大好き3
4、友情と恋のわな
翌日…
どんな顔で剣に会えばいいの?
私は朝からこんなことばかり考えていた。
目の前には、毎日の学校が胸をはって建っている。
いつもなら普通に見えるのに。
きっと、昨日のことでこう見えるんだな。
私は一人で考えていた。
「おばさん邪魔。」
後ろから聞き覚えのある声がいきなり聞こえてきた。
「……。」
私はびっくりした。
そう、目を細めながらだるそうにいつもの意地悪な剣が立っていたから。
私はみるみる内に顔が熱くなった。
きっと、今顔真っ赤だ。
恥ずかしいー。
「はやくどいて。」
剣は顔一つ変えずに言い放った。
何か変。
どこか違う。
「どけよ。」
剣?
何かおかしいよ?
「おい、聞いてんのか?」
ねぇ、お願い。
「おい…。」
剣。
剣のままでいて。
バタッ
その途端、私は不意に意識が遠のいて、冷たい地面に倒れた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
私はゆっくり目を開けた。
「気が付いたか?」
剣が心配そうに私の顔を覗き込みながらつぶやいた。
「う…うん。」
私はちょっと頬を染めながら、対応した。
途切れ途切れ言葉を繋げた。
「貧血だってよ。お前ちゃんと毎日寝てんのかよ。」
剣はため息をつきながら白い目で言い放ってきた。
「剣?」
「あ?」
「剣、今怒ってる?」
私は剣に涙目になりながら尋ねた。
手が何故か震えた。
「は?怒るわけないじゃん。何で?」
剣は動揺しながら尋ねてきた。
「いや…何か…いつもと違う…感じがしたから…。」
私は戸惑いながら途切れ途切れにつぶやいた。
目を逸らしてしまった。
「ふーん。何にも変わってねぇよ?」
剣は微笑みながら言い放った。
剣はいつでもそうだよね。
私をどんどん魅了していく。
剣のその微笑に、声に、優しさに。
すべてに、剣に吸い込まれそうになる。
「剣…」
ガラッ
シャッ
剣がいきなり保健室の白い扉が開いた途端、カーテンを閉めた。
(何で閉めたの?)
私は動揺しながら心の中で尋ねた。
「ねぇ、千里。私と付き合ってよ。」
聞き覚えのある声だった。
絶対、知ってる。
ねぇ、お願い。
私の友達じゃありませんように。
「何で俺がここにいるってことわかったんだよ?天風。」
やっぱり。
願いなんて叶わないんだ。
神なんて存在しないんだ。
知りたくない。
現実なんて知りたくない。
もう、これ以上傷つきたくない。
「あんたのことが好きだからに決まってんじゃん。」
ほらね。
現実はつらいんだ。
もう、ここにいられない。
シャッ
タタタタタタタ…
私は保健室を飛び出した。
もう、傷つきたくないから。
廊下は秋風で寒くなっていた。
足の裏が痛くなるほど廊下の床は冷えていて。
頬を伝う涙も冷たくて、余計に体を震わせる。
切ない。
苦しい。
こんな気持ち無ければいいのに。
気持ちなんて無ければこんな気持ちしなくてすんだのに。
「おい。はぁ、はぁ…。」
後ろから聞き覚えのある声がする。
この声ですぐわかるよ。
小さい頃からずっと知ってるもの。
ずっと、聞いてきたもの。
剣。
「何で、おいかけてきたのよ。」
私は泣いてることが気づかれないように声を抑えながらつぶやいた。
「お前のことが好きだからだよ。」
剣はすんなり言葉にした。
剣の口から一回も聞いたこと無い言葉。
「こんなときにやめてよ。冗談言うの。そうやってからかってるだけなんでしょ?」
ほらね。
やっぱり。
いつもそうよ。
そうやって、私を乱していく。
私は剣のほうを向きながら尋ねた。
「からかうわけねぇじゃん。」
剣は真剣な目をして言い放った。
「どうして、今そんなこと言えるの??!!どうしてよ。」
私は泣きながら、怒鳴った。
「俺は…お前のすべてを見てきた。お前が笑ってるところも、泣いてるところも、怒ってるところも、全部見てきた。俺はお前の全部が好きだから。」
剣でも、こんなこと言えるようになったんだ。
成長したんだね。
でも、今言われたら…
「俺じゃ、だめなのかよ?お前を支えられないのかよ?」
