〜スライムというモノ〜
道無き道を進んでいくと、時々妙に弾力のあるものを踏む。それを殴ると一部を残して吹き飛び、飛散したものは泥と同化してしまう。残った核的なものをナイフで刺して絶命させる。そして核の中から出てきた青い球体がスライムの核なのだ。
それを繰り返す、ずっと繰り返す、永遠と繰り返す
「ふぅ…こんなもんでいいかな?適当だけどもう3桁はいったよな?」
さすがに疲れを表情にみせて、身体中泥まみれになったルウンが、声にまで疲れを含ませる
「そう…ですね。もうスライムは当分見たくないです…」
『清潔者』の魔法によって汚れることが決してないアリスの声にも疲れが混じっていた
「じゃあ、これでディータ博士の任務は完了だな」
「そう…ですね…うわっまたスライムですよ」
このスライムの森に入って、初めて見た、というより踏みしめたスライムに可愛く悲鳴をあげていたアリスだったが、いまではリアクションは最低限となっていて、対するルウンも何かをいうよりも早く拳を振るおうとしたが、そのスライムの容姿を見て腕を止めてしまった。
この世界のスライムというのは、とても単純な魔物で、不純物が多量に含んだ水分が、死んだ魔物の核を合成し、その核を中心として独立する。そして触れたものの水分を少しずつ吸収し大きくなっていく。当然、人間にとっては害悪なモンスターでしかなく、呼吸を必要とする生物であれば、取り込まれた段階で窒息の危険があり、一人で討伐する場合のみ難易度はBランク、二人以上であればDランクになる。つまり、見かけたら問答無用で倒せばそこまで脅威ではないということなのだが、ルウンが殴ろうとした腕を止めた理由は、そのスライムの見た目が問題だった。
「ス、スライムじゃないか」
「い、今更何を言ってるんですか、ちょっと見た目は変ですけど、さっきから倒してるスライムですよ」
「その少し濃いめの水色に雫型のフォルム、間違いなく俺が知るスライムじゃないか!まさかこの世界にいるとは…」
いわゆるドラ◯エのスライムの見た目であったそれに、ルウンの興味が強まり無警戒に近づいてしまう
「なんだい、お前さんまさか、この世界の住民じゃないのか?」
「ス、スライムが喋った?」
ルウンの目の前にいたスライムは、もぞもぞ、ぐにゅぐにゅともがき出すと、わずかな時間で人の形になった。
「え?え?ディータ博士?」
「お、お?君はたしか…ガインの娘さんのええっと…そうだアリス君だったな」
喋り方は中年、しかしその姿は丸メガネにボサボサの薄茶色の髪、ちょびひげを生やし、全身は丈の長い白衣で包まれている。いかにもって感じの科学者だった。しかしそんなことよりも目を見張りたいのは、彼の腕につけているものだ
「なぁ、ディータ博士とやら、あんたよく考えなくも、転生者、もしくは異世界から来た人間だよな?」
動かなかったことで、ルウンの足はすでに長靴の丈を超えるほど泥に埋まっており、ディータ博士に近づこうとしたが、その泥の重みでルウンですら走ることができなかった。そんな光景を見てか、それとも思案しているないように面白みがあったのかは知らないが、ディータ博士はすこし頬を動かして、口元に笑みを作って見せた。
「うーん、君も別の世界から来たってことだよね。だが、俺がこの世界に来た時に言っていたが、同じ世界の人間は連れて行ってないと言っていたからなぁ」
「確かに自分も異世界から転生してきた。」
そうきっぱりと素性を明かすと、ディータ博士はすこし笑って見せ
「まぁそれはどうでもいいことだ、俺はただ探求したい意思で飲みこの世界にいるのだから。さて、先ほど君たちは、私の依頼でこのスライムの森にきていたと気いたのだが…」
「そ、その通りです!」
アリスはそう言ってディータに対し敬語を使い、ぎこちなく動きスライムの角の中身を取り出し、ディータに渡した。
「おお、こんなに…これで研究は進むよ…でもね今回はこんなんじゃダメなんだ。今回は君たちにとあるスライムを討伐して欲しいのです。」
先ほどまでのすこしふざけた雰囲気は、突如として霧散し、ディータ博士の声に反応したのはルウンだけであった。