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3.王宮にて

馬車をとばして王宮に着いたローゼンフェルト公爵夫人イザベラは、待ち構えていた侍従によってすぐに医務室へと通された。そこで彼女が見たものは、泣きじゃくる娘、険しい表情の夫、紙の様に白い顔をしてベッドに横たわる息子、そして忙しなく動き回る医官達だった。


「貴方……」

「来たか」

「お母様……」


一体息子に何があったというのか。医官からとりあえずの説明を聞いたイザベラは膝から崩れ落ちそうになった。夫に支えられてなんとか立っている状態だった。それくらい衝撃的な内容だった。

ジョルカエフ男爵令嬢は結果的にリィンジークを襲ったが、それには未知の毒が用いられていた。解毒するには王家の秘薬を用いるしかない。既に陛下が決裁されて毒は解毒されている。だが身体への影響が強すぎた。今夜が峠だと言う。


「そんな……リィン」


夫テオドールの話によると既に領地の公爵家本邸に緊急伝を飛ばしており、先代公爵夫妻とテオドールの弟であるファウルダース侯爵エンルストに報せは届いている。間もなく到着するはずだ。




ソファーに腰を落ち着けると医官長がやって来た。


「陛下より全力をもってご子息を救うよう勅旨を受けております。……ですか、一応お覚悟を」


そう言う医官長の表情はとても険しい。それだけ厳しい状態なのだろう。

その時、医務室の扉がノックされる。入ってきたのは侍従長だ。


「失礼致します。宰相閣下、国王陛下がお呼びでございます。どうかご同行願います」

「分かった」


イザベラは正直夫に傍にいて欲しかったが、陛下からの呼び出しとあっては仕方がない。黙って見送った。


「お母様、お兄様は……」

「大丈夫、大丈夫よ。リィンは強い子です。だからきっと大丈夫」


娘を抱きしめ祈るように呟く。




テオドールが出て行ってから数分後、先代公爵夫妻、ファウルダース侯爵、そして公爵令息アレックスが到着した。ローゼンフェルト家勢揃いだ。手狭になった医務室から隣の控えの間に移る。そこは既に人払いがされていた。後から到着した4人にイザベラは現時点で分かっていることを説明する。

今夜が峠だと言うと皆が絶句した。沈痛な面持ちで先代公爵グレゴールが口を開く。


「テオドールがおらんが……あやつはどうしたのだ?」

「陛下に呼ばれておりますわ。恐らく何かが判明したのかと」

「リィンは何故怪我を?あの子なら防げたはずでしょう?」

「それもまだ分かっておりませんわ、お義母様」


ともかく今は神に祈るしかない。リィンを救ってくれと。




その頃テオドールは陛下の執務室にいた。意識は既に父親から一国の宰相へと切り換えている。


「それで陛下、一体何が判明したのでしょうか?」

「事件の黒幕その他諸々だな。宰相、大仕事になるぞ」


報告書を読み進めていくうちにテオドールの眉間の皺が深くなっていく。

主犯は第2王子の母で側室のマルティデ妃。実家のヘルマン侯爵家も無関係とは言えない。ジョルカエフ男爵自身は白。但し夫人には野心があった模様。


「……確かに大仕事ですな」

「だろう?」


苦笑する2人だがその目は笑ってはいない。


「陛下、我が家としても報復は行いたいのですが?」

「構わん。だが私の仕事が済んでからにしろ」

「御意」




執務室を辞したテオドールは再び医務室へと向かった。一家は隣の控えの間にいると聞いてそこへ入る。


「テオドールよ、何か分かったのか?」

「はい、父上」


いくら人払いがされているとはいえここは王宮。どこに誰の耳があるとも限らない。できるだけ声を抑えて事情を説明した。


「……なんと、マルティデ妃が」

「確かにあの方は大層な野心家だと聞いてはいますが……」


先代公爵夫妻も陛下の側室であるマルティデ妃のことは知っている。息子である第2王子を国王にしたがっているというのは有名な話だ。しかしこんな暴挙に出るとは。余程焦っていたのだろうか。現在、王位継承権第1位は王太子ヴィルヘルム殿下だ。第2王子のジュラルディン殿下は2位となる。もっとも、今回のことで第2王子は廃嫡となった。マルティデ妃も離縁されることだろう。


「貴方、マルティデ妃とヘルマン侯爵家は最初から我が家を狙っていたということですね?」

「そうだ」

「では、遠慮はいりませんね?」

「ああ」


筆頭貴族家継嗣に手を出した罪。その身をもって贖ってもらおう。

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