月と二人と
「月が綺麗だねぇ。」
「……そうですね。」
日本家屋。
そう表現するのがぴったりな別荘の縁側で、私は彼と月を眺めていた。
「でも魁さん。」
「ん?」
「月っていうのは自ら輝いているわけではありませんよ?太陽の光を反射しているだけです。」
「そんなこと知ってるよ。ロマンがないね、理系は。」
「お褒めにあずかり光栄の至りですよ、文系。」
もう夏だというのに山の夜は涼しく、電気を消して月と星々の明かりを楽しんでいた。
今夜は三日月が夜空に浮かんでいる。
「ねぇ。」
彼が私を呼ぶ。
こういう時、私は嫌でも返事をしなければならない。
今、彼の機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。
「どうしたんですか、魁さん。」
「真月ちゃんって恋人とかいるの?」
「セクハラで訴えますよ?」
それはたまらないな、と言って彼は笑い、私は溜め息を吐いた。
彼は上司じゃないので、正確にはセクハラではないのだけど。
「何でいつもいつも勝手に行動されるんですか?私がどれだけ苦労してるか分かってます?」
「君のために行動してるんだよ。しかも、ちゃんと置き手紙を置いてただろう?」
「場所の範囲が広すぎです。中部地方に、貴方は何軒の別荘を持っているんですか。」
「悪かったよ。」
悪びれる風もなく、ただ言葉だけを並べ、彼は寝転がった。
「あ〜あ。星になりたいなぁ。」
「死んだら誰でも星になれます。手伝いましょうか?」
「いや、冗談だから。金槌なんていらないから。ってかそれどっから持って来たの?」
「何処って……家に決まってるじゃないですか。」
「始めから殺す気!?」
私は振り上げた金槌を投げ捨てた。
もともと偽物だし。
「あーあ、つまんないなぁ。」
「いい歳した大人がいう台詞じゃないね。」
「心はいつまでも少女です。」
「身長もだよね、149cmしかないし。」
「ほっとけ。」
「きゃー!真月ちゃん恐いっ!」
私は二度目の溜め息を吐いた。
彼は楽しそうに頬を緩ませている。
身長はコンプレックスだったのに……。
ふと、彼の手が私の長い髪にいく。
「真月ちゃんって髪、綺麗だよね。」
指を絡ませて遊び、私の髪に軽くキスをした。
上目遣いでこちらを挑発するように見る。
私は彼の胸に手を置いて、彼の顔に自分の顔を近付ける。
二人の距離は、数cm。
「ねぇ、魁さん。」
「ん?」
彼は余裕たっぷりに微笑んだ。
「早く原稿書いて下さい。」
「もうちょい待って。」
「だめ。」