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ウィッチクラフト・サムライズ  作者: みるくるみ
5/7

第5話 模擬戦『リーグ』―午後―

俺──若井正義は食堂で志郎と昼食をとっていた。

「ねぇ正義。そういえばなんだけど正義の恩師ってどんな人なの?」

その言葉で俺の頭の中に俺を導いてくれた明宮の顔や思い出が駆け巡った。

「恩師──先生は俺を導いてくれた人なんだ。でも、壁ひとつ隔てずに接してくれてさ。でも、唐突にテスト悪かったら補習とか困ること言ってきたりしてさ。刀の扱い方も全部教えてくれたんだ。」

明宮の話をしていると思い出したように胸に熱いものがこみ上げてきた。

「そうなんだ。今の正義があるのはその先生のおかげなんだね。」

「そうだ。全部明宮先生のおかげだ。」

そう言うと、志郎は驚いたような顔をしてその後罪悪感を感じたような顔をした。

「もしかして、明宮先生って──明宮蓮?」

「ああ。なんで知ってるんだ?」

俺が首を傾げると、志郎はまた驚いたような顔をした。

「え、だって、明宮蓮って言ったらこの東和王国の伝説武士レジェンズサムライズ5人の中の1人、青光刀身ブルーシャインブレイドだよ!?」

それを聞いて今度は俺が驚いた。

「え、そうなのか!?全く知らなかった。……俺はそんな凄い人に刀の扱い方を教えてもらってたのか。」

「凄いなんてものじゃないよ!良いなぁ。1回会ってみたいよ。」

そう言われて、俺は言葉に詰まって俯いた。

はしゃぐ志郎の前で俯いていると、隣の椅子に誰かが座る音がした。

「失礼するわ。」

その声は先程まで話していた花凛の声だった。

「少し興味深い話が聞こえてきましたので。邪魔だった?」

「いや、大丈夫だ。」

俺が花凛と話していると、志郎はまだ興奮が冷めない様子で言った。

「ねぇ、正義。明宮蓮に会えないの?1回だけでも!」

無邪気に懇願する志郎に事実を話すのは気が引けて言葉に詰まっていると花凛が淡々と事実を告げるように言った。

「明宮蓮は──死んだわ。正確には殺されたのよ。」

そう言われ、志郎は驚きと後悔と罪悪感が入り交じったような表情をした。俺は俯き、感情を押し殺していた。

「え……明宮蓮が?殺された?じゃ、じゃあ正義の先生は……」

「ああ、もう…いないんだ。」

俺が声を絞り出すように言うと、志郎は俯き、言った。

「ごめん、正義。無神経だった。本当にごめん。」

「いや、いいんだ。先生は──まだ刀の中で、俺が使う限り生きてるって信じてるからさ。」

そう言うと、2人は驚いたような顔をした。そして、志郎が恐る恐るというように言った。

「え、じゃあ、明宮蓮の刀を持っているの?」

「ああ。今腰から下げているやつだ。といっても、まだ1回使っただけだけどな。」

そう言うと、二人揃って俺の腰の刀に視線を落とした。

「これが、明宮蓮の刀……」

そう花凛が言うと、志郎がゴクリと生唾を飲んだ。

「触っても…いい?」

「いいけど──ここでは物騒だろ。3人とも食事終わったし、トレーニング場に行こう。」

その言葉に2人揃って頷き、急いで片付け始めた。

(明宮がそんなに凄い人だったなんてな。驚いた。でも、なんで花凛が明宮が殺されたことを知ってたんだろう。あの事件は報道されていないはずだ。なぜなんだろう。まぁ、本人に後で聞くか。)

