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08.困った事件

 結局、ルークは自分の持ち場をさっさと終わらせて、シルフィーの手伝いをしていた。シルフィーが本の仕分けをして、棚に戻そうと手を伸ばすと、横からルークが手を出してくる。


「これは俺が持つよ。」

「あ、ありがとうルーク。」


 そして優しく微笑まれるのだ。ぴったりとシルフィーにくっついて離れないまま器用に本を棚に並べていく。シルフィーの邪魔にならないように動きながら、決してシルフィーから離れようとはしない。

 シルフィーとしてはルークが近すぎて気が気ではないので離れて欲しかった。しかし最初は注意していたラビも諦めてどこかにいってしまった。ルークに何と言ってらいいのか分からず、ただただ耐えるしかなかったのであった。


 しかし、そんな甘い時間も長くは続かなかった。


「失礼しまーす!」


元気の良い声が静かな図書室に響いた。


「何なんじゃ!図書室では静かにしなさい!」


入口に一番近くにいたラビの怒った声が聞こえてきた。見知らぬ声に、シルフィーは緊張した。体をこわばらせて心臓がものすごい音をたてている。そしてシルフィーはルークの様子を伺った。すると図書室にやってきた人物に心当たりがあるようでルークは忌々しそうな表情をしていた。

 その表情があまりに怖くて、シルフィーは震えた。


ーーあれ?私の知ってる可愛いルークの顔じゃない……?


今まで見たこともないルークの表情に戸惑いを隠せなかった。

 人と関わるのは怖い。

 知らない人はもっと怖い。

 しかしこのままでいるわけにもいかない。

 シルフィーは年下ルークの前ではお姉さんでいたかった。その気持ちの方が勝り、小さく声をかけた。


「ルーク、行ってみよう?」

「えー……。あー。うーん……。」


 見るからに不満そうである。

 行きたくなさそうに視線を泳がせているが、じっと見つめてくるシルフィーには敵わなかった。ルークはため息をついて、シルフィーに寄り添って、入口へと向かった。

 不満そうにしつつもシルフィーの言う通りしてくれたルークにシルフィーは胸を撫で下ろした。


 入口付近では、ぷりぷりと怒っているラビと、もう一人男子生徒がいた。


「すみません!あのぉ、ここにルーク生徒会長は来てませんか?」


赤毛にタレ目の男子生徒は、非常に明るくて、怒られているというのにヘラヘラと笑っていた。だがその笑顔が爽やかで、不思議と嫌な気持ちにはならない。


「うるさいぞ、ゼノ。」

「あ!いたーー!」


 ルークを見つけたゼノという男子生徒は、大きな声でルークを指差した。その勢いにシルフィーはビクッと体をはねさせた。知らない人というだけで緊張してしまうのに、あんなに馴れ馴れしく近寄られるとさらに緊張してしまう。

 そんなシルフィーの様子を見たルークは、シルフィーを支えるようにぎゅっと肩を抱き寄せた。肩を抱きしめるルークの手に、不思議と安心感を覚えたシルフィーは、少しずつ落ち着いていった。


「探したぞ、全く。」


ゼノはむすっとした様子でルークに向かい合った。


「何かあったのか?」

「ええ!?いやいや!ほら約束したじゃん!」

「忘れたな。」

「酷いっ!」


ショックを受けるゼノの様子で、シルフィーはルークが図書室の手伝いを優先してくれたのだろう、と分かった。しかしゼノに申し訳なくて、ルークに尋ねた。


「ルーク、約束があったの?」

「シルフィー。」


シルフィーに困ったような表情で尋ねられると、ルークはどうも弱い。嘘をつくことも出来ないが、ゼノとの約束を故意にすっぽかしたと言うと怒られそうで、ルークは答えに困ってしまった。


「え?え!何何!?彼女が噂の花嫁さん!?」


 そんなルークの様子から、ゼノが目を丸くして問いかけた。

 ルークは困ったような表情のシルフィーと、興味津々のゼノを見比べ、大きくため息をついた。

 本当はシルフィーのことは隠しておくつもりだった。結婚したことは積極的に広めたが、その相手が誰か分かれば、必ずそこに人が集まってしまう。ただでさえ人と接する事が苦手なシルフィーがそんな事になるのは望ましくない。

 そのため、ルークは徹底してシルフィーのことを隠そうとした。

 それがまさかこんなにも早くバレてしまうとは。


「うわ!実在したんだー!」


キラキラした瞳でシルフィーを見るゼノに、シルフィーはビクビクと怯えっぱなしだ。


「うるさいぞ。ゼノ。」

「ごめん!」


ルークは低い声でゼノを脅すように忠告した。ルークの言葉で、ぱっとシルフィーから視線を外したゼノは、シルフィーをもっと見たいが、なんとか我慢している、というのが手に取るように分かった。

 そんな素直なゼノが可愛くて、シルフィーはクスクスた笑った。


「は、初めまして。私はシルフィー=ハットンです。」


そして、チラッと横にいるルークを見上げた。意を決したようにキュッと口を結び、大きく息を吸い込んで口を開いた。


「あ、あの、ルークの、妻、です……っ!」


 恥ずかしくて消えてしまいたい気持ちでいっぱいだった。顔は熱いし、手汗もすごい。

 少しだけ、シルフィーの肩を抱くルークの力が強くなった。どうしたのだろうと、上を向くと、ルークも顔を真っ赤にして、照れたように微笑んでいた。


「シルフィー……。」


 うっとりとした表情でシルフィーを見つめてくる。

 その視線はとても熱くて、目が離せない。

 獲物を捕らえた狩人のようなルークの瞳に、シルフィーは吸い込まれるように見つめた。


「初めまして!俺はゼノ=アノール。よろしくな!」


 しかし、ゼノはそんな二人の甘い雰囲気を読まずに元気よく自己紹介した。

 我に帰ったシルフィーはルークの手から離れて距離をとった。


「こ、こちらこそよろしくお願いします。」


 もうしばらく恥ずかしくてルークの顔は見れそうにない。

 離れてしまったシルフィーを名残惜しそうに見つめ続けるが、シルフィーは全くルークの方を見ようとしてくれない。


「はは。ルーク、ベタ惚れじゃん。」


それも全部、このゼノのせいである。


「そうだ。だからさっさとどっか行け。」


ルークは殺しそうな程鋭い目でゼノを睨みつけた。


「ルーク、失礼だよ。」


シルフィーが悲しそうな表情で、注意してきた。シルフィーの言葉に、ルークは大きなショックを受けた。


「ごめん……シルフィー。」


 嫌いにならないで、と言わんばかりの悲しそうな表情をしている。母親から怒られた小さな子がすがるような目でルークがシルフィーを見つめた。

 そしてシルフィーを優しく包み込むように抱きしめたのだった。


「怒ってないよ。ほら、ゼノさんの話を聞こう?」


シルフィーの言葉にルークは黙って頷いた。


「で。約束ってなんだっけ?」


 だが、ゼノに対する態度はいつもと変わらなかった。比べると悲しくなるほど冷たい。

 これがいつものルークの態度のはずなのに、ゼノは惨めな気持ちになった。


「ほらほら!ちょっと困った事が起きてるから調べてほしいって言ったじゃん!」

「何か……起きているんですか?」


 シルフィーは心配したように眉根を下げて、問いかけた。

 ゼノは頭をかきながら言いにくそうに口をモゴモゴとさせた。そして、ルークの方を見た。ルークは何も言わず、ため息をつきながら頷いた。


「実はさ。ちょっと困った事が起きてるんだよね。」




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