〜勇者となるモノ〜
先制攻撃とばかりに地を蹴るゲイル、ルウンのそれとは対処的に静かに駆け出すその姿はルウンには忍者のように見えていた。ゲイルはある程度近づくと腰に差したあった短剣を両手で引き抜き二刀流となった。
途中で飛びゲイルの体が宙に浮く、蹴った力をそのまま推進力としてとてつもない速さでルウンに接近し右手に持った短剣はルウンの首を狙っていた
「それは良い手とは言えないよな」
短剣の側面に左手の甲を当てて威力をそらし懐に入って、右ストレートを放つ。それにギリギリで反応したゲイルは左手に持っていた短剣の柄で防御する。
「ほう」
関心したような声をあげたのはガインだ。今の攻防を見てルウンが使った技は、まさしく先のコロッセオでの試合でルウンの攻撃を受け流していたガインの技のコピーであった。
「ぐっ」
防御した短剣は疎かその先にあった腹部の金属鎧さえも破損してしまったゲイルは、小さく呻き声をあげた。さっき言った通りルウンの一撃は手加減などしておらず、それを防御した技術の高さもゲイルの体の耐久値も賞賛に価すると言える。
「どうした勇者なんだろお前、この程度でやられていいのかよ」
「貴様、貴様…これ以上俺を怒らせるなよ」
「お前だけが怒ってると思うなよ」
同時に地を蹴るが、爆音を響かせ地面にひび割れを起こすルウンと、静かに砂埃も上げないゲイルのスピードはほぼ互角であり、アリスの目からは瞬間移動に近いものであったが、それよりも速く、そして二人の力を完全に霧散させたのはぶつかり合う予定だった地点に立つガインだった。
「勝負に割り込んで悪かったな。だがここは俺の道場でもあるんだ、あまり壊されても困る」
「やっぱり、手加減してたんだな」
「ガ、ガイン様…申し訳ありません」
ジト目で睨むルウンと、謝罪をし顔を伏せつつ短剣をしまうゲイルはすでに冷めており、もう一度ことを構える気は無くなっていた。
「ルウン君、先ほど君は俺に教えを求めたね、それを受理しよう。そもそも俺はここで道場をやっているんだから拒むことでもなかったんだがね、あぁもちろん月謝は払ってもらうよ」
ガインはルウンに入門を許可するが、なんとなく月謝という言葉にアクセントが置かれていた気がする。
「当然教わるのだから、金は払うが…ガインさんは時期国王となるのだろう?そんなに金が必要なのか?」
まだ月謝の額を聞いていなかったがいくらであっても、何かしらの方法でお金を稼いで支払う気であったが、当然のように思ったことを口に出した。
「…ルウン君、世の中には武力だけじゃどうにもならん存在がいるんだよ」
その言葉とガインの表情で俺は転生前の記憶を思い出していた。ルウンに対して威圧的な態度を取っていた父が母に怒られている時ばかりは、相当萎縮して終始謝り続けていた父の表情は、まさに目の前で遠い目をしているガインと重なっていた。
「そうか…どの世界も女は強いということか…」
「前世の記憶のことですか?」
ルウンのつぶやきに静かに頷いたガインに対しアリスは疑問をルウンに投げかけたが、ガインのお前も大人になればわかるだろう、という言葉によってこの話題は流れていった。
「ゲイルよ、お前はそろそろ勇者としての修行に入る頃だろう、なぁに先のルウン君との戦闘に関していえば中々腕を上げたと見えた、お前なら修行を成し遂げた先には、俺を超える力を得れると信じているぞ」
「はっ!必ずや修行を成し遂げ勇者として魔王を倒せるだけの力を身につけてまいります。アリスさん、俺が帰ってくるまで待っててください」
その言葉を最後にゲイルは、ガインの道場を後にした
「へぇ…まぁ勇者もいれば魔王もいるか…ところで俺はこれからどうすればいいんだ?」
ルウンが発した質問に対して、ガインはアリスに視線で指示を送り
「ルウン、あなたは先ほどの試験でAAAに合格しました。これはその証明書になります。」
「AAAであれば、ほぼすべての任務を審査なしで受託することができる。まずはそこでAランクの任務を受けてくるといい、それが最初の課題っていうことで、Aランクの任務なら俺の道場の月謝数年分くらい稼げるから」
そう言われルウンは、来た時に壊してしまった扉が治っていることに少し驚きながら、アリスと一緒に道場…もとい訓練所を後にした