01.プロローグ 〜待ち受ける未来〜
煌びやかな舞踏会の会場には、多くの学園の生徒たちが集まって賑わっている。
今日は年に一度の歓迎舞踏会。
この学園に入学した生徒たちを歓迎するために開かれた舞踏会なのである。皆思い思いに着飾っていて会場をより華やかに見せている。
そんな祝いの場にそぐわない金切り声が、突然響き渡った。
「あり得ないわ!」
会場に響くその声に、自然とみんな視線を向けた。シルフィー=ハットンもみんなが向く方向へと視線を向けた。
「シルフィー。」
すると自分よりも背が高く美しい男性に視界を遮られてしまった。シルフィーの名前を呼ぶ声がとろけるほど甘くて、思わずシルフィーは頬が熱くなるのを感じた。
「ルーク。なんか、カリナの声が聞こえた気がするんだけど……?」
シルフィーは何とかして様子を見ようと体を動かしてみるが、ルークに抱き寄せられてしまい、結局見えなかった。
「ルーク?」
何故そんなことをされるのか分からず、シルフィーが上を向くと、ルークの優しい笑顔が間近にあった。その魅力的な笑顔に耐えきれなくて、シルフィーは顔を赤くして俯いた。
「そうだ。あっちに美味しいスイーツがあったんだよ。」
「そうなの?」
ルークに腰を抱かれたまま、シルフィーはスイーツの方へと誘われる。もう恥ずかしすぎて居た堪れない気持ちでいっぱいである。
そんなシルフィーの様子をルークは楽しそうに見つめていた。
そして、鋭い視線で遠ざかる騒ぎに視線を向けた。
騒ぎの中心になっていたのは、シルフィーの友人であるカリナであった。
「カリナ=グリッド伯爵令嬢。貴方が我が国の宝である本を盗み出した事はわかっている。」
「ちょっと触らないで!私を離しなさいよ!」
「罪を犯した者を離す事などできない。」
「私は盗んでなんかないわ!!」
カリナは両手を拘束され、警備員に引っ張られていく。そんな中でもカリナは大声で無罪を主張している。振り払おうと必死になって動いたため、カリナの髪はぐしゃぐしゃに振り乱れている。
この世の全てを憎んでいるかのようなカリナの鬼の形相に、周囲は動揺してざわめいていた。
「……そうよ。あの女!シルフィー=ハットンのせいよ!あの女が私に罪を着せようとしているんだわ!あの女はどこ!?」
カリナの言葉に、ルークはピクリと顔を引き攣らせた。そんなルークの様子を感じ取った周囲は、さあと顔を青くしたのだった。
急に静まり返った会場に、いよいよシルフィーは首を傾げた。
ーーん?何かあったのかな……?
気のせいだろうか。シルフィーとルークに周囲の視線が集まってきているような気もするのだ。様子を伺いたくて動こうとするシルフィーに、再び覆いかぶさるようにルークが立ち塞がる。
「戯言を言うな!今すぐその女を連れていけ!この場から追い出すんだ!早くしないと俺たちの命もないものと思え!」
カリナの言動に警備員一同蒼白になっていた。お化けでも見たかのような表情である。
その中でいち早く正気に戻った警備員の言葉で、残りの警備員が一斉に動いて、見事なまでの手際の良さでカリナを追い出していった。最後までカリナは叫び続けていたが、もはや彼女の声はこの会場の誰の感情にも響く事はなかった。
ようやく穏やかな雰囲気が流れ始めた会場に、結局シルフィーは何が起こっていたのか全く分からないままであった。
不思議そうに首を傾げているシルフィーをルークが優しく抱きしめた。
「シルフィーは何も心配しなくていいんだよ。」
「何も心配はしてな…んっ。」
優しく包み込むように抱きしめられて、そして周りには見えないように口を塞がれた。
軽く唇が触れるだけで離れた柔らかな感触に、シルフィーは顔を真っ赤にさせた。
そんなシルフィーの反応に、ルークは満足そうに笑った。
「シルフィーは俺だけを見てて。」
甘くすがるようなルークの言葉に、シルフィーはため息をついた。
友人カリナに婚約者を奪われて、婚約破棄されたから、もう二度と恋愛なんて出来ないと思っていた。ルークとは幼馴染みで、互いに利害が一致したから、かりそめの婚約を結んだだけ。
そのはずだったのに。
ーーかりそめなのに何でこんなに甘いの!?
いつの間にシルフィーはルークに捕らわれてしまったのだろう。
シルフィーはふと思い返していた。
それは、数ヶ月前。
シルフィーが婚約破棄された頃まで遡る。