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「なろうラジオ大賞4」のための物語

夏祭りの金魚には、たぶん注意が必要だ(オリジナル版)

作者: ヤギマルケイト

(はじめに)


「第4回 小説家になろうラジオ大賞」参加用に書かれた同タイトル超短編の、1000文字化される前のオリジナル版です。


2分で読むことはできませんが、よろしければお楽しみください。




 夏祭りの金魚には、たぶん注意が必要だ



           ☆



「おまつりー」「おまつりだー」


 ちょっと油断していると未だにどっちが上だか下だったか判らなくなるチビたちを連れて、夜の賑やかな境内を歩く。


 夏休みに帰省した祖父の家。

 何やかやで双子のおもりを押しつけられるのはいつものことだったけれど、それが近くの神社の夏祭りに当たる、というのは思わぬ拾いものだった。


 祭りなんて、普段一人じゃ来ることなんてろくにない。

 もののついでも悪くないな。

 こういう雰囲気は嫌いじゃない。


「あめー」「りんごあめー」

 まぁ時折、唐突に動物みたいな猛ダッシュですっ飛んでいくチビたちをうっかり見失ったりしなければ、の話だけど。

 こら待ておい。



「きんぎょー」「きんぎょだー」

 果たして「金魚すくい」と大きく書かれた屋台の前にチビたちはいた。

 こういう時、双子は目立つから助かる。


「きんぎょかわいいー」「かわいいねー」

 水槽をのぞき込んではしゃぐチビたち。

 たかが金魚くらいで大喜びできるなんて、子供ってのは無邪気でいいもんだ、なんて思いつつ、とりあえず表面上は「そうだね金魚かわいいね」などと話を合わせ、自分も何とはなしに水槽をのぞき込んで……

