38話
正直言って悩んだ。
翌日の午後の訓練中である。
今日の訓練はゴリアン教官はどうやら家族サービスとかでお休みをとったらしく、代わりの教官として学園長が自ら来た。
・・・・ゴリアン教官が結婚していたこと言驚いていたのはクラス全員であったが。
そして、案の定学園長の今日の訓練は厳しいものとなった。
「『痺れる霧』」
麻痺効果のある霧があたり一帯を覆った。どうやら雷系の魔法と水系の魔法が混じった混合魔法と呼ばれるようなものらしい。
「全員痺れているかしら?モンスターとの戦闘時には、こういったものがあるから今日はその状態で校庭30周よ」
(((((鬼かあんたは!!)))))
全員の心がそろった。
校庭は避難場所ともなっているため、かなり広いので大変だである。
しかも、麻痺状態で動くからものすごく身体がしんどくなった。
「妾たちには無効化じゃがのぅ」
シロとクロの二人が人の姿になったが、どうやらもともと聖剣・魔剣の二人には効果がない模様。
「シラタマも平気そうだしな」
ロイスが動きにくくなっているのを考慮してか、頭の上から降りて励ますようにぴょこぴょこロイスの周囲をはねていた。
「卵に麻痺効果って効くのか?」
「それはわからないのぅ?」
何とか全員こなした。30周もし終えたころには、校庭には入学式の時を思い出させるほど死屍累々となって倒れている人たちで広がっていた。
「では、今日はここまで!!ジャックとルナは今日の私の訓練は免除よ」
免除されたのは喜ぶべきことだが、すごい疲れた・・・・。
「・・・つ、疲れた・・・」
「息が、きつい、ですわ・・・」
「むちゃくちゃじゃないの・・・・」
「・・・」
全員息切れして倒れ込んでおり、カレンに関しては死体のようになっていた。
豊満なふくらみがつぶされてべちゃあとなっていたが、他の女子の面々が鋭い目線を走らせていたので怖かった。
「マスター、お水です」
「タオルじゃ」
「ありがとう、シロ、クロ」
休憩して回復を待ている時であった。
・・・ピキッ パキッ
「ん?」
何かが割れる音がした。
「し、シラタマの殻が!!」
ロイスのその叫びに全員が見ると、シラタマのあれだけ頑丈だった殻がひび割れていた。
いや、これは・・・・・
「孵化か?」
「まじでっつ!?」
どうやら孵化が始まったらしい。
コツン、ピキッ ミキッ ペキッ
少しづつだが、殻が割れて落ちていく。
そして、その中身が少しづつあらわになっていった。
ピキッ メキッ ・・・パッカーン!!
「ピヨッ‼︎」
卵の殻がついにはじけ飛び、中身がついに生まれた。鳴き声を上げ、元気な声が響き渡る。
謎だったシラタマの中身は・・・。
「え?」
その場にいた全員が目を丸くした。
卵の中から出てきたのは、小さな翼をパタパタ一生懸命動かす丸っこい白い鳥だった。
足がよく見ると3つあり、つぶらな黒い瞳で・・・・。
「か、可愛い・・・」
そのままパタパタ飛んで、ロイスの頭の上に乗り、そこに座ったのであった。
「ヤタガラスよ。それも、上位種の」
学園長はそういった。
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「ヤタガラス」
鳥系モンスター。足が三つあり、体色は黒く、5~6羽ほどの群れで攻撃してくる。モンスターにしては珍しく、防御と回復に関する魔法を扱う。その守りは鉄壁のごとく強固で、さらにいくら攻撃してもすぐに回復してしまい、また、その防御力を生かして体当たり攻撃を仕掛けてくるという厄介さを持つモンスターである。倒すには、回復魔法を使われる前に確実に一撃で仕留める必要がある。
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「色は本来黒色で体長ももっと大きいのだけれども、この子は白くて小さい。上位種の方にあたるのだけれども・・・・初めて確認したわね」
「ピヨヨ?」
学園長がまじまじと見ると、不思議そうに首をかしげるシラタマ。
「か、可愛いわね」
「モチみたい」
「ふわふわですわね」
女性陣には好評のようである。
ひとしきり撫でられた後、卵の時と同じようにロイスの頭の上にちょこんと座った。
「学園長、このモンスターの扱いは?」
「そうね・・・今は雛みたいなものだし、ロイスのことを親のように思っているし危険性はないわね。ペットみたいな扱いでいいと思うわ」
モンスターがペットって・・・・。
シラタマは眠くなったのか、そのままロイスの頭の上で目をつぶって寝始めた。
「エサはどうなるんですか?」
「人肉とかじゃないよな?」
「おそらくだけど、なんでも食べるんじゃないかしら。食堂でご飯を分けてあげるのがいいかもしれないわね」
今は雛の時期の様なものなので、とりあえず栄養を与えすぎなければ大丈夫らしい。
「とにかく、きちんと世話をしてあげた方が良いわね。さぼったら焼き鳥にするわよ」
「世話します!!」
学園長のその一言に恐怖したのかロイスはしっかり世話をすることに決めたようであった。
そのロイスの上で、シラタマは気持ちよさそうにすやすや寝ているのであった・・・・。
可愛いな。
防御と回復に優れているということは、大剣を扱うロイスは一撃一撃の隙があるのでそこを補えるモンスターとして最適である。
まあ、孵化したてだし当分は学園のプチアイドルとして目立つだろう。
「そうだわ、ロイスも私の訓練に入れるわよ」
「え!?」
・・・どうやらそのコンビネーションの訓練を受けさせられるようであった。




