52話
最初は帝国側からという。
「ふむ、娘は今回は表彰式の時まで戻ってこぬのか」
「はっ、ご友人の帰郷に付き合っていきたいという手紙が届いております」
ギアス帝国の城にて、皇帝はその報告を聞いていた。
「・・・ならば、念のために監視をつけておけ。今は学園の生徒となってはいるが第3皇女である我が娘。この帝国を脅かそうとして狙われる可能性があるからな」
「わかりました」
皇帝は命令を下した後、自室の隠し部屋へと戻った。
「・・・・娘が心配だ。行く先は王国の東部にある山村、山賊とかに襲われぬだろうか、悪い男に引っかからぬであろうか」
うろうろ部屋の中を歩き回る皇帝の様子は、先ほどまでの尊厳などが吹き飛んでおりどこにでもいるような娘が心配な父親の顔をしていた。
「ああ、できればこの父が自ら娘に付き添いたい!!だが、儂はこの国の皇帝。そんな軽薄な行為はとれぬ!!娘よ!!父はここで無事を祈っておるぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
叫ぶ皇帝。一応ここは防音です。
なお、他の皇帝の娘息子は一応この夏の帰還は城に戻ってきているのである。
しかし、全員そろっての姿を見れないことが皇帝にとっては物凄く不安となるのであった
・・・一応、ルナはジャックのことを想っているし、そもそも適正者なので強いから襲われても返り討ちにする未来しか見えなかったが。
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「暇ですわね・・・」
「だろ、結構時間がかかるんだよね」
「ルナさんも退屈なのが村までの道のりさ」
「ぶっちゃけないもないのよねぇ」
「退屈」
ジャックたちは、現在故郷の村に戻るために朝早くから荷馬車で村に向かっていた。
安い定期便で、週に1度ぐらいしかないようなものなので、遅れないように全員しっかり集合して搭乗したのである。
他にも乗客がいたが、それぞれ武器を持っているので周りから見れば適正者だと見分けがついた。
なお、シロとクロは剣の姿のままである。着くまでこの姿のまま寝ているって・・・。
まあ、二人分の料金が安くなるようなものだしいいか。
「大体4時間ほどで着くんだけど、それまでが暇だしねぇ・・」
「シラタマは頭の上で寝ているしな」
スヤァと気持ちよさそうにシラタマがロイスの頭の上で寝ていた。少しづつ大きくなっているらしいが、全く分からん。
物凄く微妙な変化らしいし・・・・飼っている本人しかわからないみたいだしな。
ゴトゴトと揺れて、進んでいく。
3時間ほどたつと、山道に入りだした。
「このあたりから熊とかも出るみたいだけど・・」
「クラーケンの時のことを考えると可愛く見えるわよね・・」
リンのその言葉に全員うなずく。
野生動物よりも、モンスターの方が怖ろしく感じるのが適正者ならではの感覚らしい。
常人だと危険だけど、適正者だと相手の方が危険だからな・・・。
「山賊も出ますの?」
「いや、このあたりは出ないらしい。今まで一度も見たことがないし」
「ある意味この馬車で行くのも命がけみたいなものだけどね。盗賊とかも襲ってくることがあるらしいし」
適正者数人が搭乗している馬車に、山賊行為をする方が命がけなような気が・・・
と、周りの乗客が思ったが口に出さなかった。
そうこうしているうちに日が高く昇り、やっと村の入り口に着いた。
馬車を降り、村の中に入る。
「ここがジャックたちの故郷の村ですの・・・」
「結構よく寝ましたよ」
「田舎じゃのぅ」
シロとクロの二人も目が覚めたようである。
「おおう、ラルゼの坊主どもか」
「あ、村長」
家へ向かって歩いていると、ジャックはこの村の村長に会った。
麦わら帽子をかぶり、手ぬぐいを肩にかけ、はははと笑う爺ちゃん。
この村の皆の爺ちゃんこと村長さんであった。
「ラルゼ・・・ああ、ジャックの名字でしたわね」
ルナは一瞬この中の誰の名前かと思ったが、ジャックの本名がジャック=ラルゼと言うことを思い出した。
「ボンの坊主に、ゼンの娘、イタマナの娘と・・・あと誰じゃ?」
どうやら全員の名字で呼んでいるようで、一瞬誰が誰だかわからなくなった。
まあ、ロイス、カレン、リンの順番だとわかったが・・・・。
「ああ、村長は会うのは初めてだったな」
「わたくし、ルナ=ギアスと申しますの。以後お見知りおきを」
ルナが丁寧にお辞儀で名乗る。
「ほうほう、坊主たちの友人か」
村長はかっかっかっかと軽快に笑う。
ルナの名字が「ギアス」なのを聞いて、帝国の皇女だと気が付いていないようである。
まあ、今はそういうのは関係なしみたいな感じだからな・・・。
とにもかくにも、まずはジャックたちはそれぞれの我が家へと歩くのであった。
皇帝が壊れてきそうで怖い・・・・。
この人の親バカって不治の病レベルの重病である。最初は厳格な皇帝とかにしたかったけど、何処で作者はこの人の進む道を誤らせてしまったのだろうか・・・・・。




