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尿路結石

作者: kouta

 真田光彦35歳独身、業務用OA機器メーカーの営業担当係長。

週末は、だいたい会社の仲間との飲み会で深夜帰宅。

独身一人暮らしなので何時に帰宅しようとも、誰かにとやかく言われることはないのだが、

給料のほとんどをギャンブルに費やしているので貯金がちっともできなく、

人生設計なぞどこ吹く風のような生活をしている。


 今日も会社の近くの居酒屋で同僚とビールを4、5杯ほど飲んで帰宅し、

風呂にはいった後すぐにベッドに入り横になった。

「明日・・というか今日の休みはなにすっかなー、今週レースどこもないんだよなー」ぶつぶつ独り言を言いながら

休日の予定をかんがえていると、何かへその下あたりからなにかの違和感を感じるようになった。

 

 最初のうちは下腹部、へその下あたりに何か違和感を感じる程度のものだが、

だんだんその違和感は痛みに変化していった。

その痛みは今まで体験したことのない種類のもので、

足の指を机にぶつけたとか、野球ボールが頭にあったなどの激痛とは

違った、原因不明の痛み、しかも何が具体的にどう痛いのか

表現のしにくい、だが強烈な不快感の痛みであった。


「うううう・・なんだよこれは」

うめきながらも、原因を考えてみてもまったく

見当がつかない。数時間前に行った居酒屋でも、特に腹痛の原因となりそうなもの

は食べていない。そもそもこの痛みはいつまで続くのか?どうすれば治るのか?

いろいろ考えのたうち回るが、らちが明かない。「救急車を呼ぶか・・」

痛みに耐え切れず、自分で119番コールして救急車を呼ぶことにした。


 救急隊員に症状を聞かれたり、血圧を計られたりしながらも、約15分程で

病院に到着した。ここは総合病院らしく、夜中にも関わらず多くの患者

が待機していた。


受付に運ばれ、30分位待った後に、診察室に通された。

たとえ救急車に運ばれた患者でも優先して診察がされないということは

初めて知った。おそらく、自分が今起きている痛みは、命に関わる

ような症状というわけでははないのだろう。


診察室には、40代後半といった脂が乗った感じの医者が座っていた。

医者の指示で、ベッドに仰向けになり、症状に関するいくつかの質問と、何カ所

かのおなかのあたりを指で押されたりした。

そして、体を横向けにし、医者がかなり強めに腰のあたりを何度かたたくと、

不思議なことに今まで苦しかった痛みがうそのようにピタッと止まった。


 「尿路結石ですな」医者にそう診断されたが

いまいちピンとこなかった。なにそれ?聞いたことあるような、ないような病名だ。

「簡単にいうと尿道に結石と呼ばれる石がつまってしまう病気のこと。」

医者は続けて

「腰をたたいて、結石の位置をずらして尿路をとりあえず確保したけど、

まだ尿路に結石が残っているからねえ。後日手術する必要があるので入院してください。」

と淡々と答えた。「へ、入院ですか?」

真田は自分の置かれている状況がいまいち理解できなかった。


「一泊二日で十分かな」

医者がそういうと、真田は考え込んでしまった。

 小学生の頃骨折して入院したことがあるが、入院すると

どのくらい費用がかかったのか?

そのときは親が入院費を払ったのでどの位の費用ががかかるのかわからなかったが、

そもそも入院費ってどのくらいするのだろうか?

