここまできたんだ』


『お前は確かに成長した。だが、お前は大きな間違いを犯した』


『間違い?この私が?』


『それはな、"仲間を最後まで信じられなかったことだ"』


『"タケシ"躱せ!!!!!』


『おう!!!』


朧が抜刀の構えをとり、技を繰り出す。それを私が推進力にして一気に距離を詰める。

かがんだタケシの頭上を通り、ミツルに突撃する。


『甘い!!』


ミツルは能力を使い、私を空中で静止させた、、、だが


『お前の能力がどの程度のものなのかは知らないが』


『"ゼロ距離射撃には対応できまい"』


ミツルの腹に当たった銃口から、一発の弾丸が放たれる。

弾丸を食らったミツルはよろめきながら倒れ込む。


立ち上がったタケシが、ミツルの前に立ちはだかる。


『ミツル、どうしてだ!どうしてアイツを殺そうとした!』


『...俺が弱かったからですよ。あの人の心の苦しみも、あの人の後悔も、あの人が経験したどうしようもない"結末"も全て知っていたのに、何も出来なかった、隣に立って戦うことすらできなかった』


『それは違う!お前は俺の一番弟子で、アイツの唯一の理解者だ!お前は弱くない!弱くなんかない!』


『ははは、ありがとうございます、師匠』


ミツルの体は徐々に衰弱していき、もう長くはもたない状態になった。


『先輩、俺の最高の先輩、どうか最後にお願いです』


『...なんだ、言ってみろ...』


『どうか、"彼女"を、呪縛から解放してあげて下さい』


『...ああ、もちろんだ』


『ありがとうございます...どうか、貴方が進みし道に、幸福あれ...』


そう言うと、ミツルは静かに目を閉じた。

こうして第二世代掃討作戦は"成功"という形で幕を下ろした。




『よくやってくれた、"始末屋"』


『ありがとうございます』


私と朧は会議室に呼ばれ、Officerの者どもと対面していた。


『今回の作戦で敵の戦力を全て削ることができた。これで第二世代はほぼ全て消えたと言っても過言ではない。だが、またいつどこで湧いてくるかわからない、君は引き続き任務にあたってくれ』


『了解しました、失礼します』


そう言って私は会議室の扉を閉めた。途中で"寄り道"をしながら、本部の入口まで戻ってきた。


『いいんですかい?"社長"。アイツからは裏切りの臭いがぷんぷんしますぜ?』


『ああ、問題ない。たとえ彼が裏切っていたとしても』


『"死ぬのはお前らだけだ"』


次の瞬間、本部のビルは会議室もろとも爆破した。




『朧、お前に話がある』


本部に帰る途中、私は朧と二人きりで会話した。


『何ですか?』


『俺の"最後の仕事"についてだ』


『最後の仕事...ですか』


『ああ、俺は今日、本部を襲撃する。その時お前には俺の援護をしてほしい』


『...わかりました。先輩の目的を果たす時がきたんですね』


『そうだ、これで終わらせる、絶対にだ』




『ビルの爆破に成功。朧、聞こえているか?』


『はい、聞こえています』


『俺は今からもう一度中に侵入する。お前は俺の死角からくる敵を撃ってくれ』


『了解です』


朧と無線でやりとりしながら、ビルの最上階を目指して突き進んでいく。

途中で妨害してくる敵は朧が倒し、私は最速のスピードで進んでいく。


ビルの最上階が近くなってきた時、廊下の角から突然クソ上司が飛び出してきた。

私はとっさに身をひねり、彼の攻撃を躱した。


『...そこをどいてくれ』


後ろには追手がすぐそこまできている。朧の援護も、ここじゃうまく機能しない。


『...ミツルが遺した手紙から、全てを知ることができた、、、本気なんだな?』


『ああ、俺はもうあの時の俺じゃない』


『なら、やることはひとつだけだな!』


そう言うと、彼は私の後ろに立ち、追手に向かってこう叫んだ。


『ここを通りたくば俺を倒せ!!"主人公"が進む道、何があろうと譲らんぞ!!!』


『...ありがとう、"タケシ"』


『まかせとけ、"魂の友"よ』


私は前へと進む。

私が倒すべき相手が待つ、最上階へと。


最上階に着くと社長室と書かれた扉を見つけた。

扉を開けると、全面ガラスで覆われた空間が広がっていた。

その中心に、一人の青年が立っていた。


『やぁ、"ベテランくん"、、、いや、"ブィラン"と呼ぶべきかな?』




『やはりお前は殺しておくべきだったな"始末屋"』


『ブィラン、なぜバカをそそのかした?なぜミツルを利用した!?』


『なぜって、彼らは知りたがっていたからだ。お前の過去を。彼らは欲していたからだ。

お前を救う力を』


『...なぜそんな周りくどいやり方をしたんだ?昔のお前ならとっとと俺を殺して、世界をぶっ壊そうとしていただろ』


『言っておくが、昔のアイツと今の私は別人だよ。姿が一緒なだけでね』


(口調が少し変わった......?)


