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困惑令嬢と空回り令息  作者: 夕鈴


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第14話  困惑令嬢の決意

イナベラは休日は伯爵夫人とエリオットと過ごすのが日課になっていた。

イナベラは伯爵夫人に社交を指導されていた。イナベラには慣れずに、難しいことばかりだった。エリオットの兄は時々様子を観察していた。外人相手なら社交を完璧にこなすのに、自国の貴族に怯えるイナベラは愉快だった。伯爵だけがすでに妻と息子の玩具になっているイナベラに申しわけない気持ちでいっぱいだった。

伯爵夫人との用が終わりイナベラが帰ろうとすると、使用人にエリオットにお茶を淹れて欲しいと必死に頼まれたので、使用人に引きながらも快く了承した。お茶を差し出すとエリオットに時間があるなら傍にいてほしいと頼まれたので贈ってもらったスケッチブックと色鉛筆でスケッチしたり刺繍をして過ごしていた。

エリオットはイナベラが楽しそうに刺繍をしているのを見ながら、上機嫌に仕事をしていた。使用人たちは平穏なエリオットに安堵していた。


***


婚約披露のパーティの日を迎えた。

オリオンはイナベラにずっと気になっていたことを聞いた。


「イナベラ、なんで外人は平気で自国の人間は怖いんだ?」

「外国の皆様は優しいので。どうしても自国の皆様は怖くて。申しわけありません」

「兄上、僕がフォローします」

「元凶は黙ってろ」

「エリオット様、私頑張りますのでご安心ください。どうしても、突然豹変する方々を見てきたので・・」


兄弟は納得した。オリオンは大事なことを教えることにした。


「イナベラ、これからはお前の前で豹変する者はいない。腹の中で何を考えているかわからない化け物達だが表面上は問題ない。今は相手を悪い気分にさせないように気をつけてくれればいい」


オリオンの無理難題にイナベラは曖昧に笑った。


「申し訳ありません。私は存在だけで、人の気分を不快にするんです」


イナベラの傷は深かった。エリオットの空気が一瞬冷たくなった。


「そんなことないよ。社交は大変だから段々慣れればいい。」

「まぁ外人だけ相手にしてくれてもいい。俺は話せないから正直助かる」

「お役に立てるように精一杯努力します」

「イナベラ、そこまで気負わなくていいから。今日は僕の隣で笑っていてくれればいいから」

「はい」


イナベラはエリオットの言葉に頷いた。婚約披露のパーティはエリオットの隣で微笑んでやりすごすことを決めていた。いつものドレスにエリオットに贈られた装飾品を身に付けていた。

ドレスにはライアンに相談して刺繍を幾つか足していた。エリオット達もいつものドレスでいいと言ってくれたので甘えさせてもらった。

エリオットの隣にいるイナベラを侮辱する者はいなかった。

お祝いの言葉に微笑んでお礼を伝えていた。


「エリオット、おめでとう」

「ライアン様、ありがとうござます」


イナベラは二人の親しそうな様子に目を丸くした。なによりライアンの胸にあるのは侯爵家の紋章だった。真っ青な顔のイナベラにライアンが笑った。


「はじめまして」


ライアンの初対面の挨拶にイナベラは震えながら合わせた。どう頑張っても笑顔が引きつっていた。


「薬草園だけは別世界だから。驚いた?」


自分で遊んでいるライアンの囁き声にイナベラはむくれるのを我慢した。

エリオットは同情して連れ出すことにした。


「ひどい。唯一のお友達だったのに」

「ライアン様は気付いてたよ。楽しまれていたから気にしないで」


エリオットの慰めは慰めになってなかった。


「エリオット様もライアンとお友達なら教えてくれても」

「そこまで親しくないから。」

「もう悔しいので貴族のライアン様は知りません。私のお友達は商家のライアンです」

「公私を分けてくれればいいよ。ただ今日は言葉と礼儀は気をつけて」

「はい。頑張ります」


持ち直したイナベラにエリオットは安堵して会場に戻ることにした。イナベラは化粧が崩れたので、直しにいくことにした。

会場に戻ろうとするイナベラはエリオットのファンに捕まってしまった。

自分を睨みつけるクラスメイトの伯爵令嬢にイナベラは微笑み返した。


「本当に身の程をわきまえないのね。イナベラ」

「取り柄のない私をエリオット様が望んでくださったので、誠心誠意お仕えします」

「エリオット様のためを思うなら身を引くべきよ。今なら間に合うわ」


何度目かわからないやり取りだった。ただ今回は前とは立場が違った。


「私はエリオット様が望んでくださる限りお傍にいると決めました」

「貴方では、つとまらないの」


自分の力不足は知っていた。でもエリオットの側にいてほしいという言葉を信じることにした。イナベラはエリオットが望むなら喜んでもらえるように頑張るだけである。


「いずれもっとお役にたてるように努力します」

「努力ではどうにもならないものよ。この縁談に伯爵家には利がないわ」


あざ笑う令嬢に微笑み返した。

理由はわからなくても、伯爵家に歓迎されているのはよくわかっていた。伯爵は新しい家族を歓迎する。いつでも相談にきなさいと社交に慣れないイナベラを励ましてくれた。伯爵夫人もオリオンも使用人までお祝いの言葉をくれた。