「あのう、入院するといくらくらいお金がかかるんですか?」

おそるおそるたずねると、

「健康保険は入っているよね?だったら70000円とちょっとくらいかな」

「げ、そんなにするんですか?」

「体外衝撃波砕石術と呼ばれる手術をおこなおうと思っているが、この

手術は超音波で・・」

「ちょ、ちょっと待ってください」

話を割り込ませた。


 真田は根っからのギャンブル好きで、特に

競馬、競輪、競艇、オートレースに給料のほとんどを捧げていて、

70000円という大金をギャンブル以外に使う行為は

ちょっと考え込んでしまうのであった。

医者は真田が考え込んでいる様子を察して

「医療費を安く済ませる方法があるにはありますが・・・」

と医者がいいかけると

真田はすぐに「え、何ですか?そんな方法あるんですか?」

と医者に問い詰めた。


 翌週月曜日、営業部の後輩と客先に訪問することになり、

電車で移動することとなった。その際、電車の中で

「先週の金曜日に救急車に運ばれちゃってさー」と

営業部の後輩に雑談を持ちかけた。


「正確に言うと自分で呼んだんだけどね」

「なんですか、どうしたんですか?」

「医者が言うには尿路結石だってよ」

「あ、それどこかできたことあります、ものすごく痛いらしいと」

「そーなんだよ、死んだほうがましと思ったくらい痛いんだよ、なんか

つかみどころのない痛さというか」

「へーそうなんですか、災難でしたねー」

「で、後日1泊2日で入院することになったんだけど、

入院費が70000円以上するところを、

無料で治療してくれることになったんだ。」


真田は消費者金融でお金を借りてまでギャンブルをおこなう、

別の意味での重症患者であったが、この治療費を無料にする方法を

医者から持ちかけられたのだ。

医者の説明によると、現在この病院の系列に大学病院が存在し、

そこの大学病院に医師見習いの研修生が多数在籍しているとのこと。

この研修生から手術を行えば治療費は請求されないことになるらしい。


この治療費が請求されないことは実にラッキーだが、

もうひとつ気になることは

手術同意書なるものに署名することが手術をする条件らしい。

これは治療費請求有無にかかわらず手術を行う際の必須事項であり、

治療がいかなる結果になろうとも訴訟はおこなわない旨の

同意書にサインする必要がある。

署名がないと手術はできないということか?

必要に迫られて手術するのに、署名がないと手術できないというのは理不尽

な気もした。

だが、この手術は治療費無料でおこなわれるのであまり文句は

いわないでおいた。


 入院といっても一泊二日なので、さしたる準備もせず、

ほぼ手ぶら状態で紹介された大学病院へ出向いた。

会社にも休暇届けをだしたところ2日の休暇はすんなり受理された。

これなら1週間くらい休みをとればよかったと若干後悔したが。


大学病院の受付に出向くと、話は事前にとおっていたので段取りは

スムーズにいき、さっそく手術室へ向かった。

そこには20代後半の医師見習いが5人ほど

手術の準備をしていた。救急車で運ばれたときの医師の話では

彼らは研修生のようだ。

予め用意しておいた、サイン済みの手術同意書を渡すと

研修生から「ありがとうございます」

と謎のお礼をされた、なぜお礼をいわれなけらばならないのか

わからなかったが、ともかく、手術が開始された。

心電図、血圧計、その他よくわからない手術器具が配置された、

「あれ?なんか大げさな気がするけど」


そして、ベッドに横たわると、研修生が「では麻酔を点滴します」といい、

と注射針を腕にさした。

「え、麻酔するんですか?」

と質問したが、

「そりゃあ当然でしょ、手術だもの」

と答えられた。

あれ?尿路結石の手術って体の外側から衝撃波を当てるやつで、麻酔は

必要ないのでは、と考えていると、

徐々に意識が失われていった。


目を覚まし、手術は無事終了したようだが、気になるのは腹に手術の

痕跡が残っていることだ。

「メスで切開したので」

研修生は言うが、そもそもなぜメスで腹を開ける必要あるんだ?

尿路結石の治療ってそういうものか?

いろんな疑問が浮かんだものの、

まあいいかとあまり考えることはしなかった。


 手術が終わり約半年後、毎年恒例の健康診断の季節がきた。

うちの会社は毎年10月から12月の、3カ月の間に会社が指定する医療機関へ行き、

健康診断をおこなうことが義務化されている。

そして、35歳になると通常の健康診断に加え、

人間ドックの費用が会社からほぼ全額負担

になるようだ、人間ドックはまだ受けたことはなく、費用も会社持ちになるのは

お得感があったので、健康診断と一緒に受けることにした。


健康診断および人間ドックを受け、約1カ月後会社から結果通知が総務課から、

A4サイズの封筒が渡された。

健康診断の結果は4枚分の紙両面で書かれていて、ホチキスで止めされている。

これは毎年見るものであるが、

さらに今年は、

人間ドックの結果に関する結果が記述された紙が数枚と黄色の紙が同封されていた。

人間ドックの結果が同梱されているのはわかるが、この黄色紙はなんだろ?と

よく見ると、健康に関するさまざまな注意事項が仰々しく書かれていた。

塩分をとりすぎるなだの、

交通事故にあわないように、

だのいろいろ注意書きが記述されていた。


そして紙の裏面には、

腎臓がひとつだけの方へ

というタイトルの文章で、

腎臓の健康を保つための日常生活の送りかたついての

説明がこと細かく説明されていた。



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