〜竜人化するモノ〜
グガルディンとディータの二人は地面にめり込んでいた。そしてそれを行ったであろう二人の天使、サティシアは巨大で鈍く光るハリセンを、ラティシアは鎖のついたトゲ付き鉄球を構えて、倒れ込んでいる二人をゴミを見るような目で見つめていた。
「やはり、私たちが勝ちましたね」
「そうね、でも3分もかかるとは思ってなかったわ、それだけ手強かったということですね」
「ですが、結局結果は同じでしたね、それでは抹消してさっさとほかの方もお相手してあげましょう」
そういった二人が、ルンたちが向かった方へ足を進めようとした時。二人の足はそれぞれの右手に掴まれた
「いやぁ、あんたらマジでつえぇな」
「さすがの俺様も気を抜きすぎていたようだ。判断を改めよう」
二人揃った動きでグガルディンとディータはラティシアとサティシアをぶん投げた、あまりに突然のことで反応しきれなかった、二人は防御できないまま400メートル先にあった岩の壁に衝突し軽く埋まった。そしてその間をのんびりと待って回復させるわけがない二人は地を蹴り一瞬で距離を詰め、秒間十数発の連打を放つ。その衝撃は凄まじく、石壁は揺れ、はるか高くにあった岩や砂、木なんかも落ちてくる。岩壁の向こう側にある山も激しく揺れていた。
「はぁ、はぁ…」
グガルディンはまだ余裕そうではあったが、ディータの方はすこし息を切らせていた。しかし、不意打ちとそのあとの猛ラッシュによりダメージは与えられたはず、ディータはそう思い勝つための算段を立てながら、砂埃が晴れつつある岩壁の方を見つめていた。
「おどろきました、まさかまだ動けるなんてね」
「おどろいたのなんて何十年ぶりでしょうか…」
二人は無傷とまではいかないが、服は修復されたのか全くの新品同様で負っている怪我も擦り傷程度のものしかなかった
「っく…グガルディンこのままじゃ」
「わかってる…だがあれをすると…いや迷ってる場合じゃないよな」
明らかに実力で遥かに上回る相手と戦うために二人で研究と訓練を重ねて作り出した秘技が存在する。しかしそれには当然高いリスクが生じる。正直な話、二人は魔王と戦う時の奥義として控えさせておくつもりであった。どれだけ高く見積もってもアネルの2、3倍程度だろうと思っていた魔王の戦闘能力は圧倒的というのも場違いなほど天地の差があった。そこで、推定していた範囲内の敵が現れ、自らの障害となるのであれば、ここで使うのが最も効果的だと判断したのだ。その技の名は…
「「竜人化」」
特に発言する必要はなかったのだが、二人は自然と口を開いていた。瞬間的に二人の体内、体外のエネルギーが丸々消失する。
「なにか言ったみたいだけど?」
「自殺…かしらね?でもあの目…」
「諦めていない目」
「今のうちに消さないと、まずいかもね」
二人の意見は一致したようで、飛び込むような形で武器を振り上げ、叩きつけた。が判断するにはわずかに間に合わず。竜人化は完了していた。巨大な鉄扇とトゲ付き鉄球は、それぞれのシルエットに衝突したときに防御した左右の腕により鉄球は砕け、ハリセンは割れた。武器が光の粒子となり空気中に霧散し、状況を飲み込めていなかった二人の天使は、目の前に竜の鱗を全身にまとった、二人の人間を呆然と見つめていた。敵…のはず。しかし、その対峙する相手からエネルギーが全く感じ取れないのだ。エネルギーとはその者にやどる戦闘能力に直結する、エネルギーを集中させれば攻撃においては数倍の威力を発揮し、回復においては自己治癒能力を向上させ、瞬間的に怪我を治すことも可能とする、そして不可思議なことに回復は物体にも有効であり当然服も元どおりどころか、イメージを復元することができる。0から者を作る際は割と大きめのエネルギーを要する。つまりエネルギーはその者の強さを表す指標である。そのため現在目の前にいる二人の竜人から全くエネルギーを感知できないことに驚きを隠せなかった。これで弱ければなんの問題もなかったのだが、その竜人は確実に強かった。
「どうした?何もする気がないのなら俺から行くぞ!!」
ディータは加速する、走ると意識した瞬間に体を纏う鱗が変形し、全身が空気抵抗を減らす鋭い形となり、足は逆にずっしりとした形状をしていた。そしてその変形した足が蹴り出した地面はまるでクッキーのように簡単に砕け、深いクレーターを生み出した。
能力が高い天使にすら、ディータの動きは捕らえられなかった、あまりの速度に体が耐えられていないのかボロボロと鱗が剥がれ、血がにじみ出ていたがそれはすぐに直され、サティシアの目の前で急ブレーキを掛け今度は殴ることを意識する。意識するといってもディータの思考速度なら音を置き去りにするような速度でイメージを完全に構成することができる。複製でありグガルディンの劣化版であるディータが唯一上回ることができるのがこの点であったが、それは天使にも通用する最強の武器となっていた。意識をし集中させたことで、ディータの右拳は鱗で巨大化しトゲのついた凶悪なものに変わっており、相手の防御を待つことなく放たれたそれは、簡単にサティシアの命を刈り取って見せた。一呼吸を置かせることなく無言で、おそらく無痛で死んでいった。
「さ、サティシア?」
ラティシアが現状を信じきれずにつぶやき、虚ろな目で死体となったサティシアを見つめていた。ディータの心に同情や罪悪感なんてすでに存在しない。サティシアと同じようにラティシアを攻撃しようとした瞬間。ラティシアは、、サティシアの唇に自分の唇を重ねた。




