大好き7
「まさか、こんなとこで会うなんてな。」
太兄は私を見下ろしながら言い放った。
笑っている顔が妙に優しくて、やっぱり昔のままだなーと思えた。
「まさか、太兄だとは思わなかったよ。」
私は苦笑いしながら言い放った。
びっくりした。
太兄がここにいるなんて思いもしなかった。
「この高校だったんだな。驚いたよ。こんなに成長したんだな。」
太兄は私の頭を撫でながら言い放った。
あ、昔の撫で方だ。
太兄は昔からこの撫で方をしていた。
泣いてるときも嬉しいときも、いつも、この撫で方だった。
懐かしい。
何も変わらないね。
「で、何で、太兄がここにいるの?」
私は太兄を見上げながら尋ねた。
思い出したついで。
「あ、忘れてた。明日から俺ここで働くの。教師の見習いって感じ?」
太兄は苦笑いしながら言い放った。
雰囲気が前のままだ。
大人な香り。
「へー。まあ、昔から教師になりたいって言ってたもんね。」
私は笑顔で言い放った。
夢叶うといいね。
「ああ。がんばって、教師になるよ。」
太兄はガッツポーズをしながら瞳の奥で炎を燃やしていた。
ちょっと熱くなったな…。
私は顔を引きつりながら思っていた。
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剣
なんだ?あいつ。
杏に気安く話しかけやがって。
俺は杏に笑顔で話しかけている男を睨んだ。
嫉妬ってこんなに苦しいもんなんだな。
てゆーか、ムカつく。
何もできない俺に。
何も気づかない杏に。
何も知らないあの男に。
すべてに腹が立つ。
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「じゃあ、これから、職員室に行かなくちゃだから、また今度ね。」
太兄は笑顔で私から手をふりながら遠ざかっていた。
本当にあのときのままなような気がする。
「うん。バイバイ。」
私は手をふりながら笑った。
トクンッ
胸が軽く鳴った。
私が帰ろうと、足右足の一歩を踏み出したとき…
「おい。無用心女。」
いきなりムカッとするような言葉を言われ、歩こうとしていた足を止めた。
私は眉間にしわを寄せながら…
「何よ。その無用心女って。」
私はその声のほうに振り向いて言い返した。
口角を無理矢理あげて顔を引きつった。
「別に。それよりサッカー終わるまで待ってろ。」
剣はムスッとしながら命令してきた。
何か言いたそうな顔をしている。
顔が無表情でちょっと怖かったけど。
「何で、命令なのよ??」
私はムカついたから尋ね返した。
声のボリュームを少し上げながら。
「知るか。」
剣は本気で怒ってるみたいでちょっと迫力がにじみ出ていた。
う、こ、怖い。
「は??!!!」
私はちょっとおされ気味になりながらも言い返した。
だって、あまりにもムカつくから。
あんたなんかに指図されたくないわよ!!
「待ってろよ。」
剣は静かに迫力を出しながらそう言い残して走っていってしまった。
何あれ?いきなり。
しかも命令?剣の癖に。
私は心の中で頬をふくらませながらすねていた。
のに、何故か…
白いペンキで塗られているベンチに腰をかけていた。
一瞬は帰ってやろうと思ったのだが。
やはり剣には勝てなかった。
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空は暗くなり始めてきたとき。
私がグラウンドをボーッと眺めていると…
「帰るぞ。」
剣がいきなり私に眉間にしわを寄せながら少し落ち込んでいる。
その顔は長年付き添ってきた私にも見せた事のない顔だった。
初めてみた。
あんな顔。
ちょっと可愛いかも。
私はくすっと小さく笑った後…
「はいはい。」
私はため息をつきながら剣のほうに走って、隣を歩いた。
少し剣の気持ちが見えて嬉しくなった。
「さっきの男誰だよ。」
いきなり口を開いたと思ったらそれ?
私はムスッとしながら…
「見てたの?」
私はちょっとムカつき、頬をふくらませながらつぶやいた。
嬉しいような、苦しいような。
よくわかんない気持ち。
いつもそう。
剣に気持ちを揺れ動かさられる。
「誰だよ。」
剣は怒りながら言い放った。
私はため息をつきながら…
「従兄だよ。」
私はうつむきながらつぶやいた。
素直じゃないな。
普通に言えばいいじゃない。
私ってしゃいなのかな?
「従兄だからって撫でられて嬉しいのか?」
剣は私に怒鳴った。
いきなりで私は驚いた。
何が何??!!
何で怒られなきゃいけないの??!!
