〜襲われるモノ〜
「ふぅ…まさかこっちでこんなに美味いものが食えるなんてなぁ」
まだライビットの肉の匂いが辺りを漂う中、木々に覆われた空を仰いでいた
「…?こっちで?たしかルウン様は今日生まれた、と仰っていましたよね?」
「あ…いや、実は俺さ、前世の記憶ってのがあるんだよ。まぁ曖昧だし、なんとなくって感じだからさ。ってそんなことよりも、俺のことを様付けで呼ぶのはやめてくれないか?」
ふと、ぽろっと言ってしまった、言葉をアリスに聞かれてしまい、別に転生前のことを聞かれても別段困ることは無いはずだが、なんとなくという感覚だけで、話をそらしてしまった。
「それでは、なんとお呼びすれば良いのでしょうか?」
アリスは、すでに俺の呼び方の方へと思考を移しており、ルウン殿?ルウン君?などと呟くアリスに向かって
「ルウン、だけでいいいよ。俺もアリスって呼ぶからさ」
そう言うとアリスは、驚き半分嬉しさ半分という表情をして見せた。口元に笑みを浮かべると、美少女度合いがさらに上がって、ルウンの心拍数を跳ね上げた。正直アリスと一緒にいると、寿命が短かくなる気がしてならない。
「呼び捨てで呼び合うなんて、お友達みたいですね!」
キラキラした目でアリスはルウンを見つめる。
「友達いないのか?」
言った直後に、これは失敗だったか、と後悔することになる。あからさまにアリスの表情が暗いものに変化したからだ
「そう…ですね。私の周りには私に従ってくれる人は、いましたが、対等に接してくれる方はいませんでした。」
火を見つめるアリスの目が揺らめく、その瞳は悲しさを物語っており、うつむく姿はどこぞのお姫様のようにも見えた。
「それなら、俺が初めての友達だな」
そう言うと、アリスは立ち上がって近づき、その両手でルウンの右手を取って少しだらしない、と表現するには可憐すぎる笑みを浮かべ
「はい!」
とだけ言って見せた、うわぁ生きててよかったわ、とか転生前なら一度も思ったことがないようなことを考えていると、ルウンの背後、アリスの視線の先で物音がした。ルウンは勢いよく振り返り、物音がした方を凝視し、耳をすませる。
火が揺らめき燃料として用いている木々がパチパチと音を立てる、わずかに漂う風が草をこするような音を立てる。この時意識していなかったが、ルウンの耳には周囲1キロの音が全て届いており、視野は、暗闇にもかかわらず森の奥の方まで、はっきりと見えていた。
《スキル『五感強化』を獲得しました。『味覚強化』を破棄します。使用者の意思で自由に五感を強化できます。使用による他の感覚の犠牲は発生しません。》
強化された視野の中で、動いている人の影が見えた。それも複数。ルウンは立ち上がってアリスの前に盾になるような立ち位置になる。
「誰だ!!」
ルウンがそう叫び、イメージのみで殺気を放ってみる。しかし元中学生が持つ威圧感なんてたかが知れており、身を潜めていた人影を制することなどできなかった。
「いやなに、こんな魔境の森の中で明かりが見えたんでな…とんだバカがいるなぁと思ってきてみたら、ライビットの肉を焼いてるじゃねぇの。そりゃ他のモンスターは近寄ってこねぇよな。」
身を隠していたのが嘘のように、でてきた男はいかにもザ盗賊のいうような、頭には深みどり色のバンダナ、無精髭、切れ長の目、ボロボロの一枚布で作られた服、その服の穴から見える男の体は、鍛えられているようで筋肉がこれでもかというほど盛られていた。
「それじゃぁ、お前らも近寄って欲しくなかったな。悪いが俺は今忙しいんだ、アリスと親睦を深めてる最中なのでな」
そう言いつつもルウンは、拳を固め、左足を前に置く。みたことがあるだけでやったことはない、空手の構えをとって見せた。
「随分と威勢のいいガキがいたもんだ。みる限りてめぇじゃライビットを倒せるだけの実力があるとは思えねぇ、偶然だろうな。しかしお前は運がいい」
「なにがだ!」
転生前でも、今でも運が良いと思ったことは、アリスに会った今だけで、こんな髭面のオッサンに会って運が良いと思うことに、思考の容量を1ビットも消費したくない、そんな意味を込めて即答する。
「親睦を深めてるってことは、その女は別にお前の女ってわけじゃねぇんだろ?置いてってくれれば、お前は見逃してやるって言ってんだよ」
盗賊男は、アリスを指差してそういう。態度がいちいちゲームやアニメの盗賊っぽくて、未だに緊張感を持てないでいる。
「それに、ぱっと見でわかるほど美少女だが、身につけてるものは、どれも高級品ときたもんだ、どこかの貴族の娘か?それなら身代金もたんまり取れるってもんだぜ。」
盗賊男ががそう言ってる最中に俺は足元に落ちていた石を拾いあげ、片手でお手玉するように、ポンポンと石を放り投げる。正直空手の構えをとっていたのは本当に無意味だったなぁとルウンは考えていた。
「させると思うか?今逃げるなら追いはしねぇよ」
