〜蹂躙するモノ〜
すっごくぬめぬめしてる…ルウンは数週間前に興味本位で購入したローションを思い出していた。
実際本来の目的にも間違った目的にも使わなかったそれだが、
今、全身にかけられているそれは、ローションと似たようなモノだった。
しかし、決定的に違かったのは、その粘液から俺の心のような部分にいろいろな人や動物などの感情や意思が流れ込んできた。
しかし、ルウンはそれらの流れに自分というモノを見失うことがなく、
わずかな時間で俺の心は平常に戻った。だが、周りの子供達はルウンのように確立した意思を持っていなかったため、急に大きくなって、わずかにしっかりとした体とは裏腹に、精神を破壊されていた。
「うぅ…あぁあああ」
周囲のうめき声とともに直後頭の中に声が響いた
《一定の経験値を獲得しました。レベル0→レベル6 それに伴い身体年齢が上昇します。0歳→7歳》
《身体年齢が満1歳を超えました。すべてのスキルが解放されます。》
《現在ステータスを報告します。
ルウン=ローレン 人間 身体年齢7歳 精神年齢14歳
筋力 11385
防御 25
魔法 0》
脳内の声が告知するのと同時か、わずかに早いくらいに、体内の眠っていたエネルギーが目覚め、全身へといきわたるのを感じた。
俺のステータスはスキルや称号でもある通り脳筋の二文字が似合うほど、
一に筋力、二に筋力、三四に筋力、五に筋力
といった具合だ。
試しに、といった具合でまだ体にまとわりついている蜘蛛の糸を外すように、軽く腕で払おうとした直後、周囲の砂や草木もろとも突風で吹き飛ばした。当然近くにいたもと子供達も風圧で吹き飛ばされ、巨大蜘蛛はその質量ゆえか、踏ん張る力があってなのか、その場に留まっていた。再び巨大蜘蛛と目を合わせたルウンだったが、その心に恐怖を芽生えさせることはなかった。
「あー、あ!よしっ、やっと普通にしゃべれるな」
足の裏から伝わる、枯れた地を立つ感触など確かめながら、声がしっかりと出せるかの確認をしていると、巨大蜘蛛は自分も怪物だということを忘れて、凶悪な化け物を見るような目つきでルウンを見ていた。
「!!?人間のくせに…それも今先ほど目覚めた程度の貴様がなぜそこまで話せる、何故数百の生物の精神を取り込んで正気でいられる?どうしてわしの蜘蛛糸が容易く千切れたのだ」
「質問の多い蜘蛛だな、答える義務はないけど、最後のだけ答えてやるよ、それはな、てめぇの蜘蛛糸が貧弱すぎるからなんだよ。」
俺が一般的な蜘蛛の糸を比較対象に考えると、確かに鬱陶しい蜘蛛の糸だが1本ずつは細く強く引っ張れば切れてしまうものだ
「ふざけるな、わしの蜘蛛糸は通常の蜘蛛の100倍以上の強度と柔軟性、粘着性を持つ。たかが人間の、それも貴様のようなガキにどうこうできる代物ではないわ!!」
「でも実際、さっき切れたところをみただろう?てめぇの糸はその程度だったってぇことだ」
直後、激昂したように喚く巨大蜘蛛は再び俺に向かって口から蜘蛛糸を吐き出す、先ほどまで俺を縛っていたモノよりもずっと太く、しかし粘着力がほとんどないそれは、俺の右腕にぐるぐると巻き付いた。
「くふあははは、いかに特殊な人間といえども、所詮人間だ。神に最も近い存在、亜神となったわしに勝てるものなどおるわけがないわ」
俺を捕まえて良い気にになった巨大蜘蛛は、力任せに蜘蛛糸で俺を引き寄せようとした…がルウンがほんの少し力を入れて踏ん張ると地面がわずかに陥没し、力が拮抗したのか蜘蛛糸がピンッと張り詰め、ギシギシと軋む音を響かせた。
引っ張られている腕が若干痛いが耐えられないというほどでもない、などとすでに巨大蜘蛛のことではなくどうやってこの糸を外そうかという思考に走っていた。しかしルウンの頭には、巨大蜘蛛の表情が面白いように恐怖を感じていることを全面に表していた。蔑むような人を罵るような目で見続けられた俺の人生の中で初めて恐れられたのだ。