「剣?」
私は混乱してきた。
あまりにも難しすぎるこの問題に。
「従兄だからって触っていいのか?」
剣は私を睨みながら尋ねてきた。
こっちも素直じゃないな。
そう落ち込みながら何かが…
プチッ
切れた音がした途端に…
「さっきから意味わかんないから!!いきなり怒って。何?従兄とかに撫でられただけなのに何であんたに怒られないといけない訳???!!!!」
私は剣に怒鳴った。
力を全部振り絞った。
剣にわかってほしくて。
なのに…
「ああ、そうかよ。じゃあ、勝手に触られてろよ!!!!」
剣は私にそう怒鳴って歩いていってしまった。
展開は違う方向にいつも向かってしまう。
「意味わかんない。」
私は気が付いたら泣いていた。
頬を伝う冷たい雫。
ああ、なんて悲しいんだろう。
何であんな奴のために泣かなきゃなんないのよ。
私は涙を制服の袖で拭いながらゆっくりと歩いた。
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剣
何で、あんなことでこんなにイライラすんだろう。
あいつに誰かが触れると苦しくなる。
あいつが誰かに笑顔でいると苦しくなる。
胸が締め付けられる。
苦しい。
悔しい。
イライラする。
あいつが俺のものでいてほしい。
誰も、触れさせたくない。
杏。
頼むから。
誰にも、触れさせないでくれ。
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翌日…
私は目を赤くさせながら学校に着いた。
腫れている瞼。
目の奥が熱くて、今もまだ泣けそうだ。
「杏?どうしたの?目がすごいことになってるけど。何かあったの?」
逸美が私の目を見ながら心配してくれた。
逸美はもうあの時とは変わっていた。
「色々とね…。」
私はうつむきながらつぶやいた。
本当は誰かに聞いてほしかった。
「何があったの?私でよければ聞くよ?」
逸美は心配しながら言い放った。
逸美。
ありがとうね。
「ありがとう。実はね…」
数十分後…
これまでの一部始終を話した。
また泣きそうになる。
いつも剣に勝てない私が悔しい。
「どうしたら…。」
私は落ち込みながら逸美に尋ねた。
きっと逸美ならわかってくれる。
「そういうことだったのね。それは単なる嫉妬ね。」
逸美はあっさり答えを出した。
私は目が点になり。
瞬きをした。
「誰が?」
私は首を傾げながら逸美に尋ねた。
え?
それだけ?
私は心の中で焦った。
「千里が嫉妬してんの。杏に触った、そのー…浅岡っていう人に。」
逸美は平然とした顔で言い放った。
まるで当たり前じゃないっと言っているように。
「何で?」
私は顔が?マークになりそうなぐらい混乱していた。
え?
どういうこと??
「本当に鈍いのね。杏のことが好きだからに決まってんじゃん。」
逸美はため息をつきながらさらり言い放った。
私は逸美が言ったことが一分たってやっとわかった。
「あ、忘れてた。」
私は何かがわかったように手の平に拳を打ちつけながら言い放った。
私は目を開いた。
「天然っていうか、ただのバカっていうか。呆れるわ。」
逸美は頭をおさえながらつぶやいた。
気がぬけるのも無理は無いと思う。
私ってつくづくバカだわ。
私も頭を抑えてため息をついた。
「ごめんなさい。」
私はちょっと小さくなった。
そんなことを色々話していたら。
ガラッ
教室の古い引き戸がいきなり開いて誰かが入ってきた。
「あ、千里おはよ。」
逸美が挨拶した先には剣が無表情で立っていた。
何か妙に迫力がある。
私はちょっと引き気味になった。
「おはよ。」
剣はそのまま挨拶をして、スポーツバックを自分の席に置いて。
何か用事があるのか、すぐに教室から出て行ってしまった。
「はあ。」
私は深くため息をついた。
こんなのじゃやってられない。
「こりゃまた、気まずい空気をつくってくれるわね。」
逸美は剣が出てっていったほうを見つめながらつぶやいた。
逸美はため息をついた。
どう対処したらいいかわからないよ。
「どうしよう。」
私は誰にも聞こえないように小さい声でつぶやいた。
なのに…
「気にすんな。」
逸美はそれが聞こえたのか、優しく声をかけてくれた。
やっぱり逸美ってすごい。
私は関心した。
「ありがとう。」
私は心の底から逸美に感謝した。
私のことをこれまでに考えていてくれたから。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴り、次の授業は数学。
そして…
悲劇はここから始まっていたことは、誰も気が付かなかった。
「今日からここに勤める、新しい先生を紹介します。先生、どうぞ。」
数学の白いひげをはやしているおじいさん先生がちょっとフワフワしてる声で叫んだ。
「今日から、お世話になる浅岡 太一です。よろしくお願いします。」
太兄は笑顔で自己紹介した。
やっぱり太兄なんだ。
『きゃーカッコイイ!!』
女子の声がそろって聞こえた。
まあ、言われるのも無理はない。
こんなに若い先生は学校では数人しかいないから。
「先生!!バスケかサッカーってできる?」
男子からも声が聞こえた。
太兄人気だなー。
私は苦笑いしてる太兄を見つめながらボーっとしていた。
困っちゃってるよー。
私は遠い目をしながら思っていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そして、始まったんだ。
悲劇が…
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
次に続く…