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困惑令嬢と空回り令息  作者: 夕鈴


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第16話後編 困惑令嬢の療養生活

療養中のイナベラはエリオットが傍にいると必ずベンが近くにいることに気付いた。ベンがエリオットに懐いてると勘違いをしていた。イナベラはベンの誕生日の贈り物を思いついた。ベンがラットとの訓練でいないためエリオットと二人っきりだったのは都合が良かった。


「エリオット様、私、お願いがあります」

「なに?」

「エリオット様のお休みを1日いただけませんか?もしできれば」


イナベラのお願いにエリオットは上機嫌に笑った。


「もちろん構わないよ」

「ありがとうございます。いつが都合がよいですか?」

「いつでも」

「次のお休みに伯爵邸に伺ってもいいですか?」

「迎えにくるよ」

「いえ、貴重なお時間ですもの。伺わせてください。ありがとうございます」


イナベラの嬉しそうな笑みとお願いに自分の顔がにやけているのがわかり、エリオットは平静を装った。上機嫌で伯爵邸に帰ったエリオットの様子に使用人達が怯えていた。


***


エリオットは約束の日に伯爵邸で待っているとベンが訪ねてきた。

ベンはエリオットに手紙を渡した。

手紙とお金が入っていた。ベンの誕生日を一緒に過ごしてあげてほしいと書いてあった。

エリオットはお願いを了承したときの嬉しそうな笑顔が脳裏をよぎった。

ベンは椅子に座って静かにお菓子を食べていた。

姉にお使いを頼まれた時に嫌な予感がしていた。ただ目を輝かせている姉の頼みは断れなかった。そして両親も姉の味方だった。久しぶりに能天気な両親に頭が痛くなったベンだった。


「ベン、一緒に過ごしてほしいとあるんだけど」

「放っておいてください。僕は帰ります」

「いや、義兄として祝わせてくれないか。」


エリオットは男爵邸に帰り、忙しそうだから遠慮したと殊勝な顔で姉に謝り、甘やかしてもらうベンの姿が想像できた。そして、イナベラが悲しい顔で無理なお願いをしたと謝罪をする様子も。

ベンの訪問を聞いた伯爵夫人が顔を出した。


「エリオット、忙しいなら私が預かるわよ。ベン、お菓子があるの。私とお茶してくれるかしら?」

「喜んでご一緒させてください」


伯爵夫人の声にベンは無邪気な笑顔で頷いた。エリオットは母親には逆らえないので譲ることにした。

ベンは恭しく伯爵夫人に手を出して、エスコートしていた。自分の息子と違って可愛げのあるベンは伯爵夫人のお気に入りだった。

オリオンは二人が見えなくなったのを確認して腹を抱えて笑っていた。弟がイナベラの訪問を楽しみにしていたのに、ベンが来た時点で愉快なことがおこると思っていた。目の前のやりとりに必死に噴き出すのをこらえていた。


