31話
ちょっと長話
ルナに骨を折られて治療のためにジャックが入院して数日、エーラン学園の寮の女湯にルナは浸かっていた。
「はふぅ・・・帝国の城よりは狭いですけど、なかなかいい湯ですわ・・」
「この寮って、お風呂の方に力が入れられているようだしね~」
「風呂重視」
この時間、ちょうどルナ以外にもリンとカレンも入浴していた。
女湯なのでシロとクロも入浴することができるだろうが、今はジャックの入院中の世話をしているのでこの場にはいなかった。
「帝国の風呂は広いですけど、その分あまり熱くなくて・・・」
ルナはこの寮の風呂の様にやや熱めの方が好きなのである。
「にしても、数日前にデュラハンに襲われたというのにもうすっかり元気よねぇ・・・胸も大きいし」
ジト目でルナの胸元とカレンの胸元を見た後、己の育たぬ胸を見ながらカレンは言った。
「確かに殺されかけましたけど、ジャックが助けてくれたのですわ」
「正直、あの時は私たちも心配した」
「戻ってきたと思ったら二人ともすぐに気絶したしねー」
思い出すかのように、それぞれ目をつぶりながら言う。
「ですけど、わたくしのせいでジャックが入院する羽目になるなんて・・・」
「抱きしめてへし折ったからでしょ!!」
「適正者の身体能力を忘れないでほしい」
よよよと涙を拭く仕草をするルナに、リンとカレンはツッコミを入れた。
全治一週間ほどらしいが、それでもまだいい方である。
これが適正者ではなく常人だったら全身完全骨折レベルであろう。水晶の儀により、適正者の身体能力はそこまで跳ね上がっているのである。
「命の恩人をひどい目に合わせてしまうなんて、第3皇女としても適正者としても失格ですわ・・・」
落ち込むルナの様子を見て、リンとカレンはルナがジャックのことをただの命の恩人として見ていないことに女の勘で気が付いた。
「もしかしてさ、ルナってジャックに惚れた?」
「ほっ、ほれ、ほれっ!?」
リンがふざけた口調で聞くと、ルナは明らかにしどろもどろとなり、顔を真っ赤にさせて頭から湯気が噴き出した。
その様子から、リンとカレンは確信した。
(惚れているわね・・・面白そうだわ)
(・・・ジャックは昔から天然なところがあるから)
内心、面白いことになりそうだと二人はニヤニヤしながらその様子を見るのであった。
なお、後日ジャックが完治して学園に戻ってきた後、学園長から二人そろって勝手にモンスターとの戦闘をしたというペナルティで、二人そろって学園長の訓練(以前と比較10倍以上厳しく)を喰らわされたというのは言うまでもない。
帝国の第3皇女にこんなことして良いのかという声も上がったが、帝国側からは学園長の実力を知っているのでルナが強くなるなら良いやとかいう軽い返事が来て黙認されたらしい。
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同時刻、とある場所にてある集団の集会が行われていた。
「では、聖剣持ちが現れたのだな?」
「はい、各国が今集めている情報の中にそう記述されている報告がありました。魔王様の証でもある魔剣も所持しているようですが・・・」
「我らが今でも崇拝する魔王様でもあり、憎き勇者でもあるか・・」
全員、フードを深くかぶっていて表情などは見えにくかったが、誰しも困惑した表情を浮かべていた。
彼らが話しているのは、聖剣・魔剣所持の適正者・・・ジャックのことについてであった。
「魔剣を所持するなら魔王様の生まれ変わりであることは間違いない。しかし、聖剣も所持するとなると・・・」
「勇者の生まれ変わりの可能性もあるのか・・」
「その所持所は人間ですが、素質的には魔王様に近いとも・・・」
「むう、ややこしいことになっているようだな・・・」
彼らは魔王を崇拝する集団。狂信的な信者のようなものと言ってもよかった。構成員は魔族の中で、人間を嫌う者たちである。
「聖剣持ちなので、勇者を崇拝する方からも目をつけられているようです」
もちろん、その反対の集団もいた。
「あちらに勇者として掲げられるとこちらの存亡が危ぶまれるな・・・」
「魔王様として掲げたらどうだ?」
「いや、まだその人物はどちらでもないようだ。下手にこちらから動けば先にこちらがつぶされる可能性がある」
そもそも、ジャックは今学園の生徒だ。ここで無理にでも動けば学園の、彼らが「裏切り者」と呼ぶ魔族の学園長が動き出すことが目に見えていた。
「人間側に着く魔族とは言語道断。だが、強いしな・・・」
「魔法の扱いに長けたハイエルフだが、その中でも攻撃系の魔法に特化しているようなものだからな・・・」
学園長の存在が、彼らにとっては邪魔であった。
「だが、一度暗殺者を仕向けた際に丁寧にリボンで包んで送り返されてきたからな・・・」
「しかも、なぜか全裸の状態にして・・・気持ち悪かった」
「それは皆同意だ」
その時に雇った暗殺者は、おっさんだったので気持ち悪さしかなかった。
「・・・そうだ、学園長を狙うからいけないんだ」
「何かいい案でも?」
「暗殺者などだと学園長に歩き方などで気が付かれてしまう。だが、あくまで学園長は適正者の通う学園の一介の学園長にすぎん」
「どういうことだ?」
その言葉の意味を分かりかねた一人は尋ねた。
「要は、生徒の意思は生徒に任せるしかない・・・ならば、魔剣持ちを我々に引き込めるように工作員を送ればいいのでは?」
「工作員・・・色仕掛けか?」
その言葉に周囲はいい案だとおもった。昔から人を引き込むには「金と女と権力」だと決まっている。
「まあ、そうなるかもな。ただ、そう簡単に動くとは思えん。魔剣・聖剣共に人の姿をとるようだが、どちらも美少女と聞く。魔王様の日記にも魔剣が姿をとるとあった。それに、今学園には帝国の第3皇女が留学中で、どうやら魔王様らしき人物に懸想をしているようだ」
「ふむ、生半可なことでは動かせぬか・・・選ぶ必要があるな」
「見た目も必要ですが、中身も大事でしょうからね・・・さすがに頭の中身空っぽのような人は嫌でしょうし」
「それは全員嫌だと思うぞ」
ともかく、引き込むために必要な人材を選考するには時間がかかりそうだということで今回の集まりを終えたのであった。
なお、正反対の集団の方でも似たようなことが決められていたという・・・・。
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「ぶえっくしょい!!」
「マスター、寒いのですか?」
「毛布ならここにあるのじゃ」
「いや、なーんか今悪寒が」
病院にてベッドで寝ていたジャックは、何かしらのいやな予感を抱くのであった。
「学園長が何かろくでもないことでも決めたのかな・・・・?」
あながち間違っていない予感であったが。
この章はここまでかな?次回から新章?




