〜目が覚めたモノ〜
少し豪華な部屋、調度品が備え付けられ、気品さと清潔さが部屋の隅々にまで行き渡っている。
ルウンが目覚めると視線の先には、不安そうに覗き込む超絶美少女…つまりアリスが居たのだが、その表情に浮かべる不安は、ルウンの体調を気にするものと
「お父様が手加減しなくてごめんね」
「あれやっぱり、アリスの父親だったのか…強かったな。」
ルウンは、圧倒的な力を持つ自分に対抗できる存在がいるとは思っていなかった、しかしアリスの父親はルウンの攻撃を完全に受け流しその衝撃を殺していた。
「しかし、アリスの父親はどうなってんだ、俺と同じかそれ以上のパンチを放っていたが…」
「私のお父様は、次期王であると同時にハーチラス王国最強の拳闘士 ガイン=ハーチラス。本人の力は下級兵にも劣ると自分で言っていました」
「下級兵以下!?冗談にもほどがあるだろ」
「いえ、本当です。もし先の戦いでルウンと同等の力を発揮したのであれば、それはお父様の持つユニークスキル『収集家』の効果です。どんな物でも意思がなければ集めることが可能で、それはエネルギーも同様。それをまとめて放てば強力な一撃となるでしょう。」
なるほどな、とルウンは心の中で納得する。たしかに強力なスキルではあるが、多分上限がかなり低いのだろう、そのためガインはルウンの攻撃を受け流し小さなエネルギーを集めていたのだろう。ルウンの持つ力は、比喩ではなく城壁を砂糖菓子のように簡単に崩せる。そんな一撃を受け流す技術など到底身につけられる気がしない。
「それで?俺の試験はどうなったんだ?やっぱり負けちまったから、もう一回か?」
その言葉に対し、アリスが何かを言おうとした瞬間、部屋の扉が開かれた、そしてそこから顔を出したのは、先ほどまで噂していたガイン=ハーチラスそのひとだった。真っ白い大きなコートのような物を羽織って中の服とズボンは少し金糸で刺繍が施された見るからに高そうな見た目だった。
「お!もう目が覚めたのかルウン君」
戦闘中は殺気を全身から滲ませていたガイルだが、今はなんとなく近所のおじさんといった雰囲気だ、とてもじゃないが次期王の見た目ではない。
「いやぁすまんなぁ、娘のアリスを助けてくれた恩人だというのに、いやはや年頃の娘を持つ父親としては、男は全て敵に見えてしまってなぁ」
「なんとなく気持ちはわかりますが、正直強すぎです。」
ルウンがドラマなんかで目にする、彼氏を作った父親という存在は、たしかこんな感じのことを口にする人もいたなぁと思いながら、ガイルにルウンなりの称賛の言葉を上げるが、ガイルは
「いやいや、強いのはルウン君の方だよ。まぁたしかに動きは単純で、あれでは相当修行した者には様々な方法で倒されてしまうだろう。でも最後の一撃は素晴らしかった、攻撃自体はただのストレートだが、この俺にすら受け流せないものだったよ」
とガイルはズボンから、先程の戦闘で身につけていた手甲を取り出し、ルウンに渡してきた
「これは…ヒビですか?もしかして俺が…」
明らかに高級そうな手甲には修復が難しそうな深い亀裂が入っていた。ルウンはその傷を見てすぐに自分がつけた物だと理解したが、その物の価格がどの程度のものかわからないが、安くないことは一目瞭然でもしその弁償を求められれば、手持ちなどあるわけがないルウンは顔を青ざめさせた。
「いや、その手甲は替えがあるから問題ないのだが、おそらくハーチラス王国で作れる最も耐久値が高い金属で作られていた。その金属をここまで破損させたのだ、それも私が威力を削って…だ。ルウン君、君は一体何者なんだ?」
眼光だけ鋭いものを持たせたガインは、ルウンを目線で射すくめる勢いで睨む。
「俺はただの人間だ、偶然前世の記憶を持って、偶然生まれたところに、体を成長させてくれる巨大蜘蛛がいただけだ」
巨大蜘蛛…かとガインは呟いて去っていった