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ウィッチクラフト・サムライズ  作者: みるくるみ
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第1話 東和王国と西和王国

2546年。

この頃、ロシア、アメリカ、ドイツが共謀し宣戦布告をした後、世界各国に攻め込み次々に支配していった。そして、それを防ごうとロシアなど3カ国以外の国々が協力し、対抗していた。それにより、地球上にある全ての国々を巻き込んだ戦争が起こっていた。

そんな戦時中、日本は東西で2つの勢力に分かれ、日々内乱を繰り返していた。

その勢力とは、反戦争勢力と戦争賛成勢力で、平和主義による意見の対立からなるもので、反戦争勢力が東側、戦争賛成勢力が西側にいた。

ついには、日本国が二分割されるまでになり、それぞれ東和王国、西和王国と呼ばれ、今まで5年もの期間、内乱を続けていた──。



「と、ここまで分かったか?」

担任の明宮が教室を確認するように見回す。

俺──若井正義は皆に合わせ頷き、ノートをとった。

ここ、十堂院高校は今では珍しい一階建てで横に広い平屋のような校舎だった。これでも、理科室や音楽室などがありそこそこ充実している。ただ、コンクリートで平屋風にしたので、外から見ると異様な雰囲気がある。

なぜこんな校舎なのかというと、この校舎は元々建設途中だったのだが、戦争による建設中止でまともな屋根すらない豆腐のような校舎になってしまったからだ。

ちなみに、最近の学校では戦争前と教える内容が全くと言っていいほど変わっている。

前は国語や数学などを学んでいたが、今では戦争が起こってしまった歴史と剣術のみだ。

でも、歴史は1日5限のうち、1限しか取らないので殆ど剣術を学んでいる。

剣術の授業は2パターンある。教室で剣術とはなんたるかを学ぶ座学と校庭に出て木刀を使って実際の剣術を体で覚える実技だ。これは1日剣術の授業4限のうち2限ずつ行っている。

それと、この学校は単刀直入にいうと内乱のための武士育成のための学校だ。

武士は武士でも昔のような日本刀のみという訳ではなく、魔術を加えて強化した日本刀を使っている。

この技術は東和王国だけらしい。西和王国では拳銃やライフルなどの銃に魔術を加えているらしい。

ただ、西和王国は東和王国の近距離魔術を、東和王国は西和王国の遠距離魔術を使えないらしい。それは、東和王国と西和王国の初代国王様が仲が悪く、お互いに魔術をとられないようにしたかららしい。現在の国王同士もやはり仲が悪いので好んで使っているらしい。

俺は遠距離魔術も見てみたいなと思っていると、

「おい、若井。次は実技だ。さっさと校庭に行け。」

明宮が面倒くさそうに話しかけてきた。いつのまにか、授業は終わっていたようだ。

「お前なぁ、そーやって授業聞いてなかったら卒業出来ないぞ?お前は実技は天才的だが、歴史をしっかり覚えとかないと、どこの部隊にも入れてもらえないぞ。それに、こういう時に誘ってくれるような友達を1人ぐらい作れよ。」

「わーったよ、先生。次こそちゃんと受けますよー。そんで、友達をつくるのは俺にとって刀を振るより難しいんですよ。」

「はぁ、いつまでそんな考えでいるのやら。あ、そーだ。次の歴史の授業のあと、お前だけその授業の内容をまとめたテストやるから。もしも、7割以上正解しなかったら毎日1時間歴史の補習な。」

明宮が、にやっと笑って挑発的に言った。

「なっ、先生!それはないっすよ!差別っすよ!」

「いーや、違うね。生徒にやる気を出させるため、友達をつくってもらうためのムチだ。」

「アメなんかくれたことないくせによく言いますね。」

「あれ?そうだったか?まぁとにかく頑張れ。決定事項だからな。ほらほら、さっさと校庭に行かないと大好きな実技の授業に遅れるぞ?」

その言葉にハッとして教室の時計を見るとあと2分で授業が始まるところだった。

「やばっ!あーくそ、テストについて反論したいのに。先生!後で話し合いですからね!絶対論破してみせますよ。」

「おーおー、やれるもんならやってみろ。まぁそれで今まで勝てたことはないけどな。ほら、教室閉めるぞー。」

「それは今までですからね!今日は違いますよ!では、またあとで!」

そう言って、俺は走って校庭に向かった。




「今まで何度それを聞いたか。ふっ。面白いやつだ。」

若井が走っていったのを見て苦笑した。

「まぁ、論破し返してやるか。授業後が楽しみだ。」

教室の鍵を閉めて、職員室に戻ろうとした時、職員室への方向の廊下とは反対向きにのびている廊下の、俺から10メートルほど離れたところにこの高校の制服ではない何者かがいた。銀髪に青い目をした男の様だった。

俺は不思議に思い近づいた。もちろん、念の為刀の鯉口を切りいつでも抜刀できるようにして、柄に手をかけている。

近づいても特に気づく気配は無さそうだった。特徴的な青い目を窓の外の景色をぼーっと眺めている。

(何者だ?この距離で気づかないとは民間人か?)