その事実に俺の感情が高揚するのを感じた。
「貴様…何者だ…なぜ人間の姿などしているのだ」
「そりゃ、俺は人間だからねまぁ地球産のだが」
少し舐めた感じで、巨大蜘蛛に返答する。
すでに落ち着くことを忘れ、六本あるうちの右前足を空に掲げた巨大蜘蛛
「ぐっ…たかが人間に負けるわけにはいかないんだよ!スキル『性質変化』!」
掲げた足が、日の光を反射し独特の光沢を生み出していた
「なんだあれ?金属みたいにひか・・っ」
分析しようと脳が回転する、しかしその脳から全身に危険信号を発した、そして回答を返すように反射反応に委ねた速さで、巨大蜘蛛の足を回避した。
しかし、余波は俺に巻き付いていた蜘蛛糸ごと皮膚を切り裂いた
瞬間脳に伝えられる激痛、多くは無いが多少の血が地面に落ちる。
冷静だった心が大きな石を落としたように波を起こし連鎖的に、徐々に大きくなる。そしてその心の揺れはそっくりそのまま行動へと移っていく
ルウンはちぎれて地面に垂れたままの蜘蛛糸を拾いあげ、巨大蜘蛛に向かってニヤリと口角を上げて見せた
「あ…」
間抜けな声を上げた巨大蜘蛛はその直後地面にキスする形で逆立ちをしていた。ルウンが巨大蜘蛛に背中を向け、背負い投げをするように蜘蛛糸を引っ張った結果がそれだった。多少のダメージはあったようだが、その痛みでわずかに冷静になれたのかすぐに元の姿勢に戻る
「なんだ…その力は…なんなんだよ」
「知るか」
思いっきり地面を蹴り飛ばし乾いた地面に大きなひび割れを起こす、その力によって生まれた反動はルウン自信でも驚く速度で巨大蜘蛛に接近する。
その過剰な運動エネルギーの流れを止めることなく巨大蜘蛛の腹部めがけて拳を振り抜いた
「な…めるなぁ!!『性質変化』」
巨大蜘蛛は、再び前足を金属のようなものへと変えて体の前で交差するようにして防御姿勢をとった
ギィイイイイィィィイィイイン!!!!!ボキャァァ
けたたましい金属が軋む音が一帯に響き渡る。しかし直後に鳴った湿ったような音は見ずとも巨大蜘蛛の足が根元からへし折れたことを表していた。
「な…なぜ…なぜだぁぁぁ、人間の、人間のくせにぃぃぃ!」
「うるさい」
叫び騒ぐ巨大蜘蛛の残った4本の足を踏んでへし折り、顔面めがけて素人丸出しの蹴りを放った。素人の蹴りとは言っても、その力は余波だけで周囲の木々をなぎ倒し、様子をみていた観衆達の体を浮かせ、軽いものは数メートル吹き飛ばす結果を生み出した。
ドッ!!どどどどどどどど
蹴り音と同じくらいの巨大蜘蛛が地面を跳ねる音が響き渡り、その音は俺の視界の先にあった周囲の家よりも数段大きな、豪邸と呼ばれそうな
建物に派手に突っ込んだ。
「これで終わりだ」
足元に落ちていた拳大の石を拾い上げ、巨大蜘蛛に向かって思いっきり放り投げる。瞬時に赤くなる石、摩擦による熱によるものなのか、他のなんらかの要因なのか、電撃が迸る、明らかにミサイルなどと同等といっても差し支えないであろうそれは、衝撃により立ち上がることもできなくなっていた巨大蜘蛛に直撃し、大爆発を起こした。
無論その被害は甚大で、豪邸は火柱に包まれ原型をとどめることは許されていなかった
その大きすぎる火柱を背にし、様子を見ていた村人たちの方向を見て、俺は絶句した。
「なんなんだよあいつ…」
「巨大蜘蛛が死んだ?やっと解放されるのあの怪物から!!」
「バカ言え、見た目怪物中身も怪物のよりも、もっと最悪な怪物が生まれたんだよ」
「化け物…うわっぁぁぁっ!!バケモンだ、人の形をしたバケモンだ!殺されちまう!」
広がる光景と聞こえる声と目線は、当然ルウンを賞賛するものではなく、寧ろよく感じてきた人間の恐ろしさをふんだんに盛り込んだ目だった。
《巨大蜘蛛の魂の一部を吸収しました。知識、魔法関連の技能、思考、記憶の補助系スキルを破棄します。》
《『蜘蛛糸』『性質変化』『脱皮』『立体機動』を獲得しました》
《一定の経験値を獲得しました。レベル6→レベル12》