「全く常識を知らねぇガキはこれだから困るぜ、出てこい、久々の上物だ、女は後でいただくとして、ガキは殺してしまえ!」
木々の陰に隠れていた他の数人もぞろぞろと出てきた。他の連中もいかにも盗賊のような容姿をしており、その姿にあったボロボロの曲刀を腰の鞘から抜き出した。その鞘も、鞘と呼ぶには随分お粗末だったのだが、リーダー格の男の腰に差しているのは、どう見ても作りの良い刀で、鞘も同様に漆のような美しい光沢を持っていた。
「盗賊のくせに随分良いものを持ってるんだな?そいつを売ったほうがよっぽど足しになるんじゃねぇのかよ?」
正直ルウンには刀の良し悪しなど分からないが、漫画やアニメなんかで得た知識で、適当に言ってみる。それに気をよくいたのか、それともテンプレ的な受け答えなのかは分からないが、くっくっくと、噛み殺したように無精髭を笑いながら撫でる
「どこぞのお偉いさんから盗んだものだからな、それは良いものらしいが、しかしなかなか面白い奴だな、これだけの数を前にしてまだそんな口がきけるとはな、まぁすぐにその顔に恐怖と苦痛を貼り付けてやるよ」
行け!という掛け声とともに、7人の盗賊がルウンに襲いかかってくる、最初に先頭にいた奴の足に向かって手に持っていた石を放り投げる、巨大蜘蛛の時と同じようなことがならないように、だいぶ手加減をして投げる
しかし
石はゆるーい弧を描いて、盗賊へと向かっていき、それは曲刀によって弾かれた
「え?」
間抜けな声を出したのはルウンで、想像の中では、軽く投げたとしてもプロの投手ばりの速度で放られ、あっさりと足の骨を砕くに達するものだと思っていたのだ。まさか、巨大蜘蛛のあの液体の効果が一時的なもので、今また本来の年齢の姿に戻ろうとしているのだろうか?と考えたが、目線の高さは変わっておらず、見える範囲の箇所に変化はなく、結局自分の中で結論を出すことが出来ず、驚きの衝撃から正気に戻った時は、すでに目の前に白刃が迫っていた。
ギイィィン
金属音が響く。盗賊のもっていた曲刀が首や腹部、腕や太ももに当たって飛んで行った。飛んで行ったもののを目で追うと、地面に突き刺さった血の付いていない曲刀の刃が、そこにはあった。
「あっぶね、『性質変化』を巨大蜘蛛からもらってなきゃやばかったな」
そう叫ぶルウンの皮膚は、鋼鉄のような鈍い光を反射させる金属に変化していた。盗賊の攻撃を防ぐと、すぐにスキルを解除し気づいた。さっき『馬鹿力』と『脳筋』のスキルをオフにしていたことを。すぐさまスキルをオンにして、自分の筋力ステータスが上昇したのを感覚で確認し、未だに折れた曲刀を持って固まっている盗賊に向き直った。
「あのさ、もう気づいただろ?お前らごときじゃ俺には傷一つつけられねぇよ」
今度は称号『力を司る者』の能力を用いた、ステータス的弱者を威圧した。すると、無精髭の男に従っていた盗賊の7人は、一目散に逃げていき、その目は恐怖で発狂するにまでに至っていた。この能力に指向性を付与出来なければ、アリスまで対象にされるから使用はしなかっただろうが…
「へぇ…お前は耐えられるんだな、自慢じゃないが割と筋力ステータスは高いと思うんだがなぁ」
しかし、盗賊男も耐えてはいるが、無事というわけではなく汗腺から滝のように汗を流し、刀に添えていた左手は震え力が入っていない
「あぁ…今更命乞いする気はない、好きにするがいい」
確かに今更何を言われても、敵対したわけだから許す通りなどないが、一応ルウンは平和の国とも言える日本で生まれ育った人間だ。殺すことにそれなりに躊躇をし、殺さないで済むのであれば殺したくはないのだ。
「まぁ、まだこちらには被害という被害もない。それにこれ以上何もしないというのであれば、さっきも言ったが逃がしてやると言っている。」
そうルウンがいうのと同時に、威圧を止め、張り詰めてた緊張が切れたのか盗賊男は膝をついた。
「く…まさかこんなにもやばいガキがいるなんてな。俺の運も尽きちまったってことかな…まぁ生きている限り死にたくはなぇからなぁ、盗賊は続けるけどな」
「まぁ、あまりそういうのはやめてほしいけどな、俺に直接にしろ間接的にせよ被害が出れば、今度こそ潰してやるよ」
「それなら、もうこの国にはいれねぇな」
その言葉を最後に盗賊男は森の中へふらふらとしながら帰って行った。
「助かりましたね…ルウン」
完全に姿が見えなくなったのを確認してから言葉を発した。まぁ、ルウンの強化された視界からは、ぶっ倒れて木に寄りかかって寝ているのがはっきり見えていたのだが…
「あぁ、まぁな。俺がちゃんとスキルを確認してれば最初っからこんなことにはならなかったんだがなぁ」
「それでも、ルウンが私を守ってくれたのには変わりありません、ありがとうございます」
少し疲れてため息をついて見せたが、この騒動に対する報酬がアリスの笑顔とくれば、あと数百回同じことがあってもいいかなぁと思っていたルウンであった。