そう考えつつ片付けを終え、3人でひと足早くトレーニング場に向かった。


トレーニング場にはまだ他の生徒は来ておらず、静かだった。

「さて、じゃあ早速刀を抜くけど、この刀結構重いから気をつけてな。」

『分かった!』

2人揃って返事をしたのを見て、刀を抜いてまず志郎に渡した。すると、受け取った志郎の手が10センチぐらい下がった。

「確かに、重たいな。これを振り続けるのは僕には難しいな。それにしても凄い…!感激だ!」

志郎が感動していると、花凛がソワソワと焦れったそうに言った。

「わ、私にも早く貸してくださいな?」

「うん。はい。」

志郎が花凛に刀を渡すと、花凛は驚いたような表情で刀を持った。

「本当に重たいのね。私の刀の3倍はあるわ。」

しばらくの間2人が持ったり渡したりしていて、満足したらしく俺に返してきた。

「ありがとう。いい体験が出来たわ。」

花凛がそう言うと、志郎もありがとう、と言った。

「どういたしまして。あ、そうだ。花凛にひとつ聞きたいんだが、なんで先生の死を知っていたんだ。」

そう訊くと、花凛はサラッと答えた。

「それは私が東家だからなの。」

「……え?」

俺が首を傾げると、花凛が若干呆れたように言った。

「あなた…まさか東家と和家を知らないの?」

「…悪い、知らない。」

はぁ、と一つため息をつき、花凛が説明を始めた。

「あのね、東家と和家っていうのはこの東和王国の中枢を担っているの。そして、この2家に続くのが国東くにさき家と国和くにかず家なの。でも国東家と国和家は東家と和家に従属しているような感じなのよ。」

一通りの説明を聞き、頷きつつ言った。

「なるほど。じゃあ、花凛はこの東和王国の中枢である東家の娘だってことか?」

「そういうこと。でも、変にお偉い様扱いしたら怒るわ。私はそういうの嫌いなの。」

「分かったよ、いつも通りな。

そういえば、志郎は分かってたのか?」

志郎は平然と言った。

「うん。東って苗字を聞いた時に。まぁ最初は緊張したけど正義が普通に話してたし、大丈夫かなって思って普通に話してたよ。」

「なるほど。これからは気をつけないとな。全員が花凛みたいな人じゃないだろうし。」

「そうね。下手したらその場で死刑が決まることだってあるのよ。」

それを聞いて冷や汗が一滴背中を伝った。

「……本当に気をつけないとな。」


「あれ?皆もう来てたんだ。早いね。」

しばらく話していた間に時間が経っていたらしく、隼人が小走りで来た。

「まぁな。もう始まるのか?」

俺がそう聞くと、隼人は頷いた。

「あと5分で始まるよ。三田君ももうすぐ来ると思うよ。」

三田、というのを聞いてさっきの花凛と三田英人の戦いを思い出した。

「あの防御魔術を使うやつか。そんでもって、花凛がぶっ飛ばし──うぉっ」

言い切る前に花凛の拳が飛んできた。

「それ以上言うことがあるのかしら?」

花凛が笑顔で拳を固め脅してきた。

「わ、悪かった。何も無いです。」

「よろしい。」

花凛が握り拳を開いたのを見て、言った。

「そういえば、次の試合ってなんだったかな?」

俺の疑問に志郎が答えた。

「次は正義と三田英人先輩だよ。」

「そうなのか。防御魔術が厄介だから気をつけないとな。」

次の試合について話していると、いつの間にか定位置についていた担当の教師がひとつ咳払いして言った。

「それでは、只今よりE-40リーグを再開する。まず、200位の若井正義、600位の三田英人、前へ。」

その声を聞き、俺は三田英人と共に前に出た。

相変わらず三田英人は異常なほどの殺気を放っていた。

「どうぞ御手柔らかに頼むよ。」

「黙れ。お前を潰して負けを払拭する。」

その言葉に俺は溜め息をつき、言った。

「それ言ってて飽きないのか?強さに変えられない恨みはただの弱点だぞ?」

「お前の自信を壊してやる。」

「俺に自信なんてものはない。あるのは後悔だけだ。」

そう言うと、三田英人は俺を嘲笑い、言った。

「ほざくな。何を言う。どうせ後悔もせず育ったんだろう。」

「残念ながら俺にも後悔ぐらいはあるんだよ。してもしきれないほどにな。」

また、三田英人は嘲笑って言った。

「そうかそうか。じゃあやるか。お前を内から潰してやる。」

2人共が刀を構えたのを見て、担当の教師が宣言した。

「ルールは午前と同じ。それでは──始め!」

お互いに身体強化の魔術をかけ、走り出した。

お互いに斬りかかった──と見せかけて、三田英人は斬りかからず、後ろの志郎達がいる所に走っていった。予想外の出来事に担当の教師も志郎達も対応出来ずに斬られる──直前に志郎達と三田英人の間に入り刀を受け止める者がいた。