 仰天した。


 そこにとんでもないものがいた。


 何匹もの金魚にまぎれて1匹。


 何が?と聞かれても困る。

 何だか判らない。


 大きさは他の金魚たちと同じくらい。まぁ確かに魚っぽく見えなくもない。

 だけどあんな、蛇みたいな長い二股の尻尾は普通、魚類にはついてなかったと思う。


 大きく裂けた口にはいかにも恐ろしげな牙が上下に何本も。

 目玉は前面に大きいのが1つだけ。

 そしてその上、額からは、ドリルみたいに長く、ねじくれた角らしきものが1本。


 何だか判らない。

 全然まったく判らない。

 でも断言していいと思う。


 少なくとも、金魚じゃない。

 絶対に。



「きんぎょかわいいねー」「ねー」

 チビたちは驚きもしない。楽しそうに何匹もの金魚と()()()を眺めている。

 いや違うから。

 そいつ金魚なんかじゃないから。


 いったいどういうことなんだこれ?と店主の反応をうかがってみる。

 半分寝ているような初老の店主は、のほほんと平和な顔でそれを見守っていた。別段この光景が異変だとは思っていないらしい。

 ひょっとして、自分にしか()()()の姿は見えていないのでは?なんて思ってしまう。


「とってー」「とってー」

 チビどもが恐ろしいことを言い出す。

 もちろん他の普通の金魚ではなく、あの謎の生き物のことを言っているのは間違いない。


 捕れるのか?こんな謎生物。

 別に伝説の剣的な奴が用意されてるわけでもない。あるのはごくごく普通の、伝説の金魚すくいの道具だけだ。

 勝ち目あるんだろうか。


 てかそもそも捕って大丈夫なのか?これ。

 うっかり捕ったりしたら、後々何かとんでもないことになったりはしないんだろうか。

 不安しか感じない。


「ねー」「ねー」

 同じ顔がしつこくねだる。自分たちで捕ろうという気はさらさらないらしい。


「とってー」「ねーとってー」

 さらに迫る双子。

 さてどうしたもんだろうか。


 しばし悩む。……いや本気で悩む。

 考えて考えて考えて。

 そして──


 まかせとけ、とばかりに親指を立ててみせた。

 チビたちから歓声が上がる。


 もちろん、自信があるわけじゃなかった。

 あるわけあるか、こんなもん。


 でもこれで、とりあえずやるだけやってみた、という体裁は整った。

 捕れなかったとしても、何か適当に言い訳でもしておけば大丈夫だろう。


 万が一うっかり捕れた場合は──


 まぁ、その時はその時ってことで。


          ☆


 ……まさか本当に捕れるとは思わなんだ。


「かわいいー」「きんぎょかわいいねー」

 ビニールに入った謎の生き物を見ながら大喜びするチビたち。この世にも恐ろしげな代物を「かわいい」と評するセンスが判らない。


 ……どうしよう。


 どうしよう本当に。

 自分でやったことながら頭を抱える。


 やっぱマズかったんじゃなかろうか。大変なことをやらかしてしまったんじゃないだろうか。

 今ならまだ何とかできるかも……


 でもまぁ──と思い直す。


 言ってもしょせんは夏祭りの金魚だ。そんなに長生きするものでもないだろう。


 あれこれ心配したけれども何事もなく時は経ち、遠からずいなくなって「残念だね」なんて言ってお墓作ったりして。

 子供だからすぐにそんなことも忘れて別のことではしゃぎ回り出し、さらに時は経ち……

 やがていつかは、そんなこともあったな、あれいったい何だったんだろうね、なんてただの笑い話になる日が来るのかもしれない。

 現実なんてそんなもんだ。


 大丈夫大丈夫。

 そう自分に言い聞かせて1人うなずく。


 それが甘い考えであったと、すぐに思い知ることになるのだけど。


          ☆


 翌朝。

 怪生物は、昨日の3倍近くの大きさに成長していた。


 絶対に金魚じゃない。

 早すぎるだろいくら何だって。

 気のせいか、外見的にもより怪物っぽさが増してきたように思える。


 とりあえずビニールから大きい水槽に移された。が……このペースで成長したりしたら、果たしてあれでも大丈夫なのかどうか。


 もちろん──

 大丈夫じゃなかった。


          ☆

 3日後。

 怪生物は、ちょっとした大型犬ほどのサイズになっていた。


 一度は風呂場の浴槽へ移された。だけどそれでも安心はできない。成長はまだまだ続いているし、風呂は家族だって使うんだから。

 こいつといっしょに入浴するわけにもいかないし、そもそもこいつがいる状態で風呂を沸かしちゃダメだろたぶん。


 だが、心配御無用である。

 浴槽もすぐに不要となった。


 こいつは水から出て、空を飛び始めたからである。


 大きいヒレだと思っていたそれは、よりヒラヒラと大きく──今や翼のような形になってきていた。

 体やら尻尾やらいろんな部分からトゲみたいなものが生えてきていて、見た目の凶悪さにはより拍車がかかっている。

 時折、ちょっと火を吹く。


「すごいねー」「きんぎょすごいねー」

 チビたちは大喜び。


 いやいやいや。

 おかしいって。

 金魚は飛ばない。火も吹かない。


 絶対に金魚じゃない。


          ☆


 1週間が過ぎた。


 もはや何物か判らない生物は、今や伯母の軽自動車と並べても遜色ない大きさと存在感になっていた。


 とりあえず今のところ大きな問題は起きていないようだが、すっかり懐きまくりのチビたちがある日いきなり喰われたり丸焼きになったりしやしないかとこっちは心配で仕方ない。

 祖父も祖母も伯母夫妻もその息子夫妻も、家族は皆、特に何を口出すこともなく、それらを微笑ましく見守っている。

 どうなってんだ。

 ひょっとして自分の感覚の方がズレているのか?と思いたくなる。

 違うと思うんだけどな。



 だが……やはり限界はあった。


 あまりに大きくなりすぎたそれは、もはや家の庭で飼うにも難しくなりかけていた。

 先々のことも考慮すればなお、である。



 やはり自然に還すべきだろう。


 それは出るべくして出た結論と言えた。


 もちろんチビたちは最初、猛反対したのだけれど、最終的にはどうにか納得して受け入れてくれたようだった。

 昔あいつらと見ていたアニメなんかにも似たような話があった気がするし、そういうことも世の中にはあるんだ、仕方がないことなのだ、と幼いながらもどこかでちゃんと判っていたのかもしれない。


          ☆


 翌朝。

 すっかり大きくなった謎の生き物を連れ、チビたちと近くの山へと向かうことにした。


 が──案外そこからが大変だった。

 いざ来たら来たでチビたちはやはり別れを惜しがったし、こっちはこっちで改めて考えてしまったりもする。

 こんな、よく判らない謎の生き物を無責任にいきなり山なんかに放してしまって、果たして大丈夫なのか?

 大丈夫じゃないんじゃないだろうか。

 やっぱマズいんじゃなかろうか。


 だが今さら保健所とかってことにもできないし、そもそも保健所がこれに対応してくれるのかどうかが判らない。


 いいのか?大丈夫なのか?

 本当にいいのか?