「両家の話し合いは滞りなくすみました。」


令嬢は堂々と自分に反論するイナベラの様子が不愉快で堪らなかった。


「婚約した途端に本性あらわしたのね。いつもは静かに従っていたくせに」

「あの頃は、エリオット様とはなにも関係がありませんでした」


自分に劣るのにエリオットに大事にされていたイナベラが嫌いだった。エリオットの好意を当然のように受けている存在が。

令嬢はイナベラよりも、自分のほうがエリオットを愛していると思っていた。


「私のほうが、あの方のお役にたつわ。それに貴方よりも絶対にあの方を愛しているわ」


イナベラはエリオットを好いてはいても恋や愛ではなかった。

イナベラは男爵家にとって利益のある婚姻相手を探していた。エリオットが、好条件だったから頷いただけである。

相変わらず目の前の令嬢は話が通じないと思いながら穏やかな顔を作っていた。


「私は私なりにお役に立てるように頑張ります。」


「本当に目障りだわ。貴方はエリオット様に望まれたって言うけど、本当かしら?ドレスも贈られない哀れな」


イナベラにはドレスを大量に贈られることの有り難みがわからなかった。換金できるなら話は別だが贈り物の換金はいけないと教えられていた。

婚約者にドレスを贈られたと自慢するクラスメイトに曖昧に微笑むしかなかった。嫌味とわかっていても本気でどうでもいいと思っていた。

それにイナベラは大事なドレスを持っていたから羨む気持ちも全くなかった。それは昔も今も変わらなかった。


「エリオット様には贈っていただきました。生涯大事なものを」

「もう貢がせてるの?それなのに同じドレスを着るなんて。そんなドレスでよくもエリオット様の隣にたてるわ。育ちの悪さがにじみ出るわ」

「このドレスはエリオット様にいただきました。あの方の優しさのつまったドレスです。私はどんな高価なドレスよりも価値のあるものだと思ってます。新しいドレスを用意することもできました。ただ私は一番大事なドレスを身に纏いエリオット様の隣に立ちたかったんです。伯爵家の皆様も快く頷いてくださいました。なによりエリオット様が喜んでくださいました。伯爵家に嫁ぐ者としては失格かもしれません。でも私はエリオット様が一番似合うとおっしゃってくれたドレスを着たかったんです。婚約者のためだけにドレスを選んだ私が愚かなら謝罪します」


衣装合わせの話し合いの時にエリオットがいつものドレスでいいと言ってくれた。このドレスが一番似合うからと。イナベラに合わせる僕の服がなくて困ると笑っていた。

伯爵家に相応しいものかはわからなくても、エリオットが喜んでくれるならそれでよかった。


「そんなにいけないことかしら。婚約披露のパーティで婚約者のためにドレスを選ぶことが」


振り返ると侯爵令嬢達がいたので、イナベラは礼をして道を開けた。


「同じドレスと言われますが、刺繍が増えてますよ。青い刺繍を増やしたのはエリオットを想ってでしょ?」


侯爵令嬢の言葉にイナベラは恥ずかしいのを堪えて微笑んで頷いた。


「はい。私のドレスにエリオット様の色を入れたかったんです。エリオット様には内緒にしてください」


侯爵令嬢は伯爵令嬢に視線を向けた。


「私は自分に身に纏うドレスは婚約者の好みを考慮して選んでいるわ。女として当然よ」

「嫌がらせしかできない者が選ばれるわけないじゃない。本当に欲しい物があるなら根回ししないと。彼女を排除しても貴方が選ばれる保証はない。両当主を説得して婚約させてもらえば簡単だったのに、」

「そのドレスとても似合ってるわ。素材も良いものを使ってある。伯爵家の婚約者が着るにふさわしいわ。そろそろ出て来ても良いのでは?」


侯爵令嬢の視線を辿ったイナベラはエリオットの姿に息を飲んだ。淑女の仮面が崩れて、赤面した。

ドレスを贈ってもらったことが嬉しくて、エリオットからの贈りものだとこっそり主張したなんて恥ずかしいことを知られたくなかった。いたたまれなくて、手で顔を覆った。逃げ出したくても許されないことはわかっていた。