それは正義だった。

怒りの形相で三田英人の刀を受け止めている。

「先生、ちょっと時間をくれ。」

三田英人の刀を弾き返して言った。

担当の教師はそれを了承して、試合を止めた。

「おい、三田。お前どういうつもりだ?」

抑えきれない怒りを込めて言った。

「ふっ、どうもこうもお前のお仲間を斬ろうとしただけだ。悪いか?」

「そうか。ならお前を斬る理由ができた。先生がする緊急の防御魔術なしで試合しないか?お前のは使ってもらって構わないから。」

そう言うと、三田は嘲笑って言った。

「おいおい、自信はないんじゃなかったのか?まぁいいぜ、やろう。隠そうともしないその自信を叩き潰してやる。」

話し合いを終え、先生に向かって言った。

「そういうことなので、緊急の防御魔術なしで頼みます。」

「分かった。反則退場でもいいが、若井がそれでいいならいいだろう。」

「ありがとうございます。あと、刀をもう1本貰えませんか?」

それに担当の教師は一瞬驚いたが、すぐに了承した。

「分かった。若井のことは教官殿から聞いている。」

そう言い、俺にもう1本の刀を渡した。

「ありがとうございます。」

そうお礼を言い、三田の所へ向かった。

「お前、二刀流か。ふっ、だがお前は負けるんだ。弱さがある限りな。」

「雑魚が喋るな。敵の仲間を狙うやつなんて雑魚以外のなんだ。俺はお前を許さない。」

「言ってろ。すぐに終わらせてやる。」

二人共が再び構えたのを見て、担当の教師が宣言した。

「緊急の防御魔術は無し。それでは──始め!」

正義はさっきの試合の2倍のスピードで身体強化の魔術をかけて走り出し、2本の刀を同時に三田に向かって振り下ろした。

三田は防御魔術をかけようとしたが間に合わず半端に刀で受け止めようとしたため、正義の刀の勢いをそのままくらってギィン!という鈍い音の後、隣のエリアとその隣のエリアの柵を突き破り、またその隣のエリアの柵にぶつかって止まった。

幸い試合が始まる前で誰にもぶつからず、怪我をした者は三田だけだった。三田は腕を変な方向に曲げていて、気絶していて、その隣には刃長が半分折れた刀が落ちていた。折れた刃長はE-40エリアの三田が突き破った柵の近くに突き刺さっていた。

刀同士がぶつかった鈍い音はトレーニング場全体に響き渡り、しぃんという静寂がトレーニング場を支配した。

皆が唖然として、衝撃の元を見ていた。そこにはこれまた唖然としている担当の教師に平然と刀を返している正義がいた。

担当の教師は思い出したように宣言した。

「や、止め!勝者──若井正義!」

その宣言を皮切りに志郎達が駆け寄ってきた。

「あの威力凄いね!しかも二刀流だったし!正義はやっぱり凄いよ!」

志郎にそう褒められ少し照れ臭くなっていると、他のエリア担当の教師が数人焦って走ってきた。

「おい、佐藤!なぜ防御魔術を発動させなかった!あいつは腕が折れているぞ!どう責任取るつもりだ!」

佐藤と呼ばれたE-40エリア担当の教師は何一つ焦らず、教師達に言った。

「第600位の三田英人は規定違反を犯し、戦いに関係の無い他の者に斬りかかりました。普通なら反則退場なのですが、両者が緊急の防御魔術無しでの再戦を望んだので許可したまでです。私は、反則退場よりは軽い罰だと認識しましたので。」

