2.思わぬ負傷
「皆の者、面を上げよ」
陛下達の突然の登場にリィンジーク達はついていけない。今や会場内は武装した近衛兵によって固められていた。非常に物々しい雰囲気である。
シルビアは将軍に保護され、第2王子とその取り巻きは武装した兵士によって取り押さえられている。
「父上……?」
「痴れ者が。一体何をしているのだ」
未だ呆然とする第2王子、この状況が理解できないのか暴れるリタ、悄然と項垂れる取り巻き達。
そんな彼らを放置したまま陛下が口を開いた。
「せっかくの卒業パーティーがこのようなことになって申し訳ない。パーティーはこれをもって終了とする」
会場に残っているのは、騒ぎを起こした第2王子達と陛下と宰相、それにクリスティーナと付き添いのリィンジークだ。シルビアは既に将軍に連れられて退出している。別室で事情を聞くためだ。クリスティーナはシルビアの友人であり、シルビア側の証言を求められてこの場に留まった。
「父上、何故シルビアを帰したのですか!あいつは俺のリタに散々嫌がらせをしていたのですよ!?」
「そうよ!なんであたしがこんな目に遭わなくちゃならないのよ!捕まえるならシルビアでしょ!?」
「……シルビア嬢に何の罪があるというのだ」
「ですから……」
リタの口のきき方はとても貴族令嬢のそれではない。この辺が所詮は母親が平民の令嬢の限界なのだろう。
第2王子は陛下に向かってシルビアの非道を説くが、その顔には焦りが滲んでいる。今になって己の仕出かしたことが理解できたのかそれはもう必死だ。だが、弁明すればするほど状況は悪化していく。
「もうよい。そなたの言い分は分かった」
「父上!俺は……!」
「黙れ!!」
「……っ!?」
陛下に一喝された第2王子はその場に崩れ落ちた。もうどうしようもないと理解したのだろう。それを一瞥し、陛下が再び口を開いた。
「クリスティーナ嬢、そなたはシルビア嬢と親しいと聞く。そなたから見てシルビア嬢はどうだった?」
「はい、陛下。シルビア様は……」
シルビアがリタにしたことといえば口頭での注意のみだ。第2王子の婚約者として、貴族令嬢の振る舞いが全く身に付いていないリタを心配してのことである。その場にはクリスティーナも同席していたから知っている。それをリタや第2王子達が勝手に嫌がらせと捉え聞く耳を持たなかっただけだ。シルビアの忠告を忠告として聞くことができてさえいればこうはならなかったはずだ。
「……なによ。なんでこうなるのよ。あたしはヒロインなのよ!?あたしが幸せにならなくてどうするのよ!!クリスティーナ!あんたのせいよ!!」
『クリスティーナ!!』
「え?……きゃあ!?」
突如リタの魔力が膨れ上がりクリスティーナを襲うかに見えた。が、間一髪リィンジークが妹を庇った。
『ぐっ……!』
「お兄様!?」
「リタ……!何をするんだ!?」
リタの攻撃によってリィンジークの背中は袈裟斬りになり大量に出血していた。
「お兄様!しっかりして下さい!」
「リィン!しっかりしろ!!」
これには流石の宰相も血相を変え2人の元へ駆けつける。
朦朧とするリィンジークは直ぐ様王宮内の医務室へ運ばれた。クリスティーナは兄に付き添い、宰相は王都の公爵邸へ伝令を走らせる。
リタ=フォン=ホーネ=ジョルカエフ男爵令嬢は、リィンジーク=フォン=アルミン=ローゼンフェルト公爵継嗣殺害未遂によりその場で処刑された。
事件現場であるパーティー会場はそのまま封鎖され直ちに調査が行われることとなる。
あまりのことに呆然とする第2王子達はされるがままに連行されるのだった。
一方その頃、王都のローゼンフェルト公爵邸は王宮からの報せを受けて騒然としていた。
「リィンが、あの子が何故……」
「奥様、お気を確かに!」
第2王子の噂のことはローゼンフェルト公爵夫人も知っていたし、リタのことも知っていた。けれど、リタがここまで愚かだとは思わなかった。
「……ともかく参内します。支度をお願い」
「畏まりました」
ローゼンフェルト公爵夫人は、ただ、母親として息子であるリィンジークが命に別状ないことを祈るしかなかった。