〜操られしモノ〜
「私の名は、ハーブ。天界最強の名を持つ私の相手が人間如きに務まるでしょうか?」
透明化はそのままに、ハーブは全員が見えていることを前提で手のひらを上にしたまま、手招きをする動作を取り、挑発してきた。それに真っ先に答えたのは、意外にもディオスであった。決して挑発に乗ったわけではない。しかしディオスの中には、このメンバーのなかで一番弱いことへの自覚はあった。おそらくバイラよりも総合的な戦闘能力で言えば、弱いと言えるだろう。そこで自分の持つ一番の武器はなんだと考えれば、悪魔であることと、ルウンとのつながりがあるおかげで、物理的に死なないこと、つまり不死性を利用した特攻であろうと。
「死ね!!」
拳が風を巻き込んで、ハーブを狙う。急所を狙うのであれば頭部を…と思うのだが、当たらなければ意味がないと判断したディオスはかわしにくい胸部を狙う、あの大きさでは衝撃吸収などできないだろうという、真面目なのかどうかわからない算段も組み込まれていた。しかし、その拳はいともたやすく避けられてしまう。
「随分野蛮な者も混じっているようですね、この天使に向かって悪魔風情がたちむかえぅうう!!?」
余裕で避けて見せたハーブが突然呻く、それもそのはず完全にかわしたはずであり、防御行動もとっていなかった無防備な腹部にディオスの全体重とスピードを乗せた一撃が加えられたのだから。
悪魔の撃鎚もともと赤色だったハンマーは、完全に真っ黒になっており、属性はグガルディンにの能力の影響を受けて完全なる破壊属性を持っており、それはいかに天使が強靭な肉体を持ち全属性に対して耐性を持っていたとしても、軽傷で済むはずがなく、服は胸の下の部分まで破れており、下着はつけていないのか下乳が覗き込んでいた。そしてその下の皮膚も赤くただれていた。
「ふう…なるほどな、俺の一撃でもダメージは通るってことだ。だけど…まずったか?」
ハーブは何も話さず、攻撃を食らった場所を手にエネルギーを集めて摩るとあっという間に怪我どころか服までもが完全に修復されてしまった。
「申し訳ありません、あなた方を低レベルな魔物同様と見ておりましたが、一応私の敵と認識して差し上げましょう。」
特に取り乱した様子もなく、回復に使ったエネルギーも全体から見れば本当に微々たるもの。それに戦う意思がこちらに向いたにもかかわらず、体を纏うエネルギーの質にも量にも変化はない。つまり平常時から臨戦体勢の状態を維持し続けているということだ。
「ぐあぁっ!!?」
突然ルウンとディオスが呻く、並んで立ってハーブを油断なく見つめていたはずの二人に襲いかかる衝撃は殴られ痛みを感じるまでハーブのものだとは気づかなかった。それは、ほかの者も同様でバイラですら、攻撃の瞬間がわからなかった。完全なる知覚スピードの差であった。
「あきらめなさい。本気になった私に勝てる者などいないのよ、ただ一人魔王様を除いてね」
「悪いな、その魔王を倒しに来てんだよ、俺らはな」
ルウンは腹にめり込んでいる腕を左手で掴み動かないように力づくに固定する、ディオスの考えも同様で、両手を掴まれたハーブに避ける術は残されておらず、ルウンの右とディオスの左ストレートが耳に響く甲高い音を響かせた。
しかし
ハーブには当たらなかった、まるで初めからそこにいなかったかのように、二人の拳は空を切り、掴んでいたものは幻だったのか。そう疑いたくなるほど、綺麗さっぱり消え去っていた。
「言ったでしょう?私にはもう傷一つ付けられない。私の一撃を耐えたことには称賛を与えましょう、その褒美として私の能力を教えて差し上げましょう。私の能力は『時止め』わずか2秒間ですが、私にとっては無限とも言える時間を止めることが可能です。」
「時間を…止める?そんな能力を相手に…それも明らかな格上と…」