佐藤がそう言うと、教師達の中の1人が怒りで声を震わせて言った。

「何を言うか!腕が折れているんのだぞ!これではこの先試合ができないぞ!」

そう言われ、佐藤はひとつ溜息をつき言った。

「では、あなたは他の者の肋や頭蓋骨が砕けても良いというのですか?現に若井が止めなかったらそこにいる3人はどこかしら骨折していたんだぞ!」

あまりの剣幕に教師達は言葉に詰まった。

「それでも私を咎めるならあなた達を同じ教師として軽蔑する!」

「いや、別に咎めはせんよ。安心したまえ、佐藤。」

凄みのある声が聞こえて、そちらを向くと無精髭を生やし、深いしわを刻んでいて、少しつり目になっている男性──教官がいた。

教官を見た瞬間教師達は姿勢を正した。

「実は私も先程の試合を見ていた。その結果からいうと、600位の三田英人が先に仕掛け、若井君の友達を斬ろうとしていた。だからこの件に関しては三田英人に非がある。しかし、若井君がそれなりの処罰をしてくれたからね。だからこの件はもう終わりだ。さて、続きを始めてくれ。」

その言葉を皮切りに皆がそれぞれのエリアに戻り、再開の準備を始めた。

俺も準備をしようとすると、教官に止められた。

「若井君。君はこの後少し話があるから教官室に来たまえ。なに、処罰など与えたりしないから安心してくれ。」

その言葉にひとつ頷き、言った。

「分かりました。すぐに向かいます。」

「では、待っておるぞ。」

そう言い、教官は歩いていった。

教官が去ると、入れ替わりのように志郎達3人がこちらに走ってきた。

「どうしたのよ?あなたがあんなに怒るなんて、初めて見たわ。」

花凛が不思議そうに言った。

「初めて見たっていっても今日会ったばっかだろ?でもまぁ、確かにあんなに怒ったのは初めてだな。しかも、まだ使うはずじゃなかったものを使ってしまったしな。」

「ああ、あの本気の身体強化と二刀流ね……それにしてもあなたに対して苛立ちを覚えましたわ。」

その言葉に俺は少し焦り、言った。

「え、なにかしたか?なにかしたのなら悪かったよ。」

そう言うと、花凛は、はぁぁぁ、と長い溜息をつきキッと俺を睨んで言った。

「あなたねぇ!私に本気を出さなかったってことでしょ!?舐めてたの?舐めてたんでしょ!屈辱だわ!」

「それは…本当に悪かった。でも、本当にあの時は舐めてないからな。それでも納得してくれないなら──後で本気で相手するよ。」

そう言うと、花凛は目を輝かせて言った。

「言ったわね?約束よ!……あ、あなた教官殿と何話していたのよ?」

その言葉で、俺は教官に呼ばれていたのを思い出した。

「わ、悪い!教官殿に呼ばれているんだ!後で話すから!」

そこから全力疾走で教官室に向かった。


息を切らせながら、失礼します、と言い教官室のドアを開けた。

ドアを開けると教官が椅子に座り、紅茶を飲んでいた。

「若井君、急に呼び出してすまなかったね。」

「いえ、大丈夫です。」

息を切らせていると、教官はソファを示して

「疲れているだろう。座ってくれたまえ。」

そう言い、反対側のソファに座った。俺は示されたソファに座り言った。

「教官殿、今日はどうされたのでしょうか。」

