30話
ちょっと主人公不幸かも
ジャックがルナに抱きつかれて病院送りになっていた頃である。
学園長は、今回のモンスター首都内に侵入についての報告を城の会議室にて行っていた。
「以上が、今回のモンスターについての報告です」
その報告を聞いた国王含む会議室にいた人たちは重々しい表情を浮かべた。
「モンスターの中でも強力なデュラハンか」
「しかも、通常4〜5体ほどしか出現しないはすが、今回は20体もでありんすか」
「そのうち一体が上位種のデュラハン・クリムゾンだったのか・・・」
それがどれだけ危険な存在かは皆知っていた。
「なお、聖剣・魔剣所持者が第3皇女を避難させる際に通常種一体と上位種一体との交戦をしたようです。ただ、本人は実力不足だとわかっていたようで、いずれも一撃を加えた後で第3皇女を連れて戦線離脱をしています」
「一撃だけか」
「ですが、通常種の方は馬の前足を切り落として落馬させ身動きをとりにくくさせ、上位種の方は第3皇女を連れて逃げるためにわざと軽く吹っ飛ばされたようです。自覚はないようですが、それなりに戦闘に対する素早い判断ができています」
「逃げるために吹っ飛ばされるか・・・かなりの度胸がいるな」
「失敗すると、真っ二つになるでありんすからね」
ジャックが行ったことは簡単そうに聞こえて簡単ではない。
その場にいた全員はしっかりとその事実を理解できていた。
「しかし、今回の第3皇女の留学時に帝国側に聖剣・魔剣の情報が伝わりましたが依然として動きなし。むしろ、今回の第3皇女を連れて避難した功績により表彰するようです」
「むしろこっちが表彰してやりたいな」
「皇女が死にでもしたらそれをネタに開戦を仕掛けてきそうでしたからね」
「だけど、帝国よりも今回のモンスターの件が今は重要でありんす」
モンスターについては未だにわかっていないことが多い。
だが、今回のデュラハンは数が明らかにいつもよりも多かったのが問題なのだ。
「20体もの群れなら流石に早期発見ができそうなものだが・・・」
「調べによると、出現確認地点は首都近くの森だそうです。そこで生まれたものだと思われます」
「我々の居住している近くか・・・まさか首都内にいきなり生まれてこないよな?」
「可能性はゼロではありません。モンスターはどこにでも出現しますから」
「だが、今回のは数が多すぎるでありんす」
と、ここで一人が発言した。
「気になってしらべてみたのだが、水晶の儀から半月ほどの間に普段とは出現しているモンスターが変化しているようだ。この時期ならデュラハンよりもオークなどが現れるはず」
「では、聖剣・魔剣所持者が現れてからモンスターも何か変化があったのだと仰りたいのですか?」
「勇者と魔王がいた時期が一番モンスターの数が激しかったそうだ。その二人が所持していた聖剣・魔剣の所持者が現れてからモンスターにも変化があった」
「何か関係性があるのだと言いたいのか?」
「はい、予想ですが聖剣・魔剣所持者が現れるのはモンスターに何か変化が起こる兆候を出しているのではないかと」
「ふむ、いわばモンスター警報機みたいなものか」
聖剣・魔剣所持者が現れる=モンスターに警戒すべきという知らせ。
その考えはあっているような気がした。
と、誰かが会議室に入ってきて、学園長に耳打ちした。
「何?」
「どうしたんでありんすか?」
学園長の表情がまた何か厄介ごとがきたのかというような表情をしたので、その場にいた全員は何があったのかと気になった。
「いえ、聖剣・魔剣所持者が入院したようです。原因は・・・謝っていた第3皇女に抱きしめられて力が強すぎて骨が折れたようです。回復魔法があるのですが、骨折具合からして完治には一週間ほどの様です」
会議室にいた全員はその報告にずっこけた。
「・・・抱きしめられて骨折って」
「青春でありんすなぁ」
「いや、骨折のどこが青春?」
なんか頷いている人はほっておいて。
「もしや、第3皇女は聖剣・魔剣所持者に恋したとか?」
「ありえますな。つり橋効果みたいなものが働いて、というのが世の中ありますからな」
「それはそれで厄介じゃないか?第3皇女と聖剣・魔剣所持者がくっついたら帝国に自然と流れることになる」
第3皇女自身には自覚はないだろうが、そうなる可能性は高かった。
「帝国側とすればくっつけて連れて来てくれば儲けですね」
「帝国側の戦力が増える可能性があるのか・・・」
今、軍事的な部分が強く見える帝国だ。
聖剣・魔剣は強力な武器と言われている。
その所持者が帝国にくればより軍事的な部分が強くなるだろう。
「しかし、色恋沙汰は本人たちの心次第。こちらからは口出しができん」
「駆け落ちみたいになったら目も当てられないでありんすな。・・・いや、それはそれで甘酸っぱくていいでありんす」
「シャレにならないと思うのだが・・・」
というか、ここで全員気がつく。聖剣・魔剣所持者は男性。
つまり、他国からの色仕掛けでこの国から出て行ってしまう可能性だってあるのだ。
「そんなホイホイついていくほど軽薄な子ではないと思いますけどね」
その可能性に、学園長は苦笑いを浮かべる。
そもそも、聖剣・魔剣のシロとクロの人の姿だってかなりのものだ。
手出しをしていないところを見ると、理性がしっかりしているのだろう。
(極限状態になったりしたらわからないけど、それはそれで・・・。まあ、今回の事件では結構頑張ったようだけど、ちょっとばかし残念な点があったからね・・・完治した後に訓練の内容を今までの2倍、3倍に引き上げようかしらね?)
学園長はそう心で思った・・・・。
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「ひぃっ!?」
「どうしたんですかマスター?」
「いや、今確実に学園長に殺されそうな寒気がしたんだけど・・・・・」
「・・・・訓練ですかね?」
「訓練で殺されかけるかのぅ?」
学園長の訓練激化決定。
一方、他国では聖剣・魔剣を所持するジャックの存在に気が付きはじめ・・・




