終・英雄と呼ばれた男 ~引き籠もりのあがり症の俺だけれど、ゲームの最強キャラになって異世界転生したら世界の闇が怖い~
・・・・・・もうお家帰る! ・・・・・・もう俺に帰る家は無いんだけれど。帰れるなら帰りたいよ。
「冥王が勇者の仲間になれば百人力だな!」
「この町の事は任せてくれ! 何時までもアンタばかりに守って貰わなくても大丈夫だぜ!」
拝啓、地球のお母様。転生した息子は胃が壊れそうな気分です。教会関連の騎士っぽい少女(巨乳)や魔法使いっぽい少女(巨乳)や斥候職っぽい少女(絶壁)に囲まれた陽キャラ勇者君(多分地球人 凄く目がキラキラした美形)に世界を救う為の旅に誘われた俺ですが、正直限界です。
自己紹介とかアポイントメントとか取って! 僅かでも心の準備が出来るから!
背後にいるであろう国家とか宗教絡みの権力が面倒で即座に断る事は無理で、その上に俺の返事を聞かずしての大歓声。え? 俺って追放物の主人公で、町から追い出されてる? コミュニケーションは苦手でも能力のアピールは実績でしてたよね? いや、してたからこそ期待してるんだ、悪意なんか感じないんだ。此処の体育会系、ちゃんと仲間内の役割分担とか能力の情報共有出来てるから、俺の(ゲームのキャラだっていう他人の努力を嘲笑う、とても自慢する気の起きない)性能を分かって世界を救えるって。
「・・・・・・了解した」
「やった! ありがとうございます!」
断れるか! こっちは物心付いた時から陰キャラだよ? ああ、握手とか求められても困ります。それと君の周囲の女の子達、凄く距離が近いね。密着しているし歩きづらくない? 召喚されて間もないのに凄く仲が良いんだ。俺には到底無理だ。
「流石は勇者様の人徳! 初対面の冥王を即座に仲間にするなんて」
「素敵だね。流石は僕の勇者」
「・・・・・・憧れる」
いや、違うよ? 初対面の彼の人徳じゃなくて、権力と知人の圧力です。
「いや、それは違う。彼の正義を愛する熱い心のおかげさ」
それも違います。俺は小物なので飴みたいに与えられた力じゃ自信が持てないし、流されてるだけだから。だから俺なんかをキラキラした目で見ないで下さい。
所で勇者君ってどのくらい強いんだろう? 俺みたいに急に強くなった力に振り回されたり、無関係だった血生臭い戦いに精神参ってない? ・・・・・・同じ日本人みたいだし、俺の前世を話すのは勇気が居るから今は無理でも何かあればフォローしてあげないと。俺も全然慣れていないんだけれどさ。
この時、俺は勇者君を急に強くなって文化も常識も違う所に来てしまった被害者程度に思っていたし、同じ病気(みたいな物)の相手に共感していた気でいた。この世界の人間の闇を全く理解していなかったんだ。
「・・・・・・大人は汚いな」
そんなこんなで始まった勇者君+彼にぞっこんな女の子達との疎外感たっぷりの旅だけれど、勇者君は女の子達が囲んでいるし、女の子達自体は俺にコミュニケーション求めて無いのが救いだった。取り合えず魔法で後ろの方から援護するんだけれど、どうも勇者君の仲間に選ばれた教会騎士ちゃんと宮廷魔法使いちゃんと貴族配下の斥候職ちゃんの選出理由は政治的思惑があるみたいだ。
ゲームとかだと回復魔法は僧侶とかが使えるイメージなんだけれど、この世界じゃ限られた人しか使えないらしく、医療系の組合みたいなのが人材を独占しているらしい。まあ、闇雲に傷を治しても異物とかでの化膿や奥の方で何か異常が起きているとか医学の知識も必要だからって資格制らしい。
因みに俺も使えるんだけれど、専門書を読んでの勉強中だ。一人で黙々と何かをするのは好きだし、俺が楽して手に入れた力は凄いんだけれど油断してたら死にかねないしさ。
そんな回復役が居ないのは政治的な攻防に負けてパーティー選出に落ちたから。推薦されたベテラン回復魔法使いでサバイバル技術もある中年男性は”回復魔法の効果がある薬が存在するから”って理由で選ばれず、代わりにその薬は組合公認の店から提供されて勇者支援基金とやらから代金が払われるとか。
こんな旅にベテランばかりが選ばれないのも問題だけれど、運搬とか保管とか咄嗟に使う時の手間とか考えれば両方あった方が良いと思う。まあ、俺だったら回復役を狙うだろうけれど、最低限の戦闘がこなせるなら良いと思うんだけれど。
さて、実はこの旅に政治的思惑や利権が絡んで居るのは何となく説明したけれど、旅を続ければ疑問が増えるばかりだった。
「オノレ、オノレェエエエ!」
今戦っているのは緑の肌をしたデブで不細工なモンスター”ゴブリン”。腰に汚い布を巻いているんだけれど、肌以外は基本的に人間に似ている。現代人からすれば特殊メイクしただけの人にさえ見えるんだ。
「はぁああああああああああああっ!」
「ギャアアアアアアア!」
勇者君はそんなゴブリンを平気で切り殺せていた。俺なんて焼き殺すのも嫌だし氷の魔法で損壊を少なくして倒しているのに彼は肉を切り骨を絶つ感触にも平気な顔をしている。氷漬けにしただけで俺は気分が悪いし、断面が見えたから吐きそうだってのに。えっと、もしかして趣味で鳥とか捌いてた? ジビエだっけ? 狩りから捌くまでとか、そんなので慣れているとか?