そう訊くと、教官は穏やかな笑みを浮かべて言った。

「いや、一応当事者に先程のことを訊いておこうと思ってな。」

「なるほど。先程は騒ぎを起こして申し訳ありませんでした。」

そう言うと、教管はやはり穏やかな笑みを浮かべて言った。

「いやいや、私は嬉しいのだよ。コミュニケーション能力が皆無と自他共に認めていた者が友達を3人も作り、さらに友達のために怒れるようになったのだからね。」

「……友達を傷つけられることはもう二度と経験したくないんです。友達を傷つけられることが、どれだけ苦しいことか知っているから……!」

「知っているよ。日下部祐輝君、だね?」

その名前を聞いた瞬間、反射的に立ち上がっていた。

「なぜ、知っているのですか!?」

「あの事件──日下部祐輝暴行及び失踪事件の証拠をつかもうとして色々調べている時に君のことを知ってね。かなり仲が良かったと聞いている。」

嗚咽を抑えつつ、教官に訊いた。

「それで…事件の証拠は見つかったのですか?」

そう訊くと、教官は首を横に振り言った。

「いや、見つからなかった。祐輝君の血痕があって、事件があったと分かっただけだ。」

ある程度察しはついていたが、改めて聞くとどうしても絶望してしまった。

「ただ、推測することは出来る。」

その言葉に顔を上げ、ほんの少しの希望を持って教官の言葉を待った。

「不思議なことにどこを探しても祐輝君の死体がなかったのだ。つまり、誘拐されたと見れる。後は犯人に関しての情報があれば固まるのだが……何か知っているかね?」

「はい。犯人は──西和王国でした。祐輝は確かにそう叫んでいました。」

うんうん、と教官は満足そうに頷き、言った。

「なら──祐輝君は殺しによる脅しが目的ではなければ西和王国に必要とされた、その為に誘拐された、つまり──西和王国で生きていると考えられないかね?」

そう言われてハッとした。確かにそうだ。祐輝は──生きている!

「まぁ可能性の話だがね。あまり深くは受け止めないでくれたまえ。」

「はい。分かりました。」

今は希望を持てただけでいい。祐輝を助けられる可能性が0%ではなくなった。それだけでいい。

「さて、本題に戻るがあそこで何があったのか詳しく教えてくれ。」

その言葉にひとつ頷き、言った。

「はい。まず三田は恨みを抱きやすいのか、志郎に負けた後ぐらいからずっと異常な程の殺気を出していました。多分、結果的に800位に負けたというのがプライドを傷つけたのではないか、と思います。」

「そうだな。そしてそれを上位の者を倒すことで払拭しようとした。違うかね?」

「その通りです。その後、花凛に負けた三田は俺を勝ち負けなど関係ないほどに壊し、プライドを取り戻すために志郎達を殴ろうとしたのだと思います。」

そう説明すると、納得したように頷いて言った。

「そうか。そして、その後はどうなったのかね?むしろその先が重要なのだよ。」

「えっと、その後は俺が三田の刀を受け止めて佐藤先生に少し時間をもらって続行の審議の結果、佐藤先生による緊急の防御魔術無しでの試合をする、ということでお互いに条件を飲んで試合をし、俺は全力で叩き潰したという流れです。その後は教官殿が見た通りです。」