剣は私のことを見つめながら切なそうに尋ねてきた。
きっと、剣はもっと苦しいよね。
ごめんね。
「私は…」
「やっと見つけた!!」
ガバッ
私が言いかけたときに逸美が剣に飛びついた。
友達だと思ってたよ。
「ば、お前離れろ!!!」
剣は逃げようとしても逃げられない状態になっていた。
「無理。で?杏は何を言おうと思ったの?当然、気持ちを伝えようと思ったんだよね?」
剣の顔の横から顔を出し、逸美は微笑みながら尋ねてきた。
「え?」
「でしょ?」
逸美は勝ったかのような表情をしながら尋ねてきた。
「ほら、言いたいことは言わなきゃ。」
逸美がせかす度に私の心臓が大きく脈を打つ。
いつもこうだよね。
私って。
私は歯をくいしばりながら…
「……好きじゃない。」
私はこうつぶやいてしまった。
最低だ。
こんなことになるなんて。
逸美が笑った。
ああ、わかった。
逸美が私に仲良くしてたのって、この為だったんだ。
私は泣きながら、その場所を離れた。
どれだけ、思っても。
どれだけ、好きになっても。
もう、何もできない。
私は一日中泣いていた。
学校もいかずに。
ねぇ、誰か。
私を救って。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
剣
『……好きじゃない。』
この言葉がいつまでも、頭の中で繰り返される。
やっぱりそうだよな。
俺はずっと落ち込んでいた。
わかっていた言葉は思った以上に心に響いた。
「ねぇ、私と付き合ってくれるよね?」
天風がすごい嬉しそうに尋ねてくる。
こいつ。
ありえねぇー。
「お前、あいつにこんなこと言わせるために近づいたんだろう?」
俺は天風を睨みながら言い放った。
声が少し震えた。
ああー。
ヤバイ。
今にも怒りの何かが出そうだ。
「そうだったら何?」
天風は笑いながら言い放った。
目が輝いていた。
「最悪。」
ガタッ
俺は天風にそういい残して、教室から出た。
怒りが込み上げてしょうがない。
腹が立ちすぎて何も考えられない。
授業なんてかったるい。
本当はこんな高校に通いたくなかった。
↑テスト必ず一位
俺の目当ては杏だけ。
何をするにも、あいつだった。
なのに、全部意味が無くなった。
俺は道をゆっくり歩いていた。
もう、学校にいる意味なんて無いな。
俺はそうやって、道を歩いていた。
いつもはあまり歩かない道。
そして、一番逢いたくない人に逢ってしまった。
「はぁ、何で泣きながらここに居るんだよ。」
俺は呆れながらそいつに声をかけた。
いつもそう。
あいつが泣いてるときは俺も落ち込んでる。
でも、あいつの涙を今拭ってやれるのは、俺だけしかいない。
「だって…。」
俺はこいつの泣いてる顔が苦手だ。
手が震える。
苦しいのはこっちなのに。
「あんなこと言って学校になんて居れるわけないじゃん。」
泣きがら叫ぶこいつを見ると胸が締め付けられる。
ごめんって何故か言いそうになる。
「杏。俺のこと嫌いか?」
俺は優しく尋ねる。
杏は泣きながら、首を横にふった。
やっぱりな。
「じゃあ、何で、あんなこと言ったんだよ。」
俺はため息まじりに呆れた。
あんなに傷ついたの初めてだ。
「っ、だって、言えるわけないじゃない。せかすんだもの。」
杏は息がちゃんとできないまま、途切れ途切れにつぶやいた。
「だからって、今すぐ気持ちを言えなんて言ってないんだから。言わなくてもよかったよ。」
俺はそう言って、杏のことを優しく抱きしめた。
少し震えている手で涙を拭いながら。
「剣。ごめんね。」
杏は泣きながらつぶやいた。
「大丈夫。言えるときがきたら言ってくれればいいから。それまで待ってるから。ゆっくりでいいから。」
俺は優しくささいた。
杏はゆっくり頷いた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
翌日…
私は学校に向かっている途中だった。
私は今一番逢いたくない人に逢ってしまった。
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次に続く…