「兄上」

「義妹が優秀すぎる。贈り物がエリオットとの時間とは。しかもわざわざ軍資金まで贈るとは」

「他の人間だったら嫌がらせに報復するよ。おねだりがこれとは・・・」


頭を抱える弟を兄は愉快に見つめた。


「空まわってんな。どうすんの?」

「兄上、どうやって子供と遊べばいいの?」

「自分の子供の頃を思い出せ」

「僕、兄上に遊んでもらった記憶がない」

「お前は使用人いじめを楽しんでいたからな。俺が誘っても頷かなかったし、男爵領にお忍びにばっかり行ってただろうが」

「料理人にお菓子でも大量に作らせればいいの?兄上、仕事をかわるからかわってよ」

「お前が忙しくて俺に祝ってもらったって言われてもいいなら。イナベラ、恐縮するだろうな」

「なんて小賢しいんだ」

「お前も小賢しいだろうが。男爵領に連れて帰って、3人で過ごせば?イナベラも誘って食事にでも行けよ」

「さすが、兄上。ベンの服を見繕ってくる」


エリオットは久しぶりに兄を尊敬した。

ベンは伯爵夫人とのお茶が終わると、エリオットに無理やり着替えさせられた。


「僕、帰りたいんですけど」

「送るよ」

「一人で帰れます」

「男爵家の馬車は先に帰したから、僕と一緒に帰ろうか」

「わかりました」


男爵領に着くと、二人は目の前の光景に目を丸くした。

イナベラは突然帰ってきたベンに首を傾げた。


「忘れ物?」

「姉上、なんで、こいつらといるの?」

「ベンのお祝いに来てくれたの。良いお友達を持ったわね。せっかく来てくれたからせめてお茶だけでもと思って。」


嬉しそに笑う姉の顔にベンは不愉快な顔を我慢した。

先触れもなく自分の友人達が訪ねてくるとは思わなかった。自分のいないところで姉に近づく男は嫌だった。ベンとエリオットは視線をかわして頷き合った。


「イナベラ、ベンのことで相談が」


エリオットはイナベラを自室に誘導した。その間にベンは友人を追い返すことにした。

イナベラは着替えてほしいとエリオットに頼まれ、渡された品の良いワンピースに着替えた。エリオットに服を贈られることに慣れていた。恐縮するより笑顔を見せてほしいと頼まれてからは素直に受け取ることにした。換金してもいいからと言われても換金することはできなかった。

イナベラの支度が終わるとベンの友人は帰宅していた。


「出かけるか。イナベラ、保護者なしに幼いベンを連れまわすわけにもいけないから、付き合ってくれないか?」

「姉上、僕はエリオット様との時間を十分楽しんだよ。」

「ベン、僕が祝い足りない」

「もう充分です。ありがとうございました」


イナベラは笑顔で話す二人の様子に悩んでいた。


「ベン、エリオット様の優しさを無碍にはしていけないよ。イナベラ、粗相のないようについて行きなさい」

「ベン、お誕生日だから我儘言ってもいいのよ。それにベンはイナベラも一緒のほうが喜ぶわ。せっかくだからイナベラも一緒にお祝いしてあげなさい」


両親の説得を受けて、二人はエリオットと共に馬車に乗り込んだ。

貴族街につき、馬車から降りたイナベラは真っ青な顔でベンの手をしっかりと握った。


「ベン、物に触らないで。」

「うん」


エリオットは二人を武器店に連れていった。

店主にベンを預けて、剣を選ばせていた。


「エリオット様?」

「イナベラから預かったお金を使わせてもらうよ」

「足りません」

「不足は僕に出させて。兄として贈らせてほしい。初めての贈り物だから喜ぶ物を贈りたくて」


イナベラはエリオットがベンを大事に想ってくれることが嬉しかった。剣がベンにとっては自分のドレスのようなものかもしれないと思った。諦めたた物が手に入る嬉しさを知っていた。


「敵いませんわ」

「え?」

「貴方は私にいつもかけがえのない物をくださいます。私は貴方の優しさが好きです。傍にいることを許してくださりありがとうございます」


幸せそうに笑うイナベラをエリオットは抱き寄せた。赤面している顔を見られたくなかった。時々向けられる好意が嬉しくてたまらなかった。自分の気持ちとは違っても、構わなかった。