そう言うと、教官は穏やかな笑みを浮かべて言った。

「なるほど。状況が理解出来た。つまり、怪我も了承の上で試合をしたと?」

「はい。」

「分かった。若井君、説明ありがとう。君は志郎君との試合がまだ残っているだろう。行きたまえ。」

そう言われてひとつ頷き、失礼しました、と言って教官室を出た。




正義が全力疾走して行った後、僕──四葉志郎と花凛と隼人でリーグ戦再開の準備をしていた。

準備と言っても柵の穴が空いた部分を直すだけで、10分もかからずに終わった。

「それにしても、私も恐怖を感じるほど怒っていたわね、正義。」

作業を終えた時、花凛が僕に言った。

「まさに鬼の形相だったね。でも、正義は優しいからね。それに、斬った後は普通の正義だったし。」

「そうね。でも、正義が模擬戦なしに200位になった理由がやっと分かりましたわ。」

その言葉に僕も頷き、言った。

「だね。あんな速さの身体強化は見たことがないよ。それに二刀流か。なんか正義が遠い人になっちゃったな。」

そう言うと、花凛が苦笑して言った。

「元々遠かったわよ。明宮蓮の弟子ってだけで技術が遠いのよ。」

「まぁ、ね。でもいつかは隣に立ちたいな。」

そう言うと、また花凛が苦笑して言った。

「その前には私を超えないと1歩も進めないわよ。」

その言葉にお互いが苦笑していると、佐藤先生が咳払いをして言った。

「それでは、只今よりE-40リーグを再開する。まず、400位の東花凛、800位の四葉志郎、前へ。」

それを聞き、花凛が思い出したように言った。

「そういえば、次の試合はあなたでしたわね。どうぞお手柔らかにね。」

「こちらこそ、お手柔らかに。」

そう言い、エリアの中心に向かって行った。

二人共が刀を構えたのを見て佐藤先生が宣言した。

「ルールは午前と同じ。それでは──始め!」

宣言と同時にお互いに身体強化の魔術をかけた。

花凛が若干志郎より早く走り出し、それに続いて志郎も走り出した。

「せやぁぁぁ!」

志郎が花凛に向かって刀を思いっ切り振り下ろした。

「ふっ!」

花凛が振り下ろされた刀を正確に見極め、刀を弾いた。志郎が弾かれた勢いそのままに後退した。

しかし、それを逃すまいと花凛が志郎を追い詰め、横から脇腹を狙って斬りかかった。それを志郎が防ぎ、反撃した。

このような攻防が幾度も繰り返され、お互いに疲労の色が見えてきた。

「やりますわね。さすが、正義が鍛えているだけのことはあります。」

「そう褒められるのは嬉しいな。でも、負けないよ。」

「私もですのよ!」

花凛が走り出し、志郎に斬りかかった。その刀を志郎が弾くとその刀は吹っ飛んだ。

見ると、刀はもう花凛の手の中にはなく、宙を舞っていた。そして、消えたと思われた花凛は志郎の前で腰を落として構えていた。

「前がガラ空きですのよ!はぁぁぁぁ!」

花凛の拳が志郎のみぞおちに当たる──寸前に佐藤先生が防御魔術をかけ、止めた。その後、佐藤先生が宣言した。

「止め!勝者──東花凛!」

その宣言と同時に志郎は刀を下ろし、花凛は拳を開いて立った。

「負けたよ。まさか刀を自分から離すなんてね。想像もしなかったよ。」

そう言うと、花凛はふぅ、と一息ついて言った。

「あなたに決定打を打ち込むにはああするしかなかったのよ。そうでないと、あの均衡した状態が続いてしまいましたから。」

「なるほどね。今回は負けた、でも次は負けないよ。」

僕がそう宣言すると、花凛がクスッと笑って言った。

「ええ、望むところですのよ。」

そう話し合っていると、佐藤先生が咳払いをして言った。

「次、200位の東花凛、1000位の真壁隼人、前へ。」

それを聞いて、花凛が驚いたように言った。

「あら、二連続ですの?」

「あ、三田先輩と正義がいないからじゃないかな?次からの2試合は2人が絡んでたし。」

そう言うと、納得したように頷いた後、少し苛立ったように言った。

「そうでしたわね。あと、1つ言いたいのだけれど、あの最低野郎を先輩呼ばわりするのはやめなさい。あんなの、先輩の見本にもならないわよ。正義みたいに三田、とでも呼んでいればいいのよ。」

