〜強者というモノ〜
デスラインが長身を活かしてジャンプしながら、大きく振りかぶってハンマーを振り下ろす。ハンマーの頭が一瞬にして音速を超え、ソニックウェーブを起こし体重の軽いアリスは吹き飛ばされ、小柄なルウンも吹き飛ばされそうになったが、泥に足を取られていたのが幸いし耐えることができた。その中で唯一動けたのはディータ博士であり、彼はすでにオーガヴァージョンとなっていた。
「前にあった時と同じに思わないことだ、貴様の動きはすでに研究済み、ハンマーの威力も俺の予想を超えることはない」
ハンマーの頭に近い柄の部分を、3割り増しくらいになったディータ博士の手が掴んでいた。
「なるほど、たしかに前よりは強くなっているようですが…これならどうでしょう?」
そう言うとデスラインの体が小さくなり、それに相対してハンマーが大きくなる。これはルウンの主観的に見た感じだが、デスラインの体の赤がより一層鮮やかさと濃さが増した気がした。
「これが50%。これでもくらえ」
今度は横薙ぎにするようにハンマーを振るう、今度はしっかり防御姿勢をとっていたアリスも、腕を組んで傍観していたルウンも飛ばされることなく、もちろんディータ博士はさっきとおなじ柄の部分を掴もうと試みるが、先ほどよりもスピードが上がったハンマーの速度についていけず、掴もうとした右腕に直撃した。
ぶちっ
ディータ博士の右腕が引きちぎられ、血が飛び散る
「ぐぅ!!!ま、まさか…これが本当の力…俺の予想を超えるなんて」
「50%だと言ったでしょう?人間ごときに私のマックスを振るうなどという無駄なことするわけがない」
「予想外…予想外だ…予想を超えた事象…現象…どれもが愛おしい、俺に…俺に答えを、答えおおおおおお!!」
ディータ博士はポケットから3粒のDNAタブレットを取り出すと、それを全て口の中に含め飲み込んだ。
「俺の作り出した最強の組み合わせだ、これに勝る生物はいないと結果は出てるんだ」
ディータ博士の体は人間の体型をベースにオーガヴァージョンの時と同じように全身が毛むくじゃらになるが、その毛の色は淡い炎のようなオレンジ色で、目つきはキツネのように細くつり目になりわずかに見える瞳は、爬虫類のように楕円になっていた。爪や牙なんかは鋭く硬質なものへ変化していった。そして失われた右腕からは、新たに妙な茶色の鱗にまみれた右腕が生えてきた
「なかなか興味深い…お前の血が欲しくなった。」
再びハンマーの大きさが大きくなり、デスラインの体は1,5メートルくらいになり、色が濃くなった。…ルウンは感じた、おそらくディータ博士も同様に恐怖を感じたのか、オレンジに色づいた毛が逆立っている。体は小さくなっているのにもかかわらず、『威圧』がどんどんと強くなっていく、正直ルウンですら冷や汗をかいているのだから、アリスには相当厳しいものだろう、心配の念を込めてアリスの方へと視線を送ると、その視線に気づいたアリスがルウンに向けて優しく可憐に笑みを見せる。日常の中であれば、テンションが上がり興奮さえ覚えるワンシーンだが、今の状況となれば話が変わってくる
「アリス?なんで平気なんだよ」
思わず声を大きくして聞いてしまう。
「え?」
キョトンとした表情をするアリスに、ルウンは、特に心配する必要がないと判断し、視線は鋭くし、デスラインの方へと向ける。
「これで80%くらいだが、お前たちに耐えられるかな」
デスラインはハンマーを上に放り投げ、それに合わせて自身も高く飛ぶ、そして空中でキャッチすると、そのままの勢いでハンマーを振り落とす。その勢いは空気の摩擦で甲高い音を放ち、鼓膜に響く。その音の大きさと、デスラインが通り過ぎるだけで生まれる余波で木々がへし折れる。
ハンマーが地面、もしくはルウンたちの誰かに落ちた時の衝撃を想像し、なんらかの問題が発生すると感じたルウンは、ハンマーの落下地点に走りより、右腕でハンマーの面を受け止める。その時生まれた衝撃さえもルウンは殺してみせる。
「!!?お前…人間か?」
「みたいだな、自覚もないけど、でも悪魔を名乗るお前に人間かどうかなんて言われたくはない」
ルウンは空いている左手で拳を振り抜き、デスラインの腹部を殴る、しかしデスラインもハンマーを持っていた両手を離し、そのまま防御する。デスラインの体は数メートル後方へ吹き飛び、背中を木にぶつけ止まった。
「がはっ!!ぐぐぐ…こんな力…ありえない…だが…俺は」
「うるさい、黙って消えろ」
思いっきり持っていたハンマーをふるって、デスラインの顔面にめり込ませる。直後、デスラインの体はわずかに痙攣し力を失った。
「悪いなディータ、せっかく変身したのに活躍の場がなくて」
「いや、いいさ、このヴァージョンは自分じゃ解けないし、もしかしたらに度と解けないかもな」
毛むくじゃらのディータ博士は、そのまんまの姿で笑い出す
「さてさて、あのスライムもどきから遺伝子を引っ張り出すとするか…これでさらに俺は進化できるぜ…」
ディータ博士は白衣のポケットから試験管のようなものを取り出し、未だに顔面に顔の数倍あるハンマーをくっつけたままのデスラインに近づいていく。
ルウンもアリスの元へ近づいていき、ことが済んだ…二人は安心した表情を見せていた。
一番初めに気づいたのは、ディータ博士、次に感覚の何かに触れたルウン
アリスはディータ博士の頭が消し飛ぶまで何も感じられなかった。