「・・・・・・戦いとは無縁だったと聞いたが平気に見えるな」
「そうですか? まだまだ慣れませんよ」
それで? 俺だったら絶対その場で吐いてるし凄いと思うけれど・・・・・・。
「それもこれも勇者様の才能ですわ」
「そうだって。勇者は凄いよ」
「憧れる」
うーん、大人気。何かと勇者君を持ち上げる三人だけれど、出会う人の多くがイエスマンだったり簡単に惚れたりするし、実は彼って俺がゲームのキャラの肉体なみたいにギャルゲー主人公の肉体なんじゃ?
・・・・・・ちょっと調べてみようか
ゲームの魔法が使える俺だけれど、中には現実で使うにあたって効果が変化しているものも存在する。例えば攻撃を受けたら減って0になったら死ぬHPだけれど、敵の能力を調べる魔法では数字じゃなくって信号機みたいに万全な状態から青黄赤、そして赤の点滅って感じに文字が相手の頭上に現れる。・・・・・・あと、持病とか生年月日他の個人情報も分かるから便利だけれどプライバシーの侵害だから使うのも使われるのも嫌だ。
でも、この時の俺は胃に穴を開けては魔法で癒す日々にストレスが溜まり、魔が差して使ってしまった。
「・・・・・・は?」
召喚した側の言葉に不信感を抱きにくい? 戦闘への忌避感の減少? 関わる人間の価値観に干渉して正しいと思わせる? 好みの相手に対するチャーム? 不要な時は異性やの好意や周りの反応に鈍感になる? 召喚時に備わった力が子供に引き継がれる可能性付与?
これ、勇者君は広告塔兼拉致された傭兵みたいな認識だったけれど、そんな甘いものじゃない。モンスターが暴れる理由は魔王が狂暴にさせているって話だけれど、異世界の人間相手に(だから平然と出来るのかもだけれども)此処までの事をするんだし、戦争なんてどっちも自分が正しいって言うもんだ。凄く怪しくなって来た。
誘拐されて洗脳されて操り人形にされて、挙げ句には種馬。うわ、うわぁ・・・・・・。可哀相だけれど俺は臆病で卑怯だから知らない振りだ。巻き込まれたくない。
所で俺を加えさせたのは保険かな? 評価はされているし。
「じゃあ、三人が勇者君にぞっこんなのも?」
命令による演技かチャームの効果か。・・・・・・女性不信になりそうで、胃が更に荒れる俺だったら・・・・・・。
そして勇者君のハーレムメンバーが増えつつ遂に世界を救ったけれど、魔王が本当に悪だったのかとか権力や人間への不信感から遂に俺は山奥に移り住むことにしたんだ。サバイバルは便利な魔法と旅の間の経験で何とか。動物捌くの慣れないけれど・・・・・・。
式典とか出なかったよ。名誉とか地位とか要らない。もうお金は沢山有るから必要な物だけ買いに行けば良いし。ああ、探す人が少ないのは勝手な噂が役に立ったな。向こうも勇者が独占する方が良いだろうし、地位とか要らないっていう俺の意思を尊重するってさ中世の文明すらなくって凄く大変だけれど・・・・・・不便でもこっちの方が良かったな。
俺が居たら助けられた事件? 皆が待ってる? 知らない! 世界を一度救ったんだ。十分だろう! 一人が背負える量には限度が有る!
「あー、開き直るって最高!」
共通の敵が居ない事で戦争が始まったり、復興の遅れとか色々あるけれど知った事じゃない。俺はもう一人で幸せに暮らすんだから!
追記・十数年後に勇者君の子供を担ぎ上げての戦いに激化が起きたけれど、元々よそ者の俺には関係有りません。平和になれば世界を救える力の持ち主は危険なだけだしそれも幸せなんじゃないの?
追記2・勇者君の名前だけれど、化道 形人だってさ。