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1.婚約破棄をする第2王子

創世暦1895年8月某日。フェーゲライン王国の王宮にある広間の一角で王立学院の卒業パーティーが盛大に執り行われていた。


リィンジーク=フォン=アルミン=ローゼンフェルトは3年前に学院を卒業している。その後は領地に戻り、領主代行として領地経営に専念していた。だが今日は、宰相として多忙な日々を送る父親や友好国で忙しく働いている妹クリスティーナの婚約者の代わりに、妹のエスコート役としてパーティーに出席している。勿論、領主代行として働くリィンジークとて暇ではない。だが、そこは妹弟を溺愛しているリィンジーク。物凄い勢いで仕事を片付け、今日を含めた3日間の時間を作り出していた。


「お兄様?どうかなさって?」

『……いや、あちらが少々騒がしい気がしてな』


妹の問いかけに、リィンジークは視線をそちらに戻して答えた。今年の卒業生には第2王子もいるため、パーティーはいつにも増して盛況である。第2王子の周囲には彼の派閥に属する貴族の令息令嬢が群がっている。

リィンジークとクリスティーナは中立派であるため、挨拶を済ませた後はその様子を遠巻きに見ていた。


リィンジークは王都自体に興味がなく王位争いなどどうでもいいし、クリスティーナは自身の婚約者と相思相愛で自国の王子になど興味がない。

そもそも、領主代行として忙しいリィンジークは、宰相である父親に『王国がどうなろうと揺らがない領地にしてみせる』と言ってある。王都がどうなろうと知ったこっちゃないのだ。


「お兄様ったら、本当に王都に興味がございませんのね?」

『私は自分の仕事に専念しているだけさ。それに、興味がないのはお前も同じだろう?』


静かに微笑み合う兄妹を見て周囲の人々が頬を染める。

蒼銀の髪にネオンブルーアパタイトの瞳をもつリィンジークと、緩いウェーブのかかったプラチナブロンドにアクアマリンの瞳をもつクリスティーナ。美麗な兄妹はそこにいるだけで絵になる。


『それにしても、あの噂は本当だったようだな。ジュラルディン殿下に虫が付いているとは』

「仕方がありませんわ。リタ様はお話を聞いてはくださりませんもの」


リィンジークはそっと溜息をついた。第2王子であるジュラルディンの傍らに控えることのできる令嬢は、その婚約者であるシルビア=フォン=ゾエ=ヴィアゼムスキー侯爵令嬢のみ。だか、本来そこにいるはずのシルビアはおらず別の令嬢を侍らせている。


『リタというと……ジョルカエフ男爵令嬢だったか?』

「ええ、そうですわ。リタ=フォン=ホーネ=ジョルカエフ様です」

『いくら学院とはいえ、婚約者のいる殿下に特定の令嬢を近づけさせるとは……。側近は何をしていたのやら』

「お兄様?そのような気遣いのできる方々でしたらこのような事態にはなっておりませんわよ?」

『……まあ、私の耳に入るくらいだからな』


全くもって頭の痛い問題である。リィンジークがパーティーに出席することとなった原因の一つに第2王子の醜聞があった。婚約者がいるにも関わらず、他の令嬢、しかも男爵令嬢を侍らせご執心である。そういう噂だ。当然、第2王子には婚約者がいる。その時点でこのような噂が流れること自体が論外だ。領地にこもって忙しく働くリィンジークにまでその噂が聞こえてきたことも問題である。今日はその噂が本当か否かを確めるために出席したのだ。勿論、大事な妹にエスコート無しでパーティーに出席するという恥をかかせないためでもあるのだが。

今日の卒業パーティーのことはこの後宰相に報告する。噂は事実であったということ以外に報告事項が増えないことを願うばかりだ。


『そういえば、ヴィアゼムスキー侯爵令嬢がいないな。何か知っているか?』

「いいえ。ただ、一緒に入場しませんかとお誘いはしたのですが……」


2人がシルビアを探していると衛兵の声が高らかに響いた。


「シルビア=フォン=ゾエ=ヴィアゼムスキー、入場!」




会場がシン……と静まり返った。

そんな中をシルビアは毅然とした態度で第2王子の前まで進み礼をする。


「シルビア。何か言いたいことはあるか?」

「いいえ」

「そうか。では、シルビア=フォン=ゾエ=ヴィアゼムスキー。俺は今ここに貴様との婚約破棄を宣言する!」


第2王子の言葉に会場が大きくどよめいた。いくら傍らに婚約者以外の令嬢を侍らせていようと、ここまでするとは誰も思わなかったのだ。

リィンジークが素早く視線を巡らせると、第2王子派の面々は顔をしかめたり苦々しい顔をしたりといずれもよくない反応を示していた。彼らの目的はただ一つ。ヴィアゼムスキー侯爵家の力を削ぐこと。リタを愛妾として嫁がせシルビアとは仮面夫婦に。第2王子の寵愛はリタのもの。そういう筋書だった。誰もここまでは望んでいない。

王侯貴族の婚姻の裁量を持つのは国王陛下ただ1人。世継ぎである王太子殿下でさえその権限は持ち得ない。つまり、第2王子のしていることは国家反逆罪以外の何物でもない。


『まさかここまでするとは……』

「……そうですわね……」


唖然としていたリィンジークだが、会場の入口が俄に騒がしくなったのに気がつく。第2王子はまだ声高にシルビアを詰っているが、他の者達は徐々に気がづき始めた。入口を近衛兵が固めている。それが意味することはただ一つ。




「ジークフリート=ディア=ディール=デジレ=フェーゲライン国王陛下、ご入場!」


突然の国王陛下の登場に呆然とする第2王子とその取り巻きを残してリィンジーク達は最敬礼をする。

一瞬見えた陛下の背後には宰相と将軍もいた。早すぎるその登場に跪いたままリィンジークは考え込む。


(この手際の良さ……やはり仕組まれていたか)


領地経営に専念し王都に興味がないと公言しているリィンジークの元まで噂が届いた時点でこうなることを察するべきだったのだ。

陛下は第2王子を切り捨てたのだと。

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