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リレー小説・◇(べべ・しいたけ・シンG・桜子)  作者: べべ・しいたけ・シンG・秋の桜子
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『起』(べべ担当)

※使用ワード

『落とした指輪』『女海賊』『回る』『星』


※スペシャルワード

『手に関する描写』『色』『喜怒哀楽』



 

 鳥の視界は壁などあらじ。

 下界を見下ろし羽ばたく姿は、まるで我こそは天空の覇者たらんと奢っているかのようだ。

 自由な翼が掻く度に、風がその身に潮の香りを染み込ませる。天空の色が澄み渡る青ならば、下界は深淵が如き蒼だと呼べよう。


 そう、ここは大海と雲の狭間。命が生まれ、命がかえる道筋である。

 なれば、その道を我が物顔で飛び回るこの一羽は、奢りに見合った覇者ではあるまいか? そう思えば、かの者の艶やかな嘴から、どこか貫禄じみたものが感じられるやもしれない。


 今一度の羽ばたき。

 邪魔などされぬ王道。


 なれど、あぁなれど。

 その歩みは、ただ一度の凶弾により途絶える事となる。


 一羽の胸に突き刺さる、鋭い痛み。

 そして、一瞬後に遅れての、銃声。

 何が我が身に降りかかったのか。それを理解できぬままに、鳥はわずかに上空に持ち上がる。

 だが、反動による上昇が終われば、後は力なく堕ちるのみ。


 最後の一鳴きすらもままならぬまま、その身は母なる海に捧げられた。

 果たして、一羽の物語は幕を閉じ、主役は他者へと引き継がれる。

 皮肉か、はたまた当てつけか。神の目は、その凶弾の射手へ。


 波を掻き分け、飛沫へと散らしながら進み行く巨体。

 木目の一つ一つに感じさせる、職人の意志。

 先端には、宝石をあしらった女神像。

 美しき女性の腕のようにすらりと伸びたマストに、一身に風を包む慈母が如き

 それは、見る者が見ればため息をつくような、見事な帆船であった。


 なれど、そこに慈悲の心は無し。

 そのマストに括られた旗には、おぞましき髑髏ドクロが描かれているのだから。


「せぇぇんちょう!! 弾と火薬の無駄遣いは、やめてくだせぇっていっつも言ってるでしょうに!」


 見張りの高台から、下卑たダミ声が響く。

 唾を散らしながら遠見の筒を仕舞うのは、首元まで隠れる程の髭を蓄えた老人だ。

 たった今、見張りがてらに筒を覗き込んでいたところに、鳥が落ちたのを見てしまったのである。こんな事をする下手人は、この船には1人しかいない事を知っている老人故に、慟哭の矛先はその犯人へ向けられる。


「やっかましいね! あの鳥がアタシを馬鹿にしてたのさ! 一発ぶち込んでやらないと気が済まないよ!」


「鳥に馬鹿にされたってんなら、せめて食えるように落としてくだせぇや! アンタってぇお人は、魚の餌やりが趣味な御貴族様じゃあねぇでしょう!」


「吠えたねウルージ! その眉間に穴ぁ開けられたいかい!?」


「一等航海士を失って、漂流したいんなら好きにしておくんなせぇっ」


 怒鳴り合う声は、老人のダミ声に比べると非常に高い。

 それでいて、品の無い物言いでさえなければ、舞台役者のように張りのある抑揚だ。これでオペラでも歌おうものなら、こぞって金貨を散らす者も出てこよう。

 だが、あまりにも惜しい事に、ここは髑髏印の船の上。そして、その声の持ち主は、よりにもよって【船長】ときたもんだ。


 天に掲げた艶めかしき腕には、硝煙曇るピストルが。

 折れんばかりに細いくびれは、陽に晒して小麦に染まり。

 それでもなお、唇は潤いを持った白桃色。


 二~三歩進んで揺れる臀部は、男の視線を大いに誘う。

 強気な瞳は太陽を睨み、細めはすれどけして閉じず、真っ向から睨み合う。

 なによりも、その笑顔はどうか。

 鳥を堕とし、部下を亡き者にせんとうそぶきながらも、心底楽しそうに笑っている。


「はんっ、爺が吠えるんじゃないってのさ! ナニも起たなくなったくせしてさ!」


「はっはぁ! 天下の大海賊、ナーデニー・ジャリスから誘っていただけるんなら、老骨に鞭打つ甲斐はあるでしょうがね! それでも飛んだ火薬は帰ってこねぇんだから寂しいもんだっ」