その疑問が深まったので、真相を知るべく近づいた。

しかし、1歩を踏み出すと、刀を握っていた腕の感覚が無くなり、二の腕あたりに激痛が走った。

「ぐっ…ああああ!!」

あまりの痛さに思わず叫んだ。腕を見ると、二の腕より下の腕はなくなっていて、血が滴っていた。今更ながら腕を切られたと分かった。

「く、くそっ。お前は……何者だ?」

そうすると男はにやっと笑い、手に持っていたナイフを掲げた。

それの柄には西和王国の紋章が刻まれていた。

「なっ…それは西和王国の……なぜ…近距離魔術を使えるんだ…。っ!お前……まさか…」

明宮が口に出来たのはそこまでだった。

明宮は首を切られ、その首の開いた口の中を男がナイフで突き刺した。

そして完全に死んだのを確認したあと、男は首を捨て立ち去った。




明宮が殺されたのは俺が教室を出てすぐらしい。

「くそっ。俺とテストに関しての話し合いをするんじゃなかったのかよ。」

苛立ちを込め、ボソッと呟いた。

目の前の廊下は明宮のと思われる血で塗れていた。死体は既に回収されているようだった。

現場の周りには野次馬が大勢、少しでも現場を見ようと押し合いをしている。俺はそれを押し返すように1番前に立っている。


死体を見たわけではないが、なんとも悲惨な状態だったと聞いた。腕と首を刃物で切られていたらしい。

警備隊は近距離魔術で強化された刃物で切られた跡がついていることから、東和王国を裏切った者がいてそいつが犯人である可能性が高いという考えに至り、警備強化をすることになった。

そして、護身用に先生だけではなく、生徒への帯刀を許可した。もちろん、護身目的以外で抜刀すると罰が下る。

このような説明を教室にて臨時担任が話した。聞いていた生徒は殆どが怯えた表情で説明が終わり、下校の許可が出ても動かなかった。

俺はその中立ち上がり、職員室に向かった。

職員室に入ると先生が一斉に振り向いてきた。学校中の先生が集まり、話し合いをしている最中だったようだ。

「どうした?若井。下校許可なら降りているぞ。」

俺は実技が上手いお陰で少しは先生達に顔を覚えられている。

「いえ、別件で。差し支えなければ1つお聞きしたいのですが──明宮先生の刀はここにありますか?」

明宮先生の名前に先生達が表情を暗くした。少しの沈黙の後、校長先生が答えた。

「刀は特に証拠品にもならなかったということで学校で預かっているが、どうした?」

「その刀を俺にくれませんか。」

先生達が驚いた表情をした後、納得したように頷いた。

「そうか。若井、君は明宮先生と仲が良かったとよく聞いている。分かった。刀を渡そう。明宮先生も自分の刀を君に使ってもらったら嬉しいだろう。」

校長先生はそう言って校長室に置いてあった明宮の刀を持ってきて、俺に渡した。俺はそれを丁寧に受け取り、俺の使っている刀の逆側、つまり右側に明宮の刀を差した。

「でも、魔術強化した刀を2本同時に使役するのは、流石に若井でも難しいんじゃないかい?」

疑問に思ったらしい先生が聞いてきた。その言葉に俺は若干自信を持ったように言った。

「俺を舐めないでください。刀を2本同時に使役出来るから刀を取りに来たんです。」

この言葉に先生が驚愕と疑惑の表情を浮かべた。そりゃそうだろう。刀を2本同時に使役するなんて、この学校で使える人は今のところいない。というか、そもそも使役できる人自体が現在この世界で生存している人口である約5億人の2割程度しかいないのだから。

俺はにやっと笑って言った。

「なんなら目の前でやって見せますよ?」

そう言うと、校長先生を含めた先生達が興味を持ったようだった。


先生達は俺を模範武士として全生徒に見せると言い、まだ先生達すら確認していないのに、暗く、沈んでいてまだ帰っていなかった全生徒を校庭に集めた。そして、その中心にこの学校特製の自動性能がある人形2体と俺がいて、全生徒に見えるようになっていた。

先生の先走りにため息をつきつつ、俺は自分の刀を右手に持ち、刃を外側に向け、刀身が地面と平行になるように切っ先を左手に向けるように構え、明宮の刀を左手で持ち、刃を地面の方に向け、垂直になるように構えた。

その異様な構えに生徒や先生が疑念を持ち、少しざわついた。

そして校庭が静まると、校長先生が言った。

「知っていると思うが、この人形は魔術を刀に施していないと切れない。それでは、人形を動かす。若井、準備は出来たな?」

その言葉にこくりと小さく頷く。

それを見て校長先生が、

「始め!!」

そう宣言した。

宣言した3秒後には、若井は人形をそれぞれ横と縦に切り終えていた。


俺は宣言と同時に2本の刀に硬化の魔術をかけ、自分自身に脚力、腕力上昇の魔術をかけた。

そして走り出し、右手に持っている自分の刀でこちらに向かおうとしている人形も横に切り払った。人形は上半身と下半身に分かれ、断面から火花を散らした。そして、左手に持っている明宮の刀を振り上げ、もう一体の人形を縦に切った。人形はきれいに半分に分かれ火花を散らした。