 何が正解なんだろうか。


 答えに迷い、ついでにちょっと道にも迷いながら、全てを丸く収めるのに良さげなポイントを探して歩き回っているうちに、すっかり遅くなってしまった。

 辺りがどんどん暗くなっていく。


「まっくらー」「くらいねー」

 よろしくない。

 このままじゃこいつを山に還すどころか、うっかりするとこっちが山から帰れなくなってしまう。冗談じゃない。

 早く何とかしないと。

 そう思い始めた頃だった。



 突如、

 そいつは光を放ち始めた。


「ぴかぴか一」「きんぎょさんぴかぴか一」


 姿が変わっていく。

 変身、とも脱皮、とも少し違うような。


 変容。


「すごーい」「きれいだねー」


 もとのフォルムはどことなく残したまま、さらに“進化”したものに。

 怪物というよりは──

 美しくもどこか神々しい、何かに。

 光の中、()()は変わっていく。


 あぁ……もう。


 少なくとも──

 金魚じゃない。

 絶対に。



『──ありがとう。心優しき人間たち』


 ()()が穏やかに口を開いた。


『君たちのおかげで、私は助かったのだ』


 まるで天から直接響いてくるかのような声は、そのまま静かに語り始める。

 自分は何者なのか。何故このような姿でこんな所にいたのか。このままでは危うくどんな事態に陥っていたのか──


 だけど。

 正直、まったく頭に入ってこなかった。


 ただでさえ謎だらけの怪生物だったってのに、ここへ来て光るわ変わるわ、おまけにしゃべり出すわ。それだけでもうこっちはいっぱいいっぱいなのである。

 情報量が多すぎる。

 頭が全然追いつかない。


 まぁ……要するに。

 ざっくり把握した感じによると、つまりこいつは何かの神様的な代物であって、何かしらの事情で力を封じられるか何かで、こんな姿になっていた……っぽい。

 我々があそこでゲットして育てていなければ、あるいは力を失って消滅していて、そうなると世界はとんでもないことになって……いたかもね、みたいな。

 たぶんそんな話。


「すごいかっこいいー」「きんぎょさんかっこいいー」

 たぶんチビどももまったく理解はしていないと思われる。

 ゴメン神様。

 何かずいぶん話してくれたのに。



『──残念ながらもう行かねばならない』

 神様らしきものは言った。


 還らなければいけないようだ。

 どこヘ──ってたぶんその辺の話もちゃんとしてたんだろうな。本当ゴメン。

 まぁ、謎生物を山の中に放置する結果にならずに済んで、正直こちらとしてはありがたい限りなのだけれど。


 何か礼がしたいと言う。


「いぬー」「いぬがいいー」

 チビたちが迷うことなく即答する。


 大切に育てた愛しい金魚に向かって、犬がよかったとのたまうのかお前らは。

 いや金魚じゃないけど。

 子供ってのはホント時にストレートで残酷である。改めて何だか申し訳ない気分になってくる。返す返す本当にゴメン神様。


 神様的な何かは一応、こちらへもちょっと目をくれたけれど、いいです犬あげてください、とうなずいておいた。


 正直、何も思いつかなかった。

 頭の中がいっぱいいっぱいだった。

 今にして思えば、何か叶えてもらうべきだったのかな、とも思うのだけど。



『さらばだ──』


 神様はそう言うと、ゆったりと上昇していった。

 その体が一際大きく光を放ち、

 そして──


 姿を消した。



「ばいばーい」「きんぎょさんばいばーい」


 楽しそうに大きく手を振るチビたち。

 こっちはといえばその隣で、ただただ呆然とするばかりだった。



 ……何なんだ。


 何だったんだ結局。


 夢か幻か……いや現実か。

 何が何だかさっぱりである。


 何が起こっていたんだろう。


 ……まぁ、でもとにかく。

 良いことをしたのだと思う。たぶん。


 よくは判らないけれど、チビたちは困っていたあれを助けたのである。きっと。

 命を救ったのである。

 そして世界を救ったのである。


 それで十分。

 それだけでいい。


 とりあえず、今はそういうことにしておこう。



 ──あぁなるほど。

 ふと思った。


 そう言えば、最初からちゃんと書いてあったじゃないか。

 あの屋台の看板に大きく。はっきりと。


 「金魚すくい」って。


          ☆

 後日。


 祖父の家には、どこからか一匹の子犬が届けられ、チビたちは無事、それを飼うことになったそうだ。


 何でも……

 目玉が3つあり、

 角が3本生えているとか。


 さて──

 どうなることやら。







(作者よりもう一言)


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

というわけで。

オリジナル版をお送りいたしました。


いくらか長くはなってしまいましたが、その分、中身はより濃く詰まったものになったのではと思います。たぶん。


完成版との差異などもお楽しみいただければ、幸いです。

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