「僕は君といられて幸せだ。いつか特別に」


「姉上!!」


イナベラはエリオットの腕から慌てて離れた。エリオットはベンが雰囲気を作ると必ず邪魔しにくるところが憎らしかった。



「ベン、剣は選べたの?」

「うん。でもいいの?」

「ベン、僕とイナベラからの贈り物だ。遠慮しなくていいよ」

「ありがとうございます」


エリオットは店主に代金を渡して、移動することにした。

イナベラは雰囲気の良い店に逃げ出したくなった。


「興味はあったんだけど、中々来れなくて。付き合ってくれるだけでいいから」

「エリオット様、私、マナーが」

「個室を予約したから、無礼講でいいよ」


店を手配したのはオリオンだった。

あらかじめイナベラの料理だけは、一口サイズに切り分けてほしいと頼んでいた。

イナベラはエリオットの気遣いに感動していた。ベンは自分の誕生日に得点稼ぎをしているエリオットが気に入らなかったけど、我慢することにした。

普段は口にできない料理も美味しかった。



「ベン、疲れてないなら剣の稽古つけてやろうか?」


ベンは遠慮したかったがここで断るのは変なので頷いた。


「お願いします」


イナベラは仲の良い二人に笑みを浮かべてお茶を飲んでいた。

伯爵邸に向かうと使用人に男爵姉弟は盛大に歓迎されてイナベラだけが引いていた。エリオットがイナベラの様子に気付いて視線で使用人を下がらせた。

イナベラの訪問を聞いた伯爵夫人が上機嫌でお茶に連れて行った。

ベンはエリオットに剣の手入れを指導されていた。


「なんでもできるんですね」

「それなりに教育を受けてきたからな」

「姉上、泣かせませんか?」

「努力する」

「これからも僕を構うんですか?」

「大事な義弟だからな」

「思ってないのに」

「聡いな。僕は冷めてるから。イナベラが大事にするものは、彼女のために大事にするよ。あの時、ベンを抱きしめて号泣した彼女を見て二人を守ることを決めたんだ。彼女にあんなに愛されてるのは羨ましいけどな」

「貴方の冷酷な面が姉に向くことはないですか?」

「努力する。」


どんなことも卒なくこなすのがベンの中のエリオットだった。幼い頃から大好きな姉の顔を曇らせる元凶が嫌いだった。ただ最近は姉の顔が曇ることはなくなった。一人で抱えたがりの姉が初めて頼ることを教えたエリオットをわずかに認めていた。


「姉上のことだけは自信がないんですね。今日のお礼に教えてあげます。貴方も姉の特別です」

「え?」

「では、ご指導ありがとうございました」


これ以上は親切に教えるつもりのないベンは伯爵夫人と一緒に過ごすイナベラを迎えに行った。

二人のやりとりを眺めていたオリオンが愉快に笑った。


「お前、負けてないか?」

「あの見透かす感じ恐ろしいね。僕より聡い気がする。」

「イナベラの弟が普通じゃないのは仕方ないよ」


エリオットは善良な男爵夫妻とイナベラに育てられたのにベンだけが異質と思っていた。


「なんで?」

「イナベラの忍耐力は凄いよ。社交が身につけば良い駒になる。あんまり優秀になるのも考え物だけどな」


エリオットは兄に使われるイナベラを想像して嫌な顔をした。


「兄上の邪魔にならないように、僕達は男爵領で過ごすよ。」

「バカか。誰が許すか。しっかり働け。でも俺の妻選びが難航するだろうな。当主を譲ろうか?」

「嫌だよ。イナベラとの時間が減る。イナベラが育たないように社交から外してくれてもいい」


エリオットはイナベラがずっと隣にいてくれるのは歓迎だった。


「無理だ。すでに気に入られている。婚姻したら茶会の招待状が凄い勢いでくるだろう。令嬢は怖がるから、年配の夫人とばっかり話しているだろう?母上もだけど、年上をたらしこむのがうますぎる。」

「僕のイナベラは魅力的だから当然だよ。婚姻したら遠くに行かせて。ベンに邪魔されない場所で二人になりたい」

「その前に落とせるといいな」

「どうすればいいかまた教えて。兄上の教えてくれた店は感動してた」

「自分で考えろ」

「駄目だしの連続に自信が持てない」


オリオンはイナベラを義妹として迎え入れられればそれでよかった。弟に恋愛感情はなくても伯爵家に尽すのは目に見えていた。いつの間にか兄弟喧嘩がはじまり、男爵姉弟が呼ばれるのはもう少し先のお話だった。

イナベラの療養生活は終わりを告げた。

エリオットは学園に掛け合い乗馬を選択授業に変更させた。

エリオットが指導してもイナベラの乗馬技術は頼りなかった。ベンとエリオットは協力してイナベラに乗馬を諦めさせた。イナベラは乗馬ができなくても困らなかったので必死な形相で説得する二人に折れた。

読んでいただきありがとうございます。

明日は閑話でイナベラの過去のお話の予定です。

本編はあと5話ですが、もうしばらくお付き合いくださいませ。

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