「わ、分かりました。」

「それでは──行きましょう、隼人。」

「うん。」

2人はそう言い、エリアの中心に向かっていった。

2人が刀を構えたのを見て、佐藤先生が宣言した。

「ルールは先程と同じ。それでは──始め!」

宣言と同時に2人共が身体強化の魔術をかけた。

「はぁぁぁぁ!」

花凛の方が速く走り出し、隼人に斬りかかった。それに隼人が合わせて刀を流した。

「っ!?」

花凛は慌てて刀を引っ込めて体勢を立て直した。しかし、その頃には隼人が花凛に迫り斬り払おうとしていた。

花凛はそれを弾き返し、その勢いのまま斬りあげた。隼人はそれを後退してかわし、花凛に向かって突っ込み、斬り込んだ。

「ふっ!」

花凛はそれを横に払い、回し蹴りをした。

それを隼人は間一髪でかわしたが、その頃には花凛の刀が隼人の右腹部を狙っていた。

隼人は防ぎきれず斬られる──寸前に佐藤先生の防御魔術をかけ、止めた。その後、佐藤先生が宣言した。

「止め!勝者──東花凛!」

その宣言と同時に2人共が刀を下ろした。

隼人が頭をポリポリとかきながら言った。

「やっぱり駄目だったか。結構いけると思ったんだけどな。」

「いや、なかなかでしたわ。身体強化を脚力に特化させて動きを速くするなんて。かなり慌てましたわ。」

「それでも勝つんだから凄いよ。まだまだ鍛錬しないとね。」

そう隼人が言うと、花凛が苦笑して言った。

「それを言うなら私だってそうですわ。ここで奢って終わる訳にはいかないのよ。」

「じゃあ、お互い頑張らないとね。」

「ええ。」

会話を終え、志郎といつの間にか戻っていた正義がいる待機場所に戻った。


俺──若井正義がE-40エリアに戻ると、花凛と隼人の試合が終わったところだった。

「2人共お疲れ様。」

俺がそう言うと、花凛は本当に疲れた顔をしていた。

「花凛、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないわよ!2連戦して疲れないとでも思ったの?」

俺はそれを聞いて状況を理解した。

「そ、それは…悪かった。」

「分かったのならいいわよ。」

「は、隼人もお疲れ様。」

そう言うと、隼人は苦笑しながら答えた。

「ありがとう。でもまぁ、負けちゃったけどね。」

「まぁ、花凛は強いからな。」

俺が花凛を褒めると、花凛は不満そうに言った。

「あなたに言われても慰めにしか聞こえないのよ。」

「そんなことはないんだけどな。」

そうやって言い合っていると、佐藤先生が咳払いをして言った。

「次が最後の試合だ。200位の若井正義、800位の四葉志郎、前へ。」

それを聞いて、志郎は興奮しつつ言った。

「ついに試合だね、正義。全力できてね。二刀流も、身体強化も。」

そう言われ、ふぅ、とひとつ息をつき言った。

「まぁ、使ってしまったものは仕方ないか。よし、本当の全力でやろう。手加減は一切無しだ。」

「分かった!」

そう言い、エリアの中心に向かった。午後に再開した時には真上にあった太陽が今では傾き、空が少し赤みがかっている。

俺は三田の時のような叩き込む構えではなく、前に学校で人形を斬った時と同じように、右手に持った刀の刃を外側に向け、刀身が地面と平行になるように切っ先を左手に向けるように構え、左手に持った刀の刃を地面の方に向け、垂直になるように構えた。

ここにいる全員が俺の構えに首を傾げていた。志郎は首を傾げていたが、構えていないことに気づき、慌てて構えた。それを見て、佐藤先生が宣言した。

「ルールは先程と同じ。それでは──始め!」

宣言と同時に二人が身体強化の魔術をかけた。しかし、圧倒的にまさよしの方が速く志郎が半分もかけていないのに関わらず、志郎に右手に持った刀で斬り払おうとしていた。

志郎はそれを刀で受け止めて防ごうと刀を構えたが、構えた頃には既に志郎の右肩に刀が振り下ろされていた。それは、緊急の防御魔術で止めるまでもなく志郎の右肩のすれすれで止まった。

「止め!勝者──若井正義!よって、このグループ1位は──若井正義!」

脱力したようにへたり込む志郎に俺は手を差し伸べて言った。

「……やっぱり正義は強いな。僕なんかが届きそうにないところにいるよ。」

その言葉に俺は首を横に振り、言った。

「いや、これは身体強化の魔術をもっと速く強く出来ればできるよ。それに、身体強化の魔術は習うより慣れろって感じだから、数を重ねる毎に上手くなるよ。だから──これからも頑張ろう。」

そう言うと、志郎は満面の笑みを浮かべ、俺の手を取り言った。

「うん!これからもよろしくね!」

そう言っていると、花凛と隼人が小走りでこちらに来た。

花凛はひとつ溜息をつき言った。

「やっぱりあなたは私とは比べ物にならないくらいに強いわね。あなたが200位からどれだけ進めるか、楽しみにしているわ。」

「ああ、楽しみにしていてくれ。」

花凛との約束を交わした後、隼人が穏やかに微笑み、言った。

「おめでとう、正義。俺も君を応援させてもらうよ。」

「ありがとう、隼人。」

そうやって会話をしていると、佐藤先生が咳払いをし、最終宣言をした。

「このE-40エリアでのリーグ、戦績第1位は5戦5勝0敗、若井正義!」

3人が俺に向かって拍手をした。俺は照れくさくなり、頬をポリポリとかいた。

このエリアで最後だったらしく、アナウンスが鳴り響いた。

「全エリアで全試合が終了したので、模擬戦『リーグ』を終了します。各自、明日のトーナメント戦に備えてください。」

そのアナウンスを皮切りに次々と生徒が寮に戻って行った。

「俺達も戻ろう。」

そう言うと、3人はひとつ頷き、俺達は寮に戻る生徒に続いて寮に戻った。

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