「ほざいてな! アタシは餓鬼が好みなのさっ」


 そう、女性だ。

 この船……海賊船、【リトルホープ(小さな希望)号】の頂点に立つ船長こそが、この女性なのである。

 名をナーデニー・ジャニス。その首には金貨にして800枚がかけられた、帝国きっての大犯罪者。

 気に入らない者は、商船だろうと軍艦だろうと、同業だろうと海底送り。ただ、幼い少年少女はけして手にかけないと言われている変わり者。

 その褐色の美貌と糞度胸で、海の荒くれ共を率いるバーバリアンだ。


「野郎共ぉ! アタシの読みじゃあ、もうすぐ目的地だ! 絶対に見逃すんじゃないよぉ!」


「「「へい!!」」」


「ウルージ! 昼の星はぶれちゃいないね!?」


「へいへい、カナントスはずぅっと東を向いてまさぁ。俺達船乗りの導き手様は、ぐるぐる回るなんて悪戯はしやせんよ」


 航海士ウルージは、波を確認した後に、今一度遠見筒を覗き込む。

 その視界の先は、昼間であるというのにうっすらと覗く一等星だ。


「よぉし、それなら真っすぐ! まっすぐ行きな! 風も味方してくれてるんだ、これで見つかんなきゃあ、あの情報屋を吊るし上げるしかないねぇっ!」


「ちげぇねぇや! 俺達の有り金、みぃんなこの航海につぎ込んだんですもんねぇ!」


「はっはっは! これで無駄骨なら、それこそ骨になっちまう!」


「だぁっははは! まぁまずは唄えよ! 顎を落とすにゃその後さ!」


 帆柱を人が飛び交い、ロープが躍る。

 音楽家が弦を鳴らせば、皆がヨーホーと歌い出す。

 この世は薄氷。一枚割れれば水の底。なれば喚いて踊らにゃ損と、手を休めずに笑い、叫ぶ。

 さしもの極悪非道の女も、それを否やとはしない。馬鹿共がと笑い、ラムを手に取り煽るのみであった。


「っ……! 見つけたぞぉぉお!!」


 と、その喧騒をかき消すかのように、見張りの一人が叫ぶ。

 音が止み、全員の視線がそちらに向いた。

 だが一人、ナーデニーのみが動いた。ラム酒をビンごとぶん投げて、数多の段差を飛び越え見張りの柱に踊りかかる。


「どこだい!?」


「こっからわずかに西です! すげぇや、伝承の通りの形だぁ!」


 興奮に鼻息を荒げる男の元まで、するするとましらが如く昇ったナーデニーは、男から遠見筒をひったくる。

 そのまま男の頭に、その豊満な胸を押し付けるという役得を与えつつ、覗き込んだ。


「……あれが……」


 その目に見ゆるは、確かな浪漫。

 陸地とは常に心躍るものなれど、その伝承を知ればより一層の高鳴りが胸を襲う。


 それは、くり抜かれたビスケットのように丸く、大きな穴が開いた島。

 中心は海が支配している……ように見えるが、海との繋がりはない。つまり真水という事か。

 島の3分の2を占める、巨大な湖。その中心には、途方もない財が眠るという。

 いわく、空をも突かんばかりの巨人が、その島を作って財宝を隠したとの事だ。

 誰が呼んだか、その島は……



「あれが……【巨人の落とした指輪】かい……!」



 巨大な指輪に、例えられた。



べべさん

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◇グループ

4つのワードをクリアしました。

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