この間、魔術をかけた時間2秒、人形を切った時間1秒。先生も生徒も何が起こったのか理解が追いついていなかった。

ただ1つ、皆が理解していたのは若井がわずか3秒で人形を切ったことだけだった。

しばしの沈黙のあと、

「おー!」

「すげーな!」

「どうやったんだ?」

と言ったような若井を賞賛する声が飛び交った。

そんな声を聞きながら若井は一息つき、刀を鞘に収めた。

そこに校長先生が来て言った。

「若井、素晴らしかったぞ。さて、証明が済んだことだし話がある。この後、用事があれば終わらせてからでいいから校長室に来てくれ。」

「いえ、今から向かいます。特に用事もないので。」

「そうか、なら着いてきてくれ。」

校長先生に着いていき、様々な歓声を浴びながら校長室に向かった。


「さて、わかっていると思うが、2本の刀を同時に使役出来た者には刀を名付ける権利がある。だからここで、その2本の刀の名前を付けてもらう。なにしろ、名前を付けてもらわないと部隊などで使えないのでな。名前を言ってくれれば私が彫ろう。これでも、彫名師の資格は持っているのでね。」

それを聞いて俺は驚いた。

彫名師。それは、この東和王国において重要な役職、例えば各地方の長などにつく者の中で、希望した者だけが得ることが出来る資格。つまりこの校長先生は学校だけではなく、この地方を収めているということだ。流石に、歴史が苦手でもこれぐらいは知っている。

しかし、俺はあえて口に出さず、平静を装って言った。

「分かりました。名前は既に決めています。この左側に差してある刀は『鳳凰』、右側に差してある刀は──『明宮』でお願いします。」

そう言うと、校長先生は優しい笑みを浮かべた。

「本当に明宮先生と仲が良かったんだね。明宮先生も嬉しいと思うよ。分かった。なら左側の刀から見せてくれ。」

左側に差してある刀を校長先生の前に置いた。

すると、校長先生は引き出しから青白い光を放っている彫刻刀を取り出し、刀に『鳳凰』と彫った。

すると、『鳳凰』の文字が青白く光り、少量の煙を立て、煙が消えた頃にはくっきりと『鳳凰』の文字が刻まれていた。

俺はその技術に驚愕した。こんな魔術を見たことはなかったからだ。

その後、右側に差してある刀にも『明宮』と同じように彫った。こちらも、青白く光り、少量の煙を立て、刻まれた。

「すごい魔術ですね。見たことないです。」

と、俺が言うと、校長先生が自慢げに言った。

「そりゃあそうだろう。なにせ、この彫名師の資格を希望した人にしか公開されない極秘魔術だからね。だから、このことは他言無用だよ?」

「分かりました。それで、校長先生。話したいことは以上でしょうか。」

「いやいや、もう2つあるよ。もしかして、急用を思い出したかな?」

「いえ、大丈夫です。お話をどうぞ。」

「分かった。まず、1つ目は、君が使った身体強化の魔術についてだ。身体強化の魔術は当たり前のように使われているが、君のような魔術の起動が速く、さらにこれだけ大幅な身体強化は見たことがない。もちろん、私だけではなく、世界で見ても、だよ。」

この言葉に若井は驚愕した。身体強化には自信があったが、ここまでだとは思っていなかったのだ。

「そこまで、ですか。」

「そう、それは世界各国が欲しいと頼むほどだよ。と、ここで、2つ目の話だ。さっき話した身体強化や刀の2本同時使役の実力を見込んで、この東和王国の攻撃、それに守備の要である──阿修羅隊に参加してもらいたい。既に参加を許されているが、どうかね?」

それで俺はまた驚愕した。今日は驚くことだらけだ。

なぜなら阿修羅隊とは、校長先生が言っていたようにとても重要な部隊だからだ。それに、俺の憧れでもあったからだ。

「本当に俺なんかが入れるんですか?」

「いや、君だから入れるんだよ。君ほどの実力者を阿修羅隊にいれない、なんてことは勿体無いだろう?だから自信を持って判断してくれ。」

迷う必要もなかった。だから即決した。

「俺、阿修羅隊に入ります。」

「そうか。ならば、この高校は飛び級卒業ということで手続きをしておこう。この高校のことは心配せずに行ってきなさい。」

「分かりました。校長先生、ありがとうございます。」

「いやいや、礼には及ばんよ。なら早速だが、明日の朝6時に出発する。それまでに準備して学校に来てくれ。」

「分かりました。」

「では、今日はゆっくり休みなさい。」

「はい。失礼しました。」


校長室の扉を閉め、帰路についた。その日はずっと気持ちが高ぶっていた。

(ついに、憧れの阿修羅隊に入れるんだ。まさかこんな形で実現するなんてな。)

気をつけていても自然とにやけてしまう。

明日が楽しみだ。

その日は足取り軽く帰った。

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