〜戦闘訓練を行うモノ〜
訓練所とは名ばかりで、現在はガインの道場となっている。大きさは40メートル四方と割と大きめだが、その中心に壁があり片方の空間はさらに半分に、その半分の空間はさらに半分に分けられた合計で4つの部屋に区分されている。本来は8等分に区分された建物だったらしいがガインの独断で壁を取っ払い、一番大きな空間を戦闘訓練所として用いている。他の部屋は筋トレしたり更衣室だったりするらしい。ちなみにこの戦闘訓練所のみ床は張られておらず、固められた地面となっていた。
そして今、ルウンは上下ジャージのまま、左足と左手を前にし、半身の状態でガインに向かって構えている。互いに『威圧』は使っていないが、その緊張感からかアリスの額には少し汗が流れていた。余波を恐れてなのか、トラクアとデスラインは具現化を解いて姿を消している。
「よし、ではルウン君!全力でかかってきたまえ。俺も今回は本気で相手をしてやる。君はみて体感した方が覚えが良さそうだからな」
「はい、ガインさん!今回は殺す気で挑みます!でなければかすり傷すら与えられそうにありませんから!」
ガインが叫び、それにルウンが答えると、それで互いの準備が完了していると悟った、門下生の一人が右腕を勢い良く上にあげ
「それでは戦闘訓練開始!!!」
門下生の叫と同時にルウンが地面を蹴る、空気を割るような音が響いたが、地面の砂埃がわずかに舞うだけだ。地面への衝撃はすなわち力のロスへとつながる、その改善策として一度小さく跳ね、空気を蹴ることで推進力を得る、これにより相手への突進力をわずかに増したルウンはほんのわずかな時間で12〜3メートル離れていてガインに接近する
「なるほど、だが動作が一つ多い分、来る方向がわかりやすいうえ対処の時間を与えることになる、減点」
目の前へと迫ったルウンの拳を左手の平で軽くなでるように逸らす、ほんのわずかに軌道を逸らされた拳はそれだけでガインを捉えられなくなるばかりか、はじめから何もない空間を殴る予定だったかのようにゆっくりと迫るガインの右拳が的確にルウンの顔面をとらえた。
「っく!!」
小さなうめき声とともに、体をひねり左手を地面につけ、顔面へのダメージを緩和させるのと同時に両足でガインの顎めがけて蹴りを放つ、直撃したが、蹴った感触はみじんもなく、力が完全に流されのをルウンは感じていた。
「うーん、まえに戦ったときの俺の動きを学習してか、なかなかいい動きをしているな、加点だな。それなら俺はもう2段階上の実力を見せてもいいだろうな」
そういってガインは初めて構えを取る。拳を握らずちょうどヘソの高さで両の手が触れることなく天を向いている。体はリラックスしており、空気の流れが清らかで静かだ。
その構えに興味と恐怖を持ちながら、ルウンは再びガインへと挑む。
今度はさっきの反省を踏まえ、一回の踏み込みで向かうのではなく、あくまでも走るようにガインへと向かう。速度は先程よりも劣るものの、ガインの動きを見てから選択できる行動が増える。子供だましレベルのフェイントだがガインの目の前で殴るふりをしてもう一度地面を蹴り砂埃をわざとあげ、目くらましをして背後に回り左の手のひらで、ガインの腹部を押す。
ガインは衝撃を逃がすために力の方向へ抵抗することなく回転し背後へ下がる、しかしルウンは指の先にまで力を込めていたため、全てのエネルギーをそらせたわけではなかったが、余剰分のエネルギーはガインの持つユニークスキル『収集家』によって回収されてしまう。
「いや、驚いた。まさかスキルを使わされるとは」
「本気で殺そうとしてるんだけどな、全くダメージを与えられないと軽くショックだな」
互いに笑みを浮かべるが、戦闘を止める様子はなく、ほとんど同時に行動する、ルウンが繰り出した拳に合せるようにガインの拳がぶつかる。先程のルウンのエネルギーを利用した総裁だが、わずかずつしか吸収できないガインの方がエネルギーの総量的に押し負けてしまうが、押し負ける瞬間に差し込まれたガインの左手は、ルウンの右拳を捉え掴み、引っ張り体ごと回転し、ルウンをぶん投げた
投げられることを予想していたルウンは、空中に放り出された直後左の手のひらで後方の空間を叩き、甲高い音とともにルウンの体はガインに体当たりを試みる。しかしその攻撃さえ躱されてしまう。とっさの考えとしてうまく体が動いたルウンだったが、こと戦闘において無防備に相手に体当たりするというのは、悪手でありルウンの背部にガインの右手が触れると、体当たりの勢いが倍になったような速度で地面に突っ込んでいった。
激しい轟音とともに、大量の砂埃をあげ、周囲の認識がしずらくなる
「ルウン君よ、なかなか面白い成長を見せてもらったが、まだまだ磨ける部分が山ほどある。まずは少しずつ基礎からだ…なっ!!!!?」
静かにしかし確実にガインの首、しかも頚動脈に手刀が添えられていた
「確かにまだガインさんのようには動けないですけど、少しは成長しましたかね?」
ルウンは少し顔に笑みを浮かべながら、ちょっとのとっかかりと手応えを感じていた。
「うっむ…とりあえずは及第点としておいてやろう。この戦闘を踏まえて訓練を進めていくぞ!」
「はいっ!」
「これにて終了します」
門下生の叫と同時に二人は礼をする。場を支配していた緊張が解け、見学し、気配を絶って無言を貫いていた数十人の門下生は一斉のため息をついていた。それに紛れ込ませるようにアリスも可愛らしいため息を吐いたが、ほんの少しタイミングがずれてしまったのと、門下生が男だらけということもあり、可愛らしくトーンがわずかに高いアリスのため息は、悪目立ちしてしまい、一斉に周囲の視線を集めていた。
ほおを赤らめるアリスを少し微笑みながら見ていたルウンを、ガインはこっそり殺気を放ちながら睨んでいた。