ガインが言葉を漏らす。ルウンの頭にもその能力が本当にハーブに備わっているのなら絶望的であったが、それをルウンは最初っから否定していた、もしそれが可能ならばディオスの初撃を食らう必要はなかったし、さっきも腕を掴まれる前に逃げることだって可能だっただろう。
「お前、急にしゃべるようになったな?」
ルウンの言葉に片眉をピクリとあげ、それ以外の動作を行わないハーブを見て、ルウンは自分の仮説が正しいと確信を得た。もし時止めが嘘であるなら別の能力があるのだろう、それに対して思考をめぐらせ、仲間に共有させると、バイラも別の方向から思考していた。
「そうやって、隠したいことがある奴ほど、口数が増えるってもんだ。もしお前の能力が本当なら、いますぐ俺らを殺せよ、それが魔王の指示なんだろ?」
「私の優しさを気づかぬ愚か者よ、安心しなさい安らかな死を与えよう」
ギュイイイイインとチェーンソーの騒音が響く、そしてそれと鍔迫り合いをする細剣を握るアネルの表情は芳しくない。圧倒的に自分の方が優位だと思っていたはずだったアネルに対して互角に渡り合っているカノンは、徐々にアネルを追い詰める形となっていた。
「どうしましたかぁ〜アネルおねぇ様〜まさかまだ自分の方が強いと思っていたんですかぁ〜?」
「っく!?あたしに勝てると思うなよ!!カノン!!!」
アネルが細剣を振り払い距離を取る、武器の質量は圧倒的にアネルが劣るため振り払ったのがアネルだとしても衝撃が大きいのはアネルの方のため、その衝撃を逃がすために自らが後ろの下がった。
「どうしたんですかぁ〜胸元をそんなに大胆に開けて、下品たらありゃしませんよぉ〜」
アネルの服が、体の中心を首元からヘソまで切り裂かれており、露出度高く開かれていた。ただアネルはハーブやほかの天使とは違い人間の間での生活が長かったため下着をしっかり着用しており、開かれたそこからは黒いレースのものがちらりと覗いていた。
「カノン、あんたこそどうしたんだい?下半身丸出しとは下品を通り過ぎてむしろ上品だ…とでも言いたいのか?」
そう、カノンだけではなく、アネルの剣撃もカノンをかすめており、それは相手の着用していたスカートを消し去り、例にもよって下着をつけていないカノンの幼げな下半身は完全に露出というか丸裸だった。
「あ、アネルおねぇ様!!」
顔を真っ赤にさせて、睨むがそこに殺気も覇気もない
「まったくあんたは成長しないね、心も体も…あんなに戦うのを嫌っていたあんたがどうして…どうして魔王の味方になってんだい」
カノンは顔を真っ赤に染めたまま、服を修復しようとするが、完全に消し飛ばされてしまっていたため、修復が難しいようで、めちゃくちゃ短いミニスカートに変わっていた、ちょっとでも動いてはためかせれば、パンチラどころか…いややめておこう
「やっぱりまだ苦手なんだね」
そういって優しく微笑んだアネルはカノンの服を完全に修復させてやる、まぁその際に用いたカノンのエネルギー量は膨大で、修復ではなくコスチュームチェンジと言えるものだった。質素なドレス姿だったカノンは、アネルの手によって黒を主としたゴシックロリータに変わっていた。
「アネルおねぇ様は相変わらずこいうった服がお好きですねぇ〜、自分でも着てみたいくせに…ですが私が似合うのもまた、事実ですねぇ〜」
間延びした喋りをしているカノンは、どこか優しげな目つきをしており、とてもじゃないが先ほどまで戦っていた者と同一人物だとは思えないほどの変わりようだった
「ごめんなさいアネルおねぇ様…私は最後まで…反対…してたんだけどねぇ…でも無理みたいなんですよぉ!!!私は魔王様の忠実なる僕ぇ〜!!」
優しげな目つきは徐々に鋭くなっていき、チェーンソーが放つグレーの光が強く濃くなるとともに、カノンの瞳に差し込み始めていた光が消えてしまった。それと同時にカノンの失われていたエネルギーが完全に補充されてしまった。しかしその完全回復ぶりにアネルは驚くこともなく、回復させてしまったことを後悔していたわけでもない。
ただ、ブチ切れていた




