〜覚醒の兆しというモノ〜
あたりが血の海になる、見なくてもわかる、ディータ博士の血だ。それでもルウンはディータ博士の方を見ることができない
「デスライン…お前生物かよ…」
「それはこちらのセリフだ」
デスラインは先ほどまでハンマーを顔面に埋め込ませていた跡など微塵も残しておらず、大きさは1,2メートルくらいになっており、ハンマーの大きさは頭だけでデスラインの身長を超えており、柄まで合わせると2メートルはゆうに超えていた。そしてそれ以上に大きな『威圧』はルウンの放つそれさえも飲み込んだ、これはパラメータ上で一部では上回ってる可能性は0ではないが、総合的に見て確実に格上だということを意味している。
「しかし、まともな肉体を持っていたなら、先ほどの一撃はまずかったな、私の持つハンマーは破壊属性が付与されているからな、だがベースがスライムである以上破壊属性は無効化されるんだな」
「随分おしゃべりだな、冥土のみやげってやつか?」
「冥土?それはどこにあるんだ?まぁ…いい、私が…いや我輩が説明をした理由は、貴様が全力で戦闘に意識を向けさせるためだ、人間かどうかはさておき、理解できない事象があると、思考回路がその分磨耗され他のことに対しておろそかになってしまう、それでは我輩が楽しめないからな」
「大丈夫だ、そんな心配せずともすでにお前を倒す算段しか立ててない」
ルウンがそう返答すると表情のわからないデスラインの顔についている口らしきものがニヤリと歪んだ気がした。直後地面がはじける音とともの巨大なハンマーを持った小柄な体躯のどこにそんな力があるのか疑わしくなるほどの速度でルウンに殴りかかる、ハンマーの特性上頭の部分が重いため、ヘッドスピードも殴る方向も相手にとってテレフォンパンチとなってしまうが、デスラインのそれは予備動作と呼べる代物ではなく、初速から音速を超えている。横殴りに振るわれたそれはルウンの脇腹をめがけている、足元を気にしながらルウンは両手でハンマーの頭を受け止める。わずかにルウンの体が後退するが、さほどのダメージはない
「おかしいな、さっきも思ったが貴様、なぜ防御した腕が破壊されない」
「さぁな」
ルウンはそう答えたが、アリスはなんとなくわかっていた、デスラインのいう破壊属性というのは魔力由来のもので、相手が持つ魔力に強制的に指令を出し内部から破壊させるのだろう、そうなればもちろんルウンには魔力がないのだから効果は現れないのは当然だ…それよりもアリスが気になったのは、答えを知ってはぐらかそうとしたのではなく、本当に結論に至ってない表情、声でルウンがデスラインに答えたからだ。
ルウンなら間違いなく、自分の至った答えを持っているはずだとアリスは思っていた
その先はアリスの目では追えない速度で戦闘が繰り広げられていた
ルウンの拳はハンマーの柄で防御されるが、衝撃を緩衝しきれ無かった分だけデスラインの体に亀裂のようなものが入りその亀裂はすぐに修復される、デスラインのハンマーの攻撃も受け止められて、破壊属性も無効化できるとはいえ、衝撃はルウンの体に蓄積されていった。
ダメージの総量はルウンが増していくばかりで、デスラインはほとんど無傷だ。その差は徐々にルウンの動きを鈍らせていき、ついにハンマーの一撃はルウンの左肩に直撃した。
ディータの頭部を一撃で吹き飛ばしたハンマーの攻撃をもろに受けにもかかわらず、ちぎれなかったのは破壊属性が効果を示さなかったことも要因の一つではあるが、最大のものとしてはルウンの体の防御力にあったと言える、しかしダメージは今までの比ではなく左腕が動かなくなっていた
「いっ!!!くそ…てめぇ…俺の俺の俺の俺の俺の俺のおおおおおおおおお」
ルウンの白眼が充血し真っ赤になる、瞳だけが黄金に輝き大きく開かれた口からは辺りを振動させる咆哮を放つ。そして残っている右腕を引き左足を前に出しストレートを放つ構えをとる、一瞬高まった『威圧』はデスラインのものを上回り、刹那の間ではあったが動きを止めた。その隙を逃さないルウンの拳はたやすくデスラインの腹部へ命中し辺りに散らせた。
「くっくっく、その力には恐れ入ったが我輩は、スライムだいくら…はがぁっ!!!!貴様!核を!!!」
ルウンは一切の声を出すことなく、慈悲をかけることもなく、核を握りつぶした
「この体はもう無理か、だが代わりに貴様の体をもらう!!」
核を握りつぶしたまま動かないルウンに核から出てきた赤黒い液体がルウンの傷口からニュルンっと入っていった。
「ごはっ!!」
ルウンが苦しそうに叫ぶ、黄金に輝く瞳が明滅し動かせる右手は額の上部を抑え呻く
「ルウン!!ルウン!!大丈夫!?」
慌てて駆け寄るアリスは、なぜか泥だらけになっており、ルウンに向かって回復魔法を行使する。先刻ルウンには魔力がなく、対象の持つ魔力に働き変える魔法の効果は皆無だとわかっているアリスは、自分の常時発動させている魔法を全て解除して魔法に使う魔力とルウンに強制的に流し込む魔力とに分けて、一時的にルウンに回復魔法の効果を得られるようにした。そしてより効果を高めるためにアリスは上の服を脱ぎ素肌を晒してルウンに抱きつく。
魔力というものは全身から溢れる生命エネルギーのようなもの、ただそれがないからといって死ぬわけでもないが、魔力には指向性を持たせられるとはいえ完全に制御できるのは仙人クラス以上だけである、アリスもそこそこ魔力の制御はできるのだが、完全ではないため、今回のように魔力を分け与えるとなれば、全身を使って密着する方が効率はいいのだ。
「んっ…んん…」
アリスが小さく呻く、その声はとても色っぽく、苦しむルウンの耳にも聞こえているようで、わずかに感情が高ぶってしまう、だがそれのおかげで思考に余裕が生まれ現状を把握するために頭を働かせる…が何も考えらえれない。
「体が俺の体が俺じゃないみたいだ…」
(くっくっく…あとは脳さえ支配してしまえば…)
「ぐ…やめろ…俺の体を…かえ…せ」
(これでおわ…あれ?)
「あれ?ってなんだ…よ…ん?体が動く…」
「ルウン?だい…じょう…ぶ…」
魔力の使い過ぎのせいかアリスはその場に倒れてしまう。ルウンは泥に沈むのを防ぐためにアリスの体を抱き起こし、露わになった胸を3秒ほど凝視してしまってから慌てて『蜘蛛糸』で服を作ってやり被せた。
「ふう…いやぁさすがの俺も死ぬかと思った」
「え!!?」
声がした方を振り返ると、どこには頭を吹き飛ばされ、腕がなくなり血にまみれたディータ博士の姿があった。