「あ、えっと、だめ。」


エリオットはイナベラに気まずそうに笑いかけながらゆっくり近づき肩を抱いた。


「迎えに来るのが遅くなってごめん。タイミングがつかめなくて。」

「赤面して出ていけなかっただけだろうが」

「兄上余計なことを」


二人はイナベラ達が言い争っているのを見ていた。庇おうとするエリオットを兄が止めていた。途中からエリオットは赤面して、動けなくなった。イナベラが自分に好意を持ってくれてることに嬉しくてたまならかった。兄は弟の勘違いを正さなかった。二人の好意がずれていることは愉快に見守ることにしていた。

ただ今は祝の場で言い争いは良くないので、収めることにした。


「うちは彼女の能力を認めている。なにより愚弟がべた惚れなんだ。ずっと根回ししてたのは弟だ。こいつは彼女のためなら、喜んで家を捨てようとする人間だ。一時、婿入りする気満々だったからな」

「ベンが生まれるのが遅かったから。僕は婿入りでもいいけど」

「誰が逃がすか。しっかり働け」


喧嘩をはじめた二人にイナベラは我に返った。伯爵に二人の喧嘩を止めるように頼まれていたのを思い出した。エリオットの腕を強く引いた。

赤面しながら困惑しているイナベラにエリオットは微笑んだ。


「そのドレスが一番似合っているのはわかってるんだけど、昔の僕に負けたくないからまた贈ってもいい?」


イナベラは恥ずかしかった。エリオットが上機嫌なので気にするのはやめた。引かれないならいいかと自暴自棄になっていた。


「エリオット様が喜んでくださるなら。高価な物は貴重なのでほどほどでお願いします」

「気をつけるよ」


周りは二人の世界に入り込んでいるのを微笑ましく見ていた。伯爵令嬢は黙っていた。侯爵令嬢は謝罪をしてお祝いを述べられない伯爵令嬢に呆れていても、表情に出すようなことはなかった。


「姉上、おめでとうございます。そろそろ会場に戻りましょう」

「迎えにきてくれたの?ありがとう。」


エリオットは無邪気な顔でイナベラの関心をそらしたベンを睨みつけたいのを抑えた。

ベンの手をとろうとするイナベラの腰を慌てて抱き礼をして、会場に戻ることにした。

無事に婚約披露パーティーが終わりイナベラはベンと一緒に男爵領に帰った。

エリオットはイナベラを伯爵邸に泊めて、翌日も二人で過ごしたかった。流れるようにイナベラを攫っていったベンを恨めしく思っていた。


「エリオット、幼い弟に焼くなよ。」

「兄上、ベンは普通じゃない」

「なんで純真な男爵夫妻からお前みたいなのが育ったんだろうな」

「ベンの特異性にあの家は誰も気づいてない。イナベラはやんちゃで手のかかる弟と可愛いがっている」

「お前の影響なんじゃないか?」

「え?」

「お前、ベンからイナベラを取ったりしなかった?」

「男爵夫妻が気を使って、いつも僕のお茶をイナベラに用意させてくれた。でも、ベンは昔はそんなにべったりじゃなかった気がする。いつの間にか僕は男爵領でイナベラと二人で過ごすことはなくなったような・・」

「お前からイナベラを守りたかったのかもな。純真な弟が毒されたとしれば悲しむだろうな」

「兄上としては、ベンが優秀なほうが有り難いだろう。男爵領の支援は僕が任されてもいいけど」

「俺がやる。お前はうちより男爵領を優先するだろうが。」

「僕の手で男爵領が豊かになっていくのを見たら、イナベラは尊敬の眼差しを浮かべてくれるかな」

「お前の初恋成就してないもんな」

「え?」

「こないだ令嬢に囲まれるお前を見て、第三夫人で構いませんって言ってたよ」

「は?」

「何番目になっても、男爵領の支援はしてやるって言ったら、感謝されたよ。伯爵家のお役に立つように頑張りますって。できた義妹を持てて、俺は幸せだ。しかも令嬢に人気のハンカチを5枚もくれた。足りなかったら幾らでも用意するけど10枚目以上は料金くださいって」

「何それ。なんで、しかも第三夫人」

「先が長いな」


エリオットは兄の話に落ち込んだ。念願だった婚約は叶った。ただ愛しい少女のことがわからなかった。楽しそうに自分を見ている兄に頼ることにした。



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