〜襲撃するモノ〜
その発言とともに、数人の門下生が集まりそのうちの二人ずつと10分の戦闘と3分の休憩を日が沈むまで行われた。
「はーっはーっ…ガインさん…さすがにこれはハードすぎやしませんか?4時間経過したあたりから3人1組になった気がするんですけど…」
深紅のジャージが土や血などで汚れ、背中を地面にくっつけてもう、一歩も動けないことを全身で表しているルウンは、息を整えながらガインに抗議の声を上げるが、それを行うにしては、声に力がこもっておらず、ただ口から漏れ出るだけだった。
「はっはっは、三人にするのは明日にする予定だったんだけど、ルウン君の成長速度が速すぎてね、つい5段階くらい修行のレベルを上げてしまったよ」
たしかにガインの言う通り、現段階でルウンはスキルを使わずして門下生二人を相手に悪くて引き分けというレベルにまで達していた。また『同時思考』と『思考加速』のスキルを獲得したとアナウンスされたが、即座に破棄された。それは『脳筋』の称号の影響なのは知っていたが、スキルの補正がなくとも限界値までルウンの思考能力は引き上げられていた。そのほかにもルウンは『戦う者』と『戦闘』など計5種類ほど戦闘時のステータスアップのスキルを獲得していたが、獲得するたびにスキルの発動をオフにしていた。ガインにしてみれば、初期で持っているスキル…強いて言えばルウンの持つ『脳筋』さえ切ればほかはどうとでも良かったし、獲得しているスキルのおかげでルウンの戦闘がましになっていたのだと判断していた。
「それじゃ、あとはゆっくり休憩をとって明日に備えること、アリス…今日だけは許す…ルウン君のそばについてあげなさい。魔法による回復はやるなよ、せっかく上昇する筋力が下がってしまうからな」
そう言い残してガインは去っていく。訓練所にはルウンとアリスだけで、ほかには誰もいない。しかし妙な気を起こすまえにルウンの意識は閉じられてしまい、ぐったりを倒れ込んでしまう。そんなルウンの体を濡らした布などで拭き取り、気づけばアリスもルウンの横で眠ってしまった。
ゴオォォンという低く鳴り響く音で、ルウンは目を覚ました。一瞬時刻を知らせる鐘の音かと思ったが、この世界には時間という概念があるにはあるがとても曖昧なもので、とてもじゃないが朝の規定の時間に鐘を鳴らすという習慣がない。
ならばこの轟音はなんなのだろうかと、まだ覚醒しきっていない頭で状況の把握を試みるが、同じくうっすらと目を覚ましているアリスと目が合い、瞬時に思考がそれてしまう。気温はそこまで低くはないが、少し薄着だったアリスは、無意識なのかねながら暖を求めルウンに抱きついていた。そのことに気がついたのが一瞬早かったルウンがはじめに、理科が数秒遅れてアリスが顔から火を噴くように赤くした
「お、おはようルウン、足とか腕とか痛いとこない?」
慌てて早口でルウンに尋ねるアリスだが、ルウンも思考が半分止まっており、抱きついていた感触が残る腰と、当たっていたものを柔らかさの余韻が残るふとももあたりの感触に意識を費やし始める
しかし二度目の轟音で、ルウンの意識は確実に覚醒した。
「ルウン!?今のは…」
「間違いなく爆発だ!!多分方向的にあっちだ!」
そう叫び指差した方角は、以前コロッセオでガインと戦ったあと、ルウンが放り込まれた宿があった方向だ。
「アリス!俺はとりあえず見てくる!」
アリスに告げると、アリスは慌てて身なりを整え始めるがそれを待つことなく走りだす。なんとなく急がなくてはいけない気がしたから。
(なぁルウンよ)
唐突に頭にデスラインの声が響く、ルウンは無言で話の続きを促すように意思を送る
(我輩はもう本体とは関係なく、むしろルウンの一部であると考えてるから、これは裏切りではなく、ルウンへの助言だ。・・・この先にいるのは俺の本体だデスラ=インダン奴は俺の数百倍は強い、なにしろ俺はたかがスライムに落とされた奴のたった一滴の血液から生み出されたんだ。)
「デスライン…だがこのままじゃ安眠なんて出来そうにないし、いざとなれば逃げてやるよ。だが今だけは立ち向かう。まだ修行中の身なのだから」
ルウンはさらに速度をあげ、音の発信源に向かう
足から飛び込むような形で、街を暴れる存在の近くにたどり着いた。目の前に立つ存在は、たしかにデスラインに近しい雰囲気を持っており、唯一違うのはデスラインが戦闘の終盤に持っていたサイズの巨大なハンマーが、物体としてその手に握られ、それを一度振るうだけで建物は幾つか吹き飛ばされていた。
「ここの我輩の一部がいるはずだ、そいつを我輩に差し出せ、さもなくばこの国を滅ぼしてくれよう」
「させるかよ、それにこいつはもう俺の一部なんだそうだ…欲しけりゃきな、俺が相手をしてやる!」
「人間ごときが舐めた真似を…圧倒的力の差って奴を見せてやろう」
デスラインが戦闘態勢に入る。妙に『威圧』を感じやすいな、と感じたルウンは、自分のスキルが発動していなかったのを思い出し、すぐさま『威圧』の相殺を図った。
小手調べと言わんばかりに初手で殴りかかってきた、その一撃はデスラインのものとは比較にならず構えから動作までが限りなくはやく、限りなく強かった。しかしルウンも負けずに力でもって凶刃を無効化させる。
「人間のくせにやりますね…」