『私にはね、お前と同じで負けられない理由がある。この"物語"が終わらないように、もう!あんな"結末"にさせないように!!』


『...今のお前の言葉を聞いてハッキリしたよ。確かにお前は別人だ。アイツには無かったものが、お前にはある。だがな!"終わらせないため"に人を殺してる時点で、アイツと同じ"悪"なんだよ!』


『タケルは、"正義があるから悪が生まれる"、そう言って死んでいった。だがそうじゃなかった。正義がなくとも悪は生まれるし、悪がなくとも正義は存在した。その両方があるせいで"この物語は終わらない"。ならばどちらも消えればいい』


『俺は、"正義"である第二世代を倒した。後はお前だけだ、ブィラン』


『お前を倒して、今度こそ終わりにしてやる!!!』


『終わらせない、絶対に終わらせない!!!』


"結末"を知る者と、"結末"を望む者、互いの想いが今、ぶつかり合う。



先に仕掛けたのは私だった。

小型小銃でブィランを牽制し、隙を見てリボルバーを撃ち込む。

ブィランもそれを避けながら、投げナイフを使い攻撃してくる。


『どうした?お得意の"超能力"は使わないのか?』


『必要ない。私にはコレがある』


そう言うとナイフを空中に投げ、落ちてきたところを狙い、目にも止まらぬ速さで蹴り飛ばしてきた。


『ー!』


超高速のナイフは私の肩に突き刺さった。


『舐めるなよ、私とお前とでは"生きた世界"が違う』


ナイスの斬撃はとどまることを知らず、防戦一方の状態になった。


(まずいな、このままじゃ勝てない)


『コレはあまり使いたくなかったんだがな』


『借りるぜ、朧』


『朧流抜刀術【時雨】』


目にも止まらぬ速さで懐に入り込む。ブィランがナイフを取り出す一瞬の隙を突いた。


はずだった。


私の刀は、一発の銃弾によって叩き落とされていた。


『朧?朧か!?なぜ邪魔をした!?』


『わ、わかりません、、けど、い、今撃たないと、何か大事なものを失いそうで、、』


『朧、、、泣いているのか?』


私には理解できなかった。なぜ朧が邪魔をしたのか


『ありがとう、"サツキ"』


なぜアイツが朧の名前を知っているのか。


ブィランは落ちた刀を拾い、私のところへ歩いてくる。

私は後ろにさがろうとするがなぜか体が動かない。


『やっぱりそこにいたんだね♡"ユウ"』


『私は信じてた、信じてたよ、、』


『"ユウ"は私を置いていかないって、、、』


(なんだ?何を言っているんだ!?)


すると突然、私の目の前に小さな少年が現れた。


『もう、諦めてくれ』


また、お前なのか?


『終わらせないことで、助かる命もあるんだよ』


お前が、、"ユウ"なのか?


『だからさ、、、らくになっていいんだよ』


その瞬間、刀が私の腹を貫いた。




お前は、どうして"ここ"にいる?


『"彼女"を救うために"ここ"にいる』




......ふざけるな


ふざけるなふざけるなふざけるな!!


俺の体は俺のものだ!!俺だけのものだ!!

俺はタケルとの約束を果たすために"ここ"にいる!!

他人に好き勝手されてたまるか!!

救いたいんなら、救えばいい!

お前は自分一人じゃなにもできないのか?


『...お前は、お前らは、自分が何をしたのかをまるで理解していない!!』


『"主人公のいなくなった世界に価値は無い"タケルが終わらせてしまったことで、大勢の人が死んだ!!生き残った人々も、苦しみながら死んでいった!!』


『"彼女"は生き続けた、生き続けてしまった!!あの"地獄"を何度も見てしまった!!彼女の心はもう、とっくに壊れていたんだ!!』


『僕はそれに、、気がつかなかった、、、』


だからお前は救うのか?


『そうだ、だから僕は、彼女を救う』


なんだ、案外ちゃんとしてんじゃん


『何を、言っているんだ、、


彼女を救いたい?だったらお前は


『こうするべきだ!!』



刀を握った奴の手を、おもいっきり掴んだ。


『逃がさねぇぞ!』


『"ユウ"、どうして?どうしてなの?』


ブィランは必死に離れようとする。


『ユウ、お前はらくにする相手を間違えてると思うぜ』


最後の力を振り絞り、無線に向かって叫ぶ。


『朧、今だ!俺ごと撃て!!』


『そ、そんなことできません、、』


『朧、、、、、、俺はお前を信じてる』


『だってお前は、俺の"最高のパートナー"だから』





一発の銃声が鳴り響く。


『今まで、、ありがとう、、皐月、、』


無線はここで途切れた。


『先輩、、う、、うわぁああああああああああ』




灰色の空から雨が降り出す。

ガラス張りの部屋から、その景色を見上げる。


『タケル、お前の"後始末"、ちゃんとやっといたからな